〝可愛い天使は異星人(エイリアン)!? !? 〟
美麗イラストも増量で、〝大人の絵本〟に大変身 !
次の作品に感動し、書きました。
イラスト:
『図書館』 https://www.pixiv.net/artworks/84497898
『天使』 https://www.pixiv.net/artworks/76633286
『レミリアお嬢様のお散歩』 https://www.pixiv.net/artworks/84842772
『香霖堂』 https://www.pixiv.net/artworks/86091307
動画:
『Agape』 https://www.youtube.com/watch?v=A5K3wo5aYPc&list=RDA5K3wo5aYPc&start_radio=1
奇想譚から文明論まで湧き出すような、
素敵な刺激を与えてくれる文化的作品に感謝します 。
神や悪魔は人間自身の理想像や拡大像といえましょう。
特に悪魔は災害や疫病、戦争などの象徴でもありました。
しかし今、私達は神魔の如き技術の力を持ち、
様々な厄災も自己責任となりつつあります。
どうせなるなら人間は〝責任ある神々〟となって、
自らを救うべし(Y.N.ハラリ)とも言われます。
不安定な農耕社会の物語は、混沌(カオス)の要素を含みました。
豊かだが画一的な工業社会では、明快な勧善懲悪が好まれました。
情報に富んだ情報社会では、是々非々の評価が可能になりました。
人智を越えた最適化も可能になるAI時代の神話は、
人の心の内なる天使の独善を戒め、悪魔をも改心させ、
全てを活かして生き抜く物語なのかもしれません。
日本には、 『泣いた赤鬼』 という物語もあります。
その絵本を読んで、鬼さん達にも笑って欲しいと思いました。
後には漫画 『デビルマン』 やSF 『幼年期の終わり』 を読んで、
人類文明の未来についても考えるようにもなりました。
そこで得た発想が、この作品につながっていると思います。
ご興味がおありの方は 『Lucifer』 シリーズ他作品や、
エッセイ 『文明の星』 シリーズもご覧いただけましたら幸いです 。
『 カクヨム 』 『 小説家になろう 』 『 エブリスタ 』 『 pixiv 』
『 NOVEL DAYS 』 『 アルファポリス 』 『 ハーメルン 』
に投稿しています 。
『天使』
当時私は図書館員だったが、その日は休館期間中で、
返却された本の整理のために一人で出勤していた。
だから、誰もいないはずの館内を見回っている時、
いきなり不審者と出くわした私は、腰が抜けるほど驚いた。
思わず「うわっ!」と叫んでしまったが、
よく見るとまるでアニメから抜け出して来たかのような、
可愛い天使の姿をした女の子だ。
「ひゃあ! ……わわっ、私は怪しい者ではありません!」
夢中で本を読んでいたらしく、 彼女も負けずに驚いたが、
とはいえやっぱり、いかにも怪しい(笑)。
「いや、でもこんな所でそのかっこう……」
「ああこれですね、じゃあこうすれば?」
白い衣装や双翼がちらちらと|瞬《またた》く光を発したかと思うと、
よく街で見かけるような服装に変わった。
「おおっと天使様が……こりゃあ凄い!」
オカルトに興味がある私はまず、話を聞いてみることにした。
「今の変身、何らかの地球外技術では?」
そしてSFには、もっと興味がある。
「ああ、そういう方なら話が早い! 実は私、宇宙人でして」
確かに私は、どんな方だと言われても文句はいえない
純度100%、混じりっけなしの中二病オタクである。
だけど貴方の|奇抜《きばつ》さも相当です、と私は言いたい(笑)。
「ではなぜ宇宙人が、こんなところに?」
「仲間と、はぐれてしまったんです。
母国で大規模な内戦が起きてしまい、
敵の襲撃を避けるために本隊は避難しました。
地上にいた私だけが取り残されて……」
涙目になった。 これは何だか、大変そうだ。
「母国って、どこから来たの?」
「銀河帝国です。 銀河系全体で、数十万の種族がいます。
|姿形《すがたかたち》はもとより、生活様式や発展度、構成元素まで違う
知的種族の大集団を、治めているんです」
全銀河系って、デカすぎでしょ(泣)!
