この同じ空の下

わたしが 誰かを 想うこと
誰かに向かう それぞれの 願い
しゃぼん玉みたいに浮かぶ たくさんの気持ち

神様が そっと 届けてくれたらいいのに

(2018.8.14)






それは 
記憶を手繰り寄せるような
心もとない日々を通り過ぎて
一般病棟に移る日が 近づいていた頃のこと




風景や 音や においとともに
それまでの わたしのいつもの日常が
ふと 心をよぎることが増えてきて




何がきっかけだったのか
あっ と 彼女を思い浮かべた瞬間
胸がキュッとするようで
もう 居ても立ってもいられなくて





⋆ฺ。٭





最初は
ほんのひとことだけ
いまの わたしのことを ほんの少しだけ
そう 思っていたのに




急に 連絡がつかなくなって
きっと 心配させてしまっているよね
本当にごめんね 待っていてね




まずは
それだけでも伝えられたら
そう 思っていたのに




ベッド用のテーブルを 
看護師さんに運んでもらい
さぁ と 左手で色鉛筆を握って
スケッチブックに向かったら




彼女を思い浮かべずして
どうして わたしは過ごせてきたのだろう
そう思うほどに




伝えたい想いが あれもこれも
びっくりするくらいに
どんどんどんどん 湧き出てきてしまう




それはまるで  ふーっと息を吹いたら
ストローからぷくぷくと 勢いよく飛び出す
しゃぼん玉のようで





⋆ฺ。٭





毎日 少しずつ 練習を重ね
慣れない左手での色鉛筆の跡は
ようやく 文字らしい形を
留めるようになったけれど




’こんをつめすぎて 疲れないようにね‘
主治医の先生方との約束もあるし
起き上がっていられる時間にも
まだまだ 限りがあって




一日に何度も
スケッチブックに向かう
書き足して 色鉛筆の色を変えて
時間を置いて また 書き足して




それが いまの わたしのペース
ストローから飛び出していく
しゃぼん玉の勢いには ほど遠いけれど




そのスピードのゆるやかさに合わせて
わたしのなかの しゃぼん玉の虹色が
より一層 ひかりを帯びていくようで




わたしのなかのタカラモノが
もっともっと大きくなっていくような 
そんな気がして




そして これから先の自分に
不安がないわけではない いま
空で繋がる誰かを想うことが
こんなにも わたしの心持ちを
強くしてくれるものなのだと知って




彼女に話したいこと 伝えたいこと
わたしの気持ちに ひと区切りつくまで
今日も 明日も 明後日も
















あとさき考えずに 思うまま
スケッチブックに向かってしまったけれど




いつ 彼女に届けられるのか
どうやったら 彼女に届けられるのか
それはまた ゆっくり考えよう




彼女の目に触れる そのときには
文字だけの世界で出逢ったわたし達の
まだ見ぬ お互いの笑顔も




真夜中のLINEでのおしゃべりも
何度となく交わした
‘いつかきっと 必ずね‘ の約束も




幾重にも虹色が重なる しゃぼん玉となって
彼女のなかに わたしのなかに
ともに 在りますように





〜 August, 2021
彼女への手紙を書き終えた日