日々の中で 笑うことも増えた

近所のおばちゃんに 細かい事を聞かれ さらりと笑顔で答える

時々 声が震えて涙ぐむくらい

平気なように見えるだろう 部屋に引き籠らないようにもしてる

それでも 私の時間は『まだ』の中にある

 

 ドラマを見ながら 自分や彼を重ねて 泣く

今は センチメンタルになる事も 少なくなりつつあり

出すべき感情がもやもやと 自分でも整理がつかない

 そんな気持ちを持て余して 散歩がてらの買い物

日中は暑いので 夕方 ぐるりと徒歩で 出る

 

 彼がいた時と変わらない 

これが安いのはあっちのお店で と 店を使い分けて購入

いつも歩いてる道 なんの変哲もなく 気にしない風景

 眼鏡屋さんの外壁にサングラスの広告

彼が好きなブランド 引き出しに1つあるはず

若い頃の彼が“かっこいいよね”と 笑顔で試着する記憶が浮かび

涙が出て 貯金箱がちゃりんと音を立てる

 

 駅前のロータリー 少し遅く着いて 座れずにバスを待つ

家族の送迎をする車がぐるぐると たくさんやってくる

ぼんやりと眺めながら 出張帰りの彼を思い出す

 いつもあそこに車を停めて 彼はあの辺で待ってて

居ないのに人ごみの中の彼を想像する

もう迎えに行く事も 迎えに来てもらう事も 無いんだな

貯金箱がちゃりんちゃりんと音を立てる

 

 毎日 なにかにつけ彼を思い出す 必ず悲しいわけでは無い

不意に思い出して 悲しかったり 恋しかったり

そんな時に 貯金箱は ちゃりんと音を立てる

どうしていないんだろうと思っては ちゃりん

不可抗力のように 心の中がもやもやする

 

 スーパーを出て信号が変わるのを待っている時

自転車を漕ぐ男の人が視界に入る

ママチャリで丸い体系の中年男性 夜で暗く はっきり見えない

 彼ならもっと太ってる 似たポロシャツを持ってたな

髪型は白髪が多くてあんな感じ

 

 ぶたの貯金箱が音を立てて 幻の彼を見る

私を迎えにくるかのように 自転車を漕ぎ 横断歩道で止まる

にこっと笑顔で信号待ちをし 今にも私を呼びそう

 そんなシーン 実際には無い 記憶ではなく 想像

汗を拭くふりをしたけど 隣のおじさんがこちらを見る

声を出して泣いたのが分かったのだろう  

 

 信号が変わり 自転車の男性が横を通る 似てない

ただ 雰囲気が 彼を重ねるには十分で

本当に彼が来たように 重ねて見ていた

 いない時間が長くなり いたらいいのにと心底思う

私の渇望は見たい空想を創り出す

これは心の悲鳴なのかもしれないけれど 見ていたい

 

 母は 人混みの中に弟と似たような体系の人を探すと言う

私は どうだろう 最初は気にならなかった

彼では無いから 似たような人なんてどうでもいい

 今は 探しはしないが目に入ると 想像してしまう

記憶の中の一場面や 今この場にいたらと 記憶と想像の両方

 

 しっぽがくるんとなった ガラスのぶたの貯金箱

今日も ちゃりんと音を立て 増えて減る

 彼の存在が大きすぎて 空いた穴が 自分を飲み込みそう

だから ちゃんと悲しんで とことん恋しがろう 

 

 今の私を母は『いも虫』と言う

誰とも話さず 家に閉じ籠る生活が 心配だと

 私の世界は一変し 毎日話していた彼はいない

絶望しか無い日々にもがいて 腹立たしい時間は乗り越え

自分を見失わずに踏ん張っている 

先は長くても いつか抜け出す 少し前向き

今は いも虫でいい

 

 ちゃりんと貯まるのが 500円玉なら 相当貯まってるのに

自分でもがくしか無い感情だから 残念

いつか薄れて気にならなくなるまで ぶたの貯金箱とやっていく