でも君主制かあ……宇宙は広いから、
まとめていくのも大変なんだろうな。
「地球は大丈夫かな? 巻き添えとか……」
「すぐに影響が及ぶことは、ないでしょう。
でも状況次第では、帝国との公式接触が早まるとか、
どこが勝つかで将来の関係が変わるとか、
そういったことはあるかと思います」
まあ私達は今のところ、恒星間航行もできないから、
少なくとも脅威とは見なされないだろうね。
「貴方が地球に来た目的は? もしや侵略とか、監視とか?」
「いえいえとんでもない! 文明発展度の調査です。
私達は皆さんが大昔に文明化を始めた頃から、
|陰《かげ》ながらお助けしてきたんですよ!」
ずいぶん古いな! 〝古代の宇宙人〟ってやつなのか?
「昔の先輩達は、神様や悪魔を演じながら、
当時の人達を支援したそうです」
それでさっきのコスプレか……時代か場所を間違えたな。
「でも、フェルミ・パラドックスって聞いたことある?」
「色々と頑張って探しても、宇宙人らしい
電波信号とかがないってお話ですよね?
ごめんなさい、私達が隠していたんです。
先進種族がその……発展途上種族といきなり交流すると、
過剰依存や士気低下、先進技術の誤用の危険があるので」
君が謝る必要は、ないけどね。
私もそんな可能性を、考えたことはあるし。
「内戦というのは?」
「皇帝種族の側近団として政府の要職を占める、
軍事種族同士の争いです」
「種族が要職を占める?」
「最先進種族は母星の量子頭脳網に|人格を転移《マインドアップロード》したり、
外部の量子頭脳や人工体に|再転移《ダウンロード》したりすることで、
寿命を克服したうえに、高い環境適応能力も得ました。
そのうえ個々の人格とは別に、種族全体の集合人格を作って、
国連の理事国みたいに役職を務めることもできるんです!」
銀河文明の超先進技術をいともあっさりと説明した後で、
彼女は少し恥ずかしげに、でも嬉しそうに微笑んだ。
「でもまあ私達は……権力争いなんかが苦手で、
途上星域の支援を希望した、文民種族なんですけどね」
何だか頼りない気もするが、悪い連中ではなさそうだ。
「戦況はどうなの?」
「帝国の中枢である銀河系の中央部は、
大変なことになっているみたいです。
恒星まで破壊するような大量破壊兵器が使われて、
皇帝種族の|母星系《ぼせいけい》とも連絡がとれなくなっています。
彼女は以前から軍事種族の暴走を心配していたし、
私達もそれを防いであげたくて、
平和的種族の育成に努めていたのに……」
彼女はまた、泣き出しそうな顔をした。
「君はこれからどうするの?」
「必要なら地球の方々にも協力をお願いしながら、
助けが来るのを待つしかありません。
宇宙船にある量子頭脳と連絡がつくまでは、
この人工体の知識と能力だけで生き延びるしかないんです。
本当に、せっかく銀河系全体を統一できた国が、
こんなことになってしまうなんて……」
しょんぼりとして、本当に困った様子だ。
まるで|熱帯の密林《ジャングル》に一人で取り残された、調査隊員だ。
同情した私は、何か慰めの言葉をかけてあげいと思った。
「人工体が生きるのに、何か助けは要る?」
「生物学的特性は人類に合わせてあるので、
何十年かは普通に生きられます」
「じゃあ大丈夫だよ! 最悪の場合でも、
国か国際機関に保護を求めて待てば、きっと帰れる。
戦争があってもそれを教訓に、平和な国を立て直せばいい。
まあ|釈迦《しゃか》に説法かもしれないけど、
私達人類だって同じような道を|辿《たど》ってきたんだから」
「ありがとうございます。 少し気持ちが楽になりました。
それでは……というのも|何《なん》ですが、
せっかくの機会ですので、もしお時間があれば、
地球の皆さんが〝文明〟というものについて
どう思っているかを、お聞かせ願えませんか?」
おおっと、よくぞ聞いてくれました!
