しかし、人工知能は本当に画期技術といえるのでしょうか?
『社会を変える』技術の具体的基準とは、一体何でしょうか?
それは、①新しい技術分野を|拓《ひら》く新規性と、
②多くの在来技術の生産性を高める多能性だと思います。

画期技術と似た言葉に|汎用《はんよう》技術がありますが、
汎用技術はより具体的で数が多いので、
画期技術は汎用技術の中でも新規性が高く、
より強力なものといえると思います。

ここではAIを、農耕・動力機関・電算という
他の画期技術と比較して、
8つの視点から新規性・多能性を考えてみました。
(5) が多能性、その他が新規性の視点になります。

(1) 本質
農耕 …… 体外物質の利用
動力 …… 体外エネルギーの利用
電算 …… 体外情報の利用(記録 ・演算・通信)
AI …… 体外知性の利用(思考)

(2) 直接的産物
農耕 …… 農地・牧場による食料の増産
動力 …… 動力機械による製品の増産
電算 ……| 電算組織《コンピュータ・システム》による情報の増産
AI …… 自動最適化|演算指示《ソフトウエア》による創意の増産

(3) 人々の生活への効果
農耕 …… 安定的な定住化
動力 …… 物品の生産・輸送の大量高速化
電算 …… 人間による機械操作や社会活動の効率化
AI …… 判断を伴う作業や技術開発・政策立案も含む、
人的(知的)|役務《サービス》の代行支援

(4) 経済・社会活動全体への影響
農耕 …… 食料確保による安定化
動力 …… 物品供給による豊富化
電算 …… 定型的情報処理による利便(効率)化
AI ……創造的情報処理による環境親和(持続可能)化

(5) 在来技術への貢献
農耕 …… 金属器、狩猟・採集技術の改良など
動力 …… 動力漁船、農業機械など
電算 …… スマート農業、産業ロボットなど
AI …… 遺伝子操作、|知能《インテリジェント》ロボット、
自己学習型の| 電算組織《コンピュータ・システム》など

(6) 必要な実現技術
農耕 …… 土建、冶金、器械など
動力 …… 機械、化学、電気など
電算 …… 電子、ソフトウエア、光工学など
AI ……より高度な演算・記憶・通信・入出力技術
(量子頭脳や|IoT《インターネット・オブ・シングス》、|XR《クロス・リアリティー》)、
|応用情報科学《インフォマティクス》(|生物医学情報学《バイオメディカルインフォマティクス》や|化学情報学《ケモインフマティクス》、|材料情報工学《マテリアルズインフォマティクス》)など

(7) 制度・政策への影響
農耕~動力 …… 技術的政策の時代
(富の生産・安全のための、開発や国防を行う国家が生まれる)
動力~電算 …… 経済・社会政策の時代 
(富の分配・投資のための、社会保障や産業振興の比重が増す)
電算~AI以降 …… 人的資源政策・行政管理政策の時代
(地球環境の限界到達や社会活動の複雑加速化、
人々や制度の淘汰による代償を低減する必要性から、
安価・安全・根本的な方法による、
人間自身の向上・支援や活用・参画が重要になる)
※以上は長期的な影響であり、短期的には、
どの画期技術も政策をより広域化・分権化させます。

(8) 文明への影響
農耕 …… 文明の成立
動力 …… 文明の世界的拡大
電算 …… 地球的限界への到達による衝撃の緩和
AI …… 惑星上における持続可能性の確保

以上のように見てみると、
やはりAIは農耕・ 動力機関 ・ 電算のように
新たな文明段階を|拓《ひら》く画期技術として、
必要な条件を備えていると思います。

画期技術はいずれも、田畑や|原動機《エンジン》、集積回路、
自動最適化ソフトといった単体では非力なのですが、
土建や電機、|電算通信網《インターネット》、|応用情報科学《インフォマティクス》を初めとする
多くの実現技術を通じて、時代を変える力を発揮します。