年のわりには大人びた少女テスは、
両親の会話を盗み聞きしていました。
弟のアンドリューについての話です。



アンドリューの病気がかなり重く、
我が家には治療費がないという話でした。
パパは家賃も払えなくなり、来月からは
スラム街のアパートへ引っ越す予定です。



弟の病気を治すには、大きな病院へ移り、
お金をたくさん払って手術を受けなければなりません。
でも、そんな大金を貸してくれる人なんてどこにもいません。




パパが言いました。

「アンドリューは奇跡でも起こらない限り、助からない…」




テスは急いで部屋へ戻り、タンスの中に隠してあった
ガラスの貯金箱を取り出しました。
お金を数えてみると1ドル11セントあります。
貯金箱を抱え、テスは裏口からそ~っと家を抜け出しました。



テスは走りました。
いくつもいくつも、バス停を超えてゆきました。
そして、やっと、赤いインディアンの絵が描かれた
「レクセルさんの薬局」が見えてきました。



テスは息を切らしながら薬局に入りました。
レクセルさんはテスに気がつきません。
レクセルさんは、誰かと話していて忙しそうです。
床を足で蹴ってみたり、咳払いをしてみました。
それでも、レクセルさんは全くテスに気がつきません。



もう、待ちきれません。
テスは、カウンターの上に貯金箱のお金を勢いよくばらまきました。

やっとレクセルさんがテスに気づきました。



「やぁ どうしたんだい?
今、シカゴから来られた大事なお客様と話をしているところなんだ。
後にしてもらえるかい?」



待つことなんてできません。
テスは、せきを切ったように話し始めました。


「弟が大変なの。
弟は奇跡がないと死んじゃうの。
だから、奇跡を売ってください!」


「なんだって?」


「弟の名前はアンドリュー。
頭の中で変なものが大きくなってるんだって。
パパは奇跡だけが弟の命を救えるって言ってたわ。
だから、奇跡を買いにここまで走ってきたの。
その奇跡っていくらですか?」




レクセルさんは悲しい声で言いました。
「すまないけど、おじさんじゃ君を助けてあげられないよ。」




「待ってください!
わたし、奇跡を買うお金を持ってきたわ!
ほら!これを見て!お金が足りないなら、また、持ってくるから、
値段を教えてください!」






その時、シカゴから来たお客さんが、
ゆっくりとテスの方へ近づいてきました。
彼は身をかがめてテスにたずねました。



「きみの弟には、どんな奇跡が必要なんだい?」



「わかりません。

ママが言ってたの。

弟は病気だから手術をしなければ死んじゃうって。

パパにはもうお金がないから、私のお金を使おうと思うの。」





「そう、それでいくら持ってきたの?」





「1ドル11セントです。

今はこのお金が全部です。

でも、足りないなら、もっと持ってきます。」




シカゴから来たお客さんは微笑みながら言いました。

「これは、本当に思いもよらない偶然だね。

弟さんの奇跡は、ちょうどぴったり1ドル11セントなんだよ。」




「君のお家へ行こうか。

弟とパパとママに会ってみたい。

僕の持ってる奇跡が、君の欲しい奇跡と

同じものなのか見てみないとね。」






この「シカゴからのお客様」は世界的に有名な
神経専門医のカルトン・アムストロング博士でした。


その手術は1ドル11セントで行われ、
アンドリューは今も元気に生きています。









「心が動く成功者からのメッセージ」より