ていうか先生! 私の考えを聞いてください。
私は文明論にも興味があるが、
悲しいことになかなか|他人《ひと》と語る機会がない。
人類文明を助けてきた宇宙人とそんな話ができるなんて、
SFオタクには夢のような|機会《チャンス》だ。
彼女の心配も|紛《まぎ》らわせてあげられるし、
人類のいいところも、見せてやりたい(笑)。
まずは職場や警察に通報すべきかとも思ったが、
恐がらせたりすれば、たぶん逃げられて終わりだ。
こちらの理解と誠意を示しておけば、
彼女からも色々な協力が得られるかもしれない。
相手は超技術を持つ異星人、私はただの一般人だから、
機密漏洩の心配もない(苦笑)。
「よかった! 私も文明には関心があって、
お話したいと思っていたんです。
そうですね……まず、人類は文明により
発展してきました。
それって要するに、頭を使って生きることですよね?」
「まさしく、高度な知的生命活動の様式です!
その力を得た種族をお助けするのが、私達の使命です」
文明支援が仕事というのは、本当らしい。
「〝生きる〟という活動は、それに必要な富や財、
資源と呼ばれるものを、作って分けることで営まれます。
特に人間は物事の関係を知り、大勢の活動を決めることで、
より良く作り、分けられるようになった。
因果関係の原因に働きかければ利益が得られるし、
役割や報酬を決めて皆で動けば争いも減るからです。
文明活動の本体は全ての人々による経済・社会活動ですが、
富を生んでそれを豊かにするのが〝技術〟、
富を分けてそれを健全に保つのが〝政策〟であり、
この二つこそが文明の両輪、両翼だと思うんです」
「そう……確かに、おっしゃる通りですね」
彼女は何だか、面白そうな表情になった。
「ではそのような|構造《しくみ》は、どんな|機能《はたらき》を生み出すか?
技術が進めば社会が変わり、社会が変われば政策も変わり、
その政策が新技術導入を促すという、文明の|循環《サイクル》を生みます。
例えば昔の人々は、食べ物を探して野山を
|彷徨《さまよ》わなくてもすむように、農耕技術を開発した。
そうは言っても、農業時代の力仕事は大変だったので、
次に動力機関を中心とする、工業技術を開発した」
「同感です。 知的種族の向上心には限りがないですし、
技術は新たな利益だけでなく、課題も生みますから、
文明の発展って、止まれないところがありますよね。
それに技術が進むほど、その開発には政策的な、
資金や人材、物資などの支援が必要になる……」
おおっ、同意してくれた!
「大きな力と速度を持ち、正確に動く機械によって
物や人、情報の流れが増えると、
それらを効率的に|制御《コントロール》するため、情報技術を開発した。
さらに社会活動が複雑化して、
普通の|電算機《コンピュータ》を使っても人智に負えなくなると、
人工知能が必要になった。
このAIの本質は、膨大な情報から因果法則を学習・
適用して、創造的判断も行える自動最適化|演算指示《プログラム》です。
……どうかな?」
「技術にも、色々な種類がありますよね」
「ええ! 技術の世代による分類だけでなく、
同じ世代で他要素との関係による分類もあります。
確かに農耕や動力、電算、AIは社会に直接働きかけて、
文明の発展段階を分ける〝画期技術〟です。
でも、それを物的資源に具現化して利用するには、
土木建築、電気機械、光電子、|応用情報工学《インフォマティクス》などの
〝実現技術〟が必要不可欠です。
また、政策の立案・実現を助ける〝社会工学的技術〟や
技術自体の開発・普及のための〝研究・開発技術〟も
ないと、文明は発展できません」
「ああ……よくお勉強されているんですね」
馬鹿にされているのかな?と気になったが、
彼女は眼を見開いて、本当に感心しているようだ。
人工体だと知性も|人間《ひと》並みなのかもしれないと思い、
私は分かりやすい説明をつけ加えた。
「私はこれを覚えやすいように、〝生んで育てて、
変えたら助ける〟4つの技術と呼んでいます。
技術が技術を生んで、物資に育てて、社会を変えたら、
政策を助ける、なんて想像すると面白いでしょう?」
彼女は「何だか|擬人化《ぎじんか》アニメみたいですね!」と言い、
くすっと笑ってくれた。 よし、次に進もう!
