どこに行く?

そう問われたものだから、私は
「海。」
と言った。


あなたが大好きだと言った海。
あなたが私に見せたいと言った海。
あなたと見たかった海。

誰と見るかなんて、もう問題でも何でもなくて、
ただあなたが大好きな海を
ただ見たいと思ったんだ。

あなたが好きな海を、私も好きだと思うだろうから。

海の匂いや、風や、音を感じてみたかった。
あなたも感じたように。

いつか行くかもしれないし、一生行かないかもしれない。

ただ、あなたがこの海を愛しているということと
あなたと違う誰かと行く、というのは確か。
けれど、あなたと同じ海を感じることはできるんだ。
そして私もその海を愛おしく思うんだよ。きっと。


結局海には行かなかった。
「海に行きたい。」
って、半分は冗談で、もう半分は本気だったけれど。
冗談半分に受け取られて、それで済んだけどね。
行けなくて残念だって思ったけれど、ちょっぴりホッとしたよ。
どうしてかな…。


今でも海はそこにある。
私があなたを愛した証拠であるかのように、在り続けるんだ。

その海をあなたが愛していた、
あなたのその思いを
私は忘れることはない。