顔にあざや傷のある人たちが、偏見や差別の中で生きる苦しみを自ら描いたドキュメンタリー映画「ユニークフェイス・ライフ」を完成させた。デリケートな問題だけに、制作は出演者を決める段階から困難を極めたが、公開も自主上映という限定された形となる。映画づくりにかかわった人々は、この作品が広く公開され、差別をなくすきっかけとなることを願っている。
映画はこんな内容だ。
文京区で印刷業を営む久保丈夫さん(32)は「あいさつをしても聞こえないふりをされたり-。(周囲の)視線が怖かった」と、子どものころの体験を語る。母千恵子さんは、出産後に初めてわが子と対面して言葉が出なかったことを吐露し、「主人に似ていたのが救いだった」と振り返った。
名古屋市の団体職員奥中さゆりさん(42)は、打ち合わせで「両親の撮影は勘弁して」と念を押すが、美容室や友人との食事などの自然な日常を見せてくれる。
監督である石井さんの愛知県豊橋市の大学や名古屋市の自宅なども訪ねるが、父清治さんは、NPO法人をつくり、見た目の顔の問題の取材を続ける息子を「(あざを)隠して生きていくかと思ったら、逆だもんね。昔は人前でしゃべらなんだのに」と語る。
撮影担当の八木ケ谷美代子さん(42)がこう話すのがラストシーン。
「好意ある無関心で見守ってほしい。そんな社会が来ることを願っています」
久保さんに出演の感想を聞くと「表に出るのはつらいが、自暴自棄になっても始まらない。実態を発信するのが大事と思って出ました。母とも歩み寄れた気がしています」と答えてくれた。
映画を制作したのは、NPO法人ユニークフェイス(会員約百五十人、東京都文京区)。ユニークフェイスとは「固有の顔」という意味で、生まれつきだったり、病気や事故などで顔にあざや傷ができたりした人たちを支援するため、一九九九年に設立された。
監督は、同法人会長のフリージャーナリスト石井政之さん(40)。石井さんも、撮影に当たった十二人の会員の多くも、あざなどのある当事者だ。
撮影期間は、昨年八月から十一月までだが、出演者を決めるまでに八カ月を要した。石井さんたちは、会員を対象に説明会を毎月開き、映画で話したいことがある人を募った。「見せ物に協力したくない」と拒絶する人や「出てもいいが、顔と名前はダメ」と条件を付ける人など反応はさまざま。撮影にこぎ着けても「しゃべり過ぎたのでカットしてほしい」「事前チェックしたい」など、ためらいが消えるわけではなかったという。
こうして完成した五十分間の映画は、生まれた時から血管腫(赤あざ)を持つ三人の顔を正面からクローズアップにする。撮影する側の悩みも取り込んだ。同法人理事の外川浩子さん(38)は「同じ当事者だから、腹を据えて撮ることができたと思う」と話す。
石井さんは「結局、主題は『葛藤(かっとう)』になりました。出演するかしないか。世間や親の目が怖いけれど、私は言いたいことがある。その葛藤です」と語った。さらに、「これまでも体験談の本は出ているが(あざや傷という一見して分かる)ビジュアルがテーマの団体なので、映像でやりたかった。メディアの取材を受けても、発言が使われるのはほんの一部。ハードルは高かったが、完成はうれしい」と喜ぶ。
しかし、プライバシー保護のため、劇場公開やDVD化はせず、上映会のみでの発表と決めた。上映会には同法人の会員も参加し、討論もする場にしたいというが、同法人監事で市民メディアにアドバイスをするジャーナリスト下村健一さんは「情報が自由に入るネット社会だからこそ、あえて丁寧に発信したい」と、この方法を前向きにとらえている。
映画を見て「私も話したい」という人が出てくれば今後も撮影し、映像を加えていくが、石井さんは「名前や顔を出しても被害の心配がなければ考えられます」と、映画祭や劇場で公開できる日が来るのを期待する。
東京での上映とイベントは十八日午後一時半から、台東区柳橋二の国際観光専門学校で。参加費二千円。問い合わせは同法人=電03(3814)1580=へ。
文と写真・吉岡逸夫
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