「また、この〝文明の|循環《サイクル》〟を繰り返す中で、
技術にできることが増えるほど、政策がすべきことも増える
という、〝文明の|潮流《トレンド》〟が生まれます。
簡単に言えば、〝モノを作って分けたなら、
ヒトも高めて活かしましょう!〟という順番でね」
「それって、例えばどういうことですか?」
彼女は小首を|傾《かし》げて、聞いてきた。
本当はどんな|異形《いぎょう》の生物かも分からないのだが、
こういう姿はとっても可愛らしい。
「まず、農業技術から工業技術までは、
モノの生産、安全に役立つところが大きい技術です。
だから農業・工業時代の国家政策といえば、
まずは人手を集めて治水工事や都市建設を行うとか、
作った物を守るために年貢を取って兵隊を養うという、
国土開拓や軍事活動でした。
富の安全も含めた生産のための技術を
健全に開発・利用する、|社会基盤《インフラ》整備や国防などの、
〝技術的政策〟が大事だったんです」
「そう言われると、私達の軍事帝国もそうでしたね……」
彼女は何かを昔を思い出すような遠い目をした後、
その内容を確認するかのように、目を細めた。
私はほっとして、先を続けた。
「しかし工業技術が発達していくと、
モノの配分、流通も大きく改善する。
国が豊かになれば、その富をどの産業に投資するか、
豊かになれない人々をどう助けるかなども考えないと、
他国に|後《おく》れをとったり、内乱が起きたりしてしまいます。
そこで、富の投資を含む分配自体に意味のある、
産業振興や社会保障など〝経済・社会政策〟も重要になる」
「ああ! 確かに帝国でも、産業種族が発展したり、
途上種族への支援が行われたりしています」
今度は、何だか納得ができて嬉しそうな表情だ。
「そう?」 私も喜んだ。
「さらに情報技術や人工知能ともなると、
|電算機《コンピュータ》や自動学習型の|演算指示《ソフトウエア》が、
ヒトの定型的または創造的な知的活動を助けてくれます。
それを医用電子機器やAI創薬、遠隔教育、個別学習に
応用すれば、人間自身の健康や教育も大きく高められる。
少子高齢化や生活向上、社会の複雑化で、
健康水準の低下や教育難度の上昇がおきる時代には、
そうしたヒトの支援を含む向上の技術が不可欠です」
「人が考えること自体も助けて、高める?」
「まさにそうです!」 よし、ついてきてくれてるな。
「特にAIは、仕事の省力化・高度化がますます進み、
企業方針も含めた政策の立案に移っていく中で、
職業選択や人材配置など、ヒトの|参画《さんかく》含む活用にも役立ちます。
そこで、人々の健康や教育を高める〝人的資源政策〟と、
政策自体の国際化や官民協働、市民参画に向けた
〝行政管理政策〟も重要になっていくでしょう」
彼女はますます、嬉しそうな顔をした。
「確かに、おっしゃる通りですね!
今では先進種族の中にも、医療や教育に|携《たずさ》わる
有力種族が増えてきましたし、
今後は途上種族を国の中核として育成しつつ、
種族を問わず|有為《ゆうい》な人材や意見を活用するとも聞いてます」
「本当に?」 安心した私は、まとめに入った。
「では、そうした技術と政策の変化の流れが、
文明全体にとっては、どんな意味を持つのか?
