「銀河系は現在再建の途上にあり、大戦の影響を被ったアンドロメダ銀河においても、被害宙域の復興や統治機構の再編、先住種族との良好な関係の構築などの課題が山積しています。今日の私達に必要なものは、過去の遺恨や種族的偏見を捨て、手を携えて国家の再建とさらなる発展を実現し得る人的資源です。すでに重大戦犯種族の拘束または滅亡確認は完了し、他の関係者については中枢種族間の内戦という異常事態に鑑み、温情ある措置がとられる予定です。武器引渡と投降を行った者は調査の後、問題がなければ希望する場所への移転と居住が認められます。これに関しては安全上の必要から当面の間は一定の制約があるものの、旧皇帝領を含む旧中心星域の復興はもとより、旧開発途上星域及び銀河系外周星域の共同開発、あるいは旧帝国系種族が多く居住するアンドロメダ銀河への移住、さらには有望な可能性を有する小銀河群の開拓まで、私達は相談に応じ様々な未来への道を提供することが可能です」

図34:未来


「私の心身の四分の一は、かつて皆様と同じ陣営で戦った種族融合体、カイムです。忠誠と信頼の対象であった先帝を失い、冷酷非情な中枢種族によって絶望的な状況に投じられ、それでも何らかの美しく切なる理想を抱いて戦い続けた皆様と、同じ心情を経験した者です。またその後に、旧政権下では望みえぬ配慮を受けて復活し、今では姉妹一体となって名誉ある職務に従事する者です。ゆえに、私アモンはここに帝国の星間法に従い、母星の量子頭脳網と当|分離個体《アバター》と地球派遣量子頭脳の名において、旧帝国系武装組織の皆様に対し、次のことを要請いたします。すなわち私はかつての姉妹愛と同様の情愛を以て皆様を新帝国に歓迎し、その貢献に応じた待遇を提供することを誓約し、皆様忠良なる帝国の戦士達に、名誉ある投降を呼びかけるものです」

図35:希望


 これは参ったな……。自分の失敗を思い知らせる、こんなに|辛《つら》い演説を最後まで聞かざるを得なかったのも、私の信じてきたものがすでに失われつつあったからだ。|高度な技術《ハイテク》を駆使して悪魔と戦うという宣伝文句に、かつては心が躍ったが、その後の組織の活動はかなり残念なものだった。直情的な決め付けと扇動による人々の論争から抗争、そして暗殺・テロ事件。買収、誘惑、|強請《ゆすり》などによる企業や官庁、政党への浸透。組織内での脅し、騙し、陥れ、やらせや嫌がらせを用いた実権掌握。得られた組織力を悪用した分断工作、妨害活動、洗脳行為や群衆操作による、さらなる外部への強要の拡大。遥かに大きな社会的理念や利益でもあればまだ、やむを得ぬ犠牲といった言い訳もできたかもしれない。でも徐々に明らかになってきたのは、これが結局は異星種族同士の抗争であって、しかも私達が敵だと教えられてきた連中のほうが、実力だけでなく正当性も上回り、より多くの人々を幸せにできる、合理性や先進性を備えていたという事実だ。この呼びかけは、そのことを改めて確認させたにすぎない。

 紛争のきっかけとなった十数年前の核融合発電所の爆発が、実は私達の組織のテロ行為によるものであったという報道。それを本部に確認し、糾弾した地域支部の人々が、同じく謎の建物爆発で全滅したという連絡。説得力も整合性もない、上級支部からのおざなりな状況説明。徒党を組んで自分達が好き勝手をしたり、その活動を利用したりするのが目当てとしか思えない〝支援者〟達。そして地球外での戦争の決着がつきそうになると、沈みゆく船を見捨てるかのように|間遠《まどお》になり、ついには全く途絶えてしまった組織内の接触。私がこの反体制組織で得た教訓は、どんな看板をかけようが、どんな教義や思想を唱えようが、どんな指導者を戴こうが、大事なのは実際に動く人々だということだ。まあ、その一人だったお前が言うな!と言われたら、すみませんと謝るしかないのだが……。弱気な私が管理を任されたこの小さな連絡・補給拠点にも、ここ数日は誰も訪れず、通信もなく、私はいかに組織の監視を逃れて自首するかばかりを考えていたのだ。

 私は拠点の外部を見渡せる隠し|受像機《カメラ》の映像を点検した……そして、彼女達はいた。建物前に停まった大型車両から降りる、優しそうな|お河童頭《ショートボブ》の少女と利発そうな眼鏡の少女。その手前には美しい金髪の少女と、愛らしい茶髪で|二つ結び《ツインテール》の少女が|佇《たたず》んでいる。特殊な機材を使っているので、彼女達を守る後光のような力場障壁が映って見えるし、透明なはずの車の窓も鏡面のように照り輝いている。サタンとストラスの捜査員に、バールゼブルとグラシャラボラスの護衛官だろう。|呆《あき》れるような|紋切り型《ステレオタイプ》の|分離個体《アバター》だが、分かりやすいし、いざという時は偽装にも使えるのかもしれない。護衛達は2人とも主力戦車並みの戦闘力を持っているし、車の中にはより強力な防御力場に囲まれて、万一のために記憶と人格の|複製予備《バックアップ》を取り続ける量子頭脳もあるはずだ。身ひとつ命ひとつで生きる、私のような人間にとっては全く|羨《うらや》ましい限り……わっ!

 映像の左右から突然、悪魔の仮装をした可愛い双子の少女が現れたのだ。2人の顔が|受像機《カメラ》に近づくと、仲良くほっぺを押しつけ合って画面いっぱいを占領し、得意げに満面の笑みを浮かべた。こいつらときたら……! 評判と期待を裏切らぬ、アミーとヴォラクの|悪戯《いたずら》っ子ぶりだ。緊張から解放された反動で、私は思わずげらげら笑ってしまい、これ幸いと投降の準備をしようとしたところで、さらにぎょっとする光景を目撃した。壁から腕がにゅっと伸びて、|埃《ほこり》を被った備品のレーザー銃をつかんだかと思うと、銃と一緒に元の壁へと吸い込まれるように消えてしまったのだ。アモンの話にあった亜空間通路か? 確かに便利な|代物《しろもの》だ。この室内の様子も、きっと筒抜けだったのだろう。その気になれば、寝ている間に心臓をつかみ出すこともできたんだよお兄ちゃん!というわけだ。いやいや、アニメのヤンデレ|義妹《いもうと》かっ(笑)! いかんいかん、私も永年に渡る組織の監視下で少し性癖が歪んでしまったようだ。彼女達にはそんな脅しをかける理由もない。ブラックユーモアだか自嘲ネタだか知らないが、彼女達なりに無益な殺生を防ぐための、屈折した善意の示し方なのだろうと思い直した。実際は異星人も本当の神様の道具にすぎず、改心した悪魔みたいな彼女達を通じて、正しい道が語られているだけなのかもしれない。私は苦笑してかぶりを振りながらも、ようやく安心し、救われた気持ちで戸口に向かった。

図36:救助