どちらかと言えば”覚えている“方だと思う

数年に1度帰国する連絡で招集発令 幼馴染で集まる

勝手に会話しお酒でわちゃわちゃ 覚えてるのは私くらい

飲まないのが大きいけれど 前回や前々回の会話も覚えいてた

今は過去形になる

 ある日突然弟を失った衝撃は計り知れなかった

悲しみは横に置きひたすらにやる事をこなす日々

朝は6時台に出たり満員電車で通い 実家に寄り9時過ぎに帰宅 

崩れ落ちるように座り込み我慢していた涙が溢れる

そんな暮らしが2ヶ月続いて 何をしてもどんな瞬間も

後悔の感情に支配され続けた

 あの時どんな話をしたんだっけ どのメガネだったかな

1ヶ月半前の事がぼんやりとしか思い出せなかった

悲し過ぎて心が自己防衛をする 前にもあったな

1つだけを忘れる機能はないから 全部が薄くなってしまう

何1つ忘れたくない くだらない会話も どの瞬間も

想えば想うほどこぼれ落ちていくジレンマに陥る

 話すのが嫌で他人からは分からないほど普通に暮らしていた

家の中が片付けられない以外は

弟が我が家の食卓で一緒に食べるかもと 新メニューにも挑んだ

恩恵を受けて喜んだのは彼で 佃煮はお気に入りメニューに

感情を表に出さず整理がつかないまま月日が流れ

助手席で外を見ているとよく泣いていた

 もがきながら暮らす中で 後悔はやめる事に

「良いよ 別に」の口癖がいつも思い出されたから

既に記憶は薄くなり これ以上忘れるのは食い止めたかった

そして 人は歳を取り否応なく“忘れる”   仕方のない事

ようやくそこまで辿り着いた

最初に声を顔を想い出も それでも1つだけ覚えておけば良い

“とても大事な 愛してやまない 弟がいた”

何も無くなってもそれだけは残るから それで十分だと気づいた

 

 彼が亡くなって喪失感も後悔も凄まじかったけど

悲しみに溺れると失う事を知っているから

悲劇のヒロインのように泣く事も 我を忘れる振る舞いもしない

義母の目には薄情な非常識嫁に映った 知ったこっちゃない

忘れたくない どの瞬間も どの表情も 言葉も 全部

だから叫ぶほど泣いてもすぐにやめるの繰り返し

 記憶は 繰り返し思い出す事で濃くなって定着する と聞いた

何度も思い返して忘れずにいたい

弟の死は彼の支えがあって乗り越えた

今の私はあの日々の彼の支えで踏ん張れている

大きな愛で包んでくれたこと 今もそれは変わらない

 後悔は小さな箱に入れ今も首に下がっている

忘れることはいつか ゆっくりと流れる時間の先で受け入たい

もしも思うよりも早く忘れてしまっても 彼は最愛の夫

私にたくさんの初めてをもたらし一緒に笑って泣いて戦って

喧嘩も沢山したし互いにうんざりもした

お互いが切り離せない唯一無二の凸凹コンビ

それだけは心のどこかに脳の隅に残っていて欲しい

 先のことは分からないから 覚えている今日を積み重ねる

全てを覚えていたら苦しい事があるのかもしれないけれど

今はそれでいいし それがいい 変わらない1つが大事

  私は今も彼に恋をしている