私は、次のように考えました……。
農耕技術は体外物質の利用により、文明を生み出した。
工業技術とは体外|動力《エネルギー》の利用により、文明を世界に広げた。
情報技術は体外情報の利用、つまりは大量高速な
演算・記録・通信により、文明活動を効率化させて、
地球という空間的限界に到達した衝撃を|和《やわ》らげた。
そしてついにAIでは、体外知性の利用により、
従来はある意味で環境の〝外側〟にあった文明の利器を、
より複雑な対応が必要となりゆく環境になじませて、
持続的発展を|叶《かな》えられるのではないかと」
「持続的発展?」
「そう! AIは新素材・|動力《エネルギー》や|知能《インテリジェント》ロボット、
|IoT《インターネット・オブ・シングス》と|大量情報《ビッグデータ》処理、
|生物工学《バイオテクノロジー》、先進医療・教育など、
他の多くの技術を飛躍的に高めて、社会を変える。
それでは、それら全てに共通する特徴は何でしょう?」
「むむう……なんでしょうね?」
眉を寄せて考え込む顔も、可愛いな(笑)。
「AI中心の次世代技術は、機械を自然に優しくし、
人間も含めて生物を機械のように修復・改良し、
人間にしかできなかった仕事を機械にさせ、
争い少なく人々の利害を調整することができます。
つまりそれらの共通項とは、人工物と自然物の間の
壁を取り払って、双方の持続可能性を高める、
体内環境含めた自然・社会環境に優しい性質なんです!」
「ほう! 確かに技術と環境をなじませるというのは、
新しい切り口だし、大きく社会を変えますね!」
私は何だか、試験で良い成績を得た生徒のように
誇らしい気持ちになった。
しかし彼女はそこで、不思議そうに尋ねてきた。
「でもよく考えると生きることって、そもそも
命をつなぐっていう、持続を求めることなのでは?」
よくぞ聞いてくださいました!
ここからが本題、お話の|佳境《かきょう》でございます(笑)。
「おっしゃる通り! 私もそこで悩みました。
そして、答えは持続の|内容《なかみ》では?
詳しく言うとその方法や種類では? と気づいたのです。
人類は今、モノの生産と分配、ヒトの向上と活用、
全ての分野に渡る課題に直面しています。
つまり、地球の限界からくる資源・環境問題や、
経済・社会活動の複雑化による利害調整困難、
腐敗・衆愚化・|蛸壺《たこつぼ》化など社会的健康も含む
経年・経代的な健康水準低下、
政策の国際化や民主化に伴う制度変更の必要性です」
ここが肝心、あとちょっとだガンバレ!
「昔だったら、資源枯渇や格差拡大が起きた時には、
植民地を求めて国外に進出すればよく、
開拓や戦争の中で私みたいな虚弱者や、
遅れた制度も|淘汰《とうた》されたのかもしれません。
しかし今では、地球の限界や世界の一体化、
生活水準向上や武器の強力化によって、
そのような〝解決〟を許していたのでは、
|損失《ロス》や|費用《コスト》、|危険《リスク》が大きく、むしろ自滅的です」
人類の、罪や本音も認めちゃう(苦笑)。
今後は悲劇が、起きないように……。
「これに対してAIなどの環境親和技術は、
それら全ての政策課題で費用や危険を低減し、
安価・安全・根本的に文明の持続的発展を実現できる。
だから今後の政策も、そうした次世代技術を活かして、
モノの生産と分配だけでなく、ヒトの向上と活用も助け、
環境、経済、人間含む社会、そして政策自体の
全分野における惑星文明の持続可能性をめざす、
総合的な政策になるのでは?と思うんです」
ふ~、一気に|喋《しゃべ》ったので疲れた。
「現代文明の課題には、次世代技術と総合政策……」
彼女は真面目な表情で少しうつむき、考え込んだ。
ちょっと早口になっちゃったし、難しかったかな?
だけど、彼女の意見がとっても聞きたい。
しかし、彼女は少し表情を|曇《くも》らせた。
「でも文明って……できることが増えるほど、
すべきことも増えるというのは、何だか自転車操業ですよね。
せっかく色々できた技術に限界が来たとたん、
その問題が増えて返ってくるなんて、意外と無理ゲーかも。
マグロの泳ぎっていうか、ええと……『赤い靴』?」
おっと突然鋭いツッコミ、そして怖すぎる|喩《たと》え(笑)!
困っているところに長々と話を聞かされて、
ますます疲れちゃったかな?
ごめん、これじゃあ逆効果だ! 私は|慌《あわ》てた。
「いや、でも大人になるってそういうことでしょう?
