結婚したばかりの頃 

義母が「うちの味を覚えなさい」と言った煮物

確かお正月だったけれど 大皿に筑前煮のようなごった煮

特別変わった材料でもなければ 一般的な味

結婚半年で意地悪が始まり 教わらないまま

 

 単純にそんなふうに思っていたのに

ずーっと後になって煮物は叔母が作っていたと知る

親戚が集まると決まってマウントを取りに来るので

みんなの前でのパフォーマンス

 

 彼に“お袋の味”はなに?と聞いたことがある

昔すぎて忘れちゃったといつも答えず

義実家の食卓にはババ友のお裾分けがよく並んでいた

集まりがある日は叔母が用意していたのも晩年に知る

彼の中で“叔母の味”はスパゲッティサラダかな

 

 叔母が亡くなる前に種明かしをしてくれ

義母は料理は得意ではないと知る

実は義父の方がお料理上手だったと叔父さんから聞く

 病床の義父が最後の我儘で義母に料理をリクエスト

故郷の姉に作り方を聞いて里芋の煮物が食べたい と

義母はあっさりと無理と断る

まさか料理できないとは思わず 冷たい人だと感じた

 

 彼が私の実家に来るのは母の手料理が目当て

「嫁ちゃんのお母さんのご飯は美味しいよね!」

母が持たせてくれるひじき煮や切り干し大根にきんぴら

ごく普通の家庭の味 甘さが控えてあるから好き

 

 母のきんぴら 長いこと不思議に感じていた

鷹の爪は大きく二等分くらいにしかしていないのに辛い

自分で作るが同じようにはならない

私は鷹の爪を細かく鋏でカットする(辛いのが好き)

 自分で作る時にちょっと疑問に思う程度で

今度聞いてみようと思うのに 思い出すことがないまま

 

 ごぼうが安かったのできんぴらにしてお裾分け

太くて硬いので お酒で少し柔らかくなるように蒸し焼き

いつもよりは柔らかい出来でも母のよりは硬い

 母が思い出したように「硬いのも好きだけどね」と

父が辛いのは苦手だから鷹の爪は大きいまま使い

そこに七味唐辛子をふりかけていると言う

 まさに謎だった どうやって辛くしてるのかと

それに母のは柔らかくて少し上品な味がする

 

 母はけろりと「茹でてるのよ」

衝撃的な告白 そんなのあり?栄養は?と駆け巡る

最近は水に溶け出すから晒さないとか言うのに

まさかの下茹でとは 

 夕飯にうどんを茹でながら 気付く

いつか母の味を恋しく思う時 レシピを聞けば良かったと

後悔するところだったんだな

ぼんやりしすぎて気づかなかった こわいこわい

 

 大事な人を失う度 何かしらを後悔する

今が大事でと思うのに 何故だろう 焦りたくないような

限りある時間の中で いつか来る別れを想像するのは辛い

それでも この先の私が1人で立ち直れるように

今も立ち直って限りある時間と向き合わないと

 

 彼ちゃん すごく恋しいよ

何にもない毎日が眩しく思えて仕方ない

今 何してますか