L. M. MontgomeryのAnne’s House of Dreamsを読みました。Anne of Windy Poplarsまではずいぶん前に読みました。1~3番目のお話は何回か読んだのでしっかり記憶にあるのに、Windy Poplarsはほとんど記憶にない…。たしか書簡体でストーリーが進んでいったような。このまま次に進んで楽しめるか不安でしたが、心配無用でした。これまでのアンシリーズとは毛色がやや異なり、短編集っぽい構成ではなく、丹念に伏線が張られた読みごたえのある「大人向け」長編といった感じです。

 

Green Gablesでめでたく挙式したアンとギルバートは、晴れて開業医となるギルバートの親戚がいるフォア・ウィンズという港町に引っ越します。アヴォンリーというcomfort zoneを去り、新たな喜びや試練が待っている大海原への旅立ちです。結婚生活という人生の門出を迎えるにあたり相応しい舞台ですね。まぁ町といってもアンたちが住むのは住人が少ないところなんですが。

 

馬車で二人の愛の巣となる「夢の家」へ向かう途中、アンは美しい少女を見かけます。その豊かな金髪はラファエル前派の絵を思わせ、少女はまだ若いのにどこか哀愁を帯びた青い眼差しでアンの方をじっと見ているのです。彼女こそ、この物語のもう一人の主人公レスリー・ムア。幸せいっぱいのアンとは対照的に、レスリーが悲劇のヒロインのような人生を送ってきたことをアンは後で知ることになります。

 

アンはそんなミステリアスな美少女に惹かれ、レスリーとの距離を縮めようとするのですが、レスリーはなかなか手ごわい。明るく人当たりのいいときもあれば、急に冷ややかな態度になって自分の殻に閉じこもってしまうときもあったりと、つかみどころのない人物なのです。これまで数々のクセのある人たちのハートを持ち前の親しみやすさで勝ち取ってきたアンもさすがに苦戦します。が、色々あってレスリーも少しずつアンに心を開いてくれるようになります。(「色々」の部分は読んでみてのお楽しみです。)2人の友情は、ダイアナやフィリッパたちとの関係に見られるようなgirlhoodのそれとは明らかに違うんですよね。人生の酸いも甘いもかみ分けてきたからこそ、お互いの痛みを分かり合えるみたいな、大人の友情とでもいいましょうか。というか、今思えばアンは女友達に関してかなり面食いですね。

 

レスリーの他にも、キャラ濃いめな‘the race who knows Joseph’(「ヨセフを知る者たち」という、アンのいうところの‘kindred spirits’)が色々登場します。近くにある灯台の番人ジム船長は飢えている猫を放っておけない心優しいおじいさん。かつては果敢に大海原を旅した船乗りで、信じられないような冒険談をしてくれます。ミス・コーネリアという、面倒見のいい中年女性も登場します。実は彼女、筋金入りの男嫌いなのです。彼女の口癖は‘Just like a man!’(直訳すると「いかにも男らしい!」。「これだから男は!」と呆れている感じです。)不当ともいえるほどの男嫌いっぷりに笑わずにはいられません。

 

それにしても、Anne of Green Gablesの頃と比べて、アンはずいぶん変わったなぁと思います。 初期の‘decidedly red’な髪色が思わせるアンの自意識は薄れ、その代わりにあるのは他者への愛情と思いやりに溢れた大人になったアンの姿。勉強や仕事を頑張ってキャリアを積んできたアンが伝統的な女性の道を歩むことになるのはちょっと意外な気もしますが、ひとつの生き方に固執することなく、どんな環境でも日々の生活の中に幸せを見つけて前向きに生きていくところがアンらしい。

 

Anne’s House of Dreamsという題について、色んな解釈ができるのも面白いと思いました。文字通り「夢の家」(アンが思い描いていたとおりの理想の家)だったり、未来への夢と希望が詰まった場所という象徴としての家だったり。あるいは、楽しい日々も辛かった出来事も、今となっては全てつかの間の「夢」のよう、という意味も込められていると考えると物語の最後の切なさに合う気がしますね。