技術のおかげで能力が高まり、仕事も楽になっている。
完全な技術なんてないし、人間の欲には際限がない。
むしろ万能な技術でボンクラになる方が恐いかも」
「そっか……そうですよね! 文明って元々そうだし、
これまでそれで栄えてきたんだから、今さら捨てられない。
解決策がないと困るけど、見えてるんなら
後はそれに向かって|頑張《がんば》るだけですよね!」
明るい微笑みが戻った。 いや~前向きな性格で良かった。
もしや私の心の強さを試したか? 恐るべし異星人(笑)!
「まあ実はこれって、国連や国、自治体の政策にある、
〝持続可能性〟〝誰ひとり取り残さない〟とか
〝人間の安全保障〟〝ソサエティ5.0〟といった
言葉を調べている時に、考えついたことなんです。
だから上の人達は、とっくにご存知なのかもしれない。
だけど、今では私みたいなオタクでさえ気づき、
誰でもウラがとれる事実と論理だけで
簡単に説明できるんだから、もう間違いなく
みんなが知らなきゃヤバい知識だ!と思っているんです」
偉そうにならぬよう、元ネタも白状しておこう。
彼女は何やら、考え込んでいる。
銀河大戦やってる人達に惑星文明の持続を説くなんて、
世間知らずのお人好し、と思われるだろうか?
でも、私は人間の理想だけを信じているわけではない。
人間性の本質は|業《ごう》や原罪とも、希望や向上心とも
呼ばれるような、良くも悪くも限りない欲求であり、
それは知性で色々な願いを|叶《かな》えられるようになった
ことから、必然的に生まれてくるものだと思う。
もしかすると、技術を可能とする知的な想像力は、
政策を必要とさせる無制限的な欲求と、
文明発展の中でお互いに高め合う、
|表裏一体《ひょうりいったい》の関係にあるのかもしれない。
だとすればその欲求は当然、社会の維持や再生にかかる
対価や代償の低減だって、求めるだろう。
彼女達が神や悪魔を演じて私達を文明化したのなら、
必ずやそのことも心得ているはずだ。
しばらくして、彼女は口を開いた。
「実に興味深いご意見ですね……。
これまで帝国でも、惑星の環境改造と植民や、
高次空間|動力《エネルギー》を利用した超光速航行、
量子頭脳への|人格転移《マインドアップローディング》を中心に、
次々と新世代の技術が開発されてきました。
これらはちょうど、農業・工業・情報技術にあたります」
彼女はさらに続けた。
「となると次は、AIなどの環境親和技術にあたる技術です。
でも帝国では、今回の内戦からも分かったように、
地球における人工物と自然物の違いよりも大きな、
種族間の違いが問題となるので……ああ、ありましたよ!
まさに種族間親和技術といえるような、
新技術を開発している技術種族がいます!
量子頭脳の遠隔接続や共同利用、人工体の共通化……、
これは大変参考になりました、有難うございます。
……おお!」
彼女は突然、何かに耳を澄ますように、
目を見開いて|宙《ちゅう》を見上げた。
「母船と連絡がつきました!
私達の種族は穏健な軍事種族や産業・技術種族、
それに恒星間を渡れる途上種族の協力も得て、
平和の回復にあたることを決定したようです。
どうも大変、お世話になりました。
参考になるお話を、有難うございます。
残念ですが緊急|呼集《こしゅう》がかかりましたので、
ここで失礼させていただきます」
私は彼女が助かったことを喜びながらも、
状況の急変に動揺した。
「えっ? そうなると、私達人類は……?
あと、君達の名前だけでも」
再び|煌《きらめ》く光と共に、天使の姿に戻りながら、
彼女は一瞬、少し悲しげな表情を浮かべた後で答えた。
「実は……私達はサタンと言います。
すみません、他の種族のことを考えて、
悪役を演じる時は私達の名前を使ったので、
初めはちょっと言いづらかったんです」
しかし、変身後はすぐに元気を取り戻し、
瞳を希望に輝かせながら、こう言った。
「でも、もうじき公式の接触と説明が
行われることが決まりましたよ。
私達は、貴方達の優しさを忘れません。
これからも、よろしくお願いしますね!」
彼女はにっこりと微笑んで窓を開け、
|呆然《ぼうぜん》とする私にぺこりと頭を下げた。
重力制御も使っているのか、優雅に翼を|羽《は》ばたかせ、
飛び去っていくその姿は、再びちらちらと輝いて消えた。
ただ、入館時にも役立ったであろう光学迷彩が
切り替わるその時、翼の生えた猫みたいな影が見えた。
その後の展開は、歴史の本にある通りだ。
旧帝国の文明開発長官だったサタンは新王朝を設立すると、
|直《ただ》ちに人類と公的な接触を行った。
その基本形態はやはり、|蝙蝠《こうもり》の翼を生やした
猫科の動物のような姿をしていた。
ただし、彼女達は昔から皇帝種族と深い関係にあり、
特に良識的な亡命者達を大量に受け入れることで、
実質的には混成種族となっていたようだ。
新政権は好戦的な側近種族達を平定した後、
見事に帝国を再建・復興し、国政を民主化しつつある。
当時、すでに側近種族達は互いの抗争で弱体化しており、
穏健派種族の核となるサタンを滅ぼせなかった時点で、
その敗北は決まっていたとも言われている。
図書館の天使は、いわば〝ノアの箱舟〟の物語における、
オリーブの枝をくわえた鳩のような、
希望のしるしだったのかもしれない。
もっとも彼女は、全てを話していたわけではない。
何と側近種族の一つが、皇帝種族の人格群が宿る量子頭脳、
通称|〝聖霊〟《ホーリースピリット》を地球に隠していたことが分かり、
彼女達はその捜索に従事していたのだ。
だが人類は、後に他種族と合同部隊を編成し、
その救出作戦も行って、劇的な成功を収めた。
そして今、|量子人格化《マインドアップロード》した私は、
仮想空間の中で現皇帝種族の|挨拶《あいさつ》を聞いている。
その代表人格は今回、
猫耳と|蝙蝠《こうもり》の翼をつけた可愛らしい少女という、
何ともマニアック……もとい(笑)、
本来の個体と似ていて、親しみやすい|映像体《えいぞうたい》を使っていた。
「人類の皆様、このたびの|量子人格化《マインドアップロード》達成につき、
心からお喜び申し上げます。
かつて私が文明開発長官を務めていたとき、
人類は最も有望な若き種族のひとつでありました。
〝先帝〟救出作戦での目覚ましい功績はもとより、
素晴らしい発展の歴史から得られた貴重な知識も、
現在までの国家運営に大きな助けとなっています。
ここに私は皆様への深い感謝を表すると共に、
そのさらなる繁栄と星間社会への貢献を期待し、
今回の大いなる成果を心から祝福いたします」
……たぶん彼女は、すでに知っていたのだと思う。
そもそも彼女は人類の文明発展を支援してきた、
長い歴史をもつ種族の一員だ。
今にして思えば共有人格の思考能力は神に近いし、
個体の能力もそれなりに高かったはずだ。
一方私は、文明論に興味はあっても普通の市民だ。
彼女達は正式な交流を始める前に、
私のような一般人を|検体《サンプル》として人類の|民度《みんど》、つまりは
民主政を|担《にな》える知識や成熟度を調べただけなのだろう。
同時期に似たような事例が、他にも数多くあったようだ。
とはいえ、それは実に面白い経験だったし、
星間国家の繁栄も、そこでの人類の成功も喜ばしいことだ。
まあ、今回得られた|人格転移《アップロード》の技術について言えば、
量子人格になっても〝|浮世離《うきよばな》れ〟をしないよう、
定期的に快適な仮想空間を離れて、現実世界で
活動する義務があるのだが……やれやれ。
いつの時代も仕事は面倒だが、生き甲斐にもなる。
感謝の気持ちに感謝で応え、頑張ることにしよう。
想定よりも長生きしたが、まだまだ知らないことも多い。
やはり人生は前向きに楽しまないと、もったいない。
地球では〝天使な魔王サタンちゃん〟(笑)とも呼ばれる
愛らしい彼女の姿を見ながら、あらためてそう思った。