「いつか、機会をみて一度お手合わせねがいたいものでござる。」
と孫四郎さんに言われ、以登さんは、
「わたくしの方こそ。ぜひにおねがいいたしまする。」
と心をこめて言いました。ちょっと声がはずんでおります![]()
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下女のおふさに「お時刻でございますよ。」
と言われ、短い挨拶をかわしたあと、以登さんは家路
に、
孫四郎さんは花見
の場へと向かったのでした。
孫四郎さんの家は平藩士、しかも孫四郎さんは部屋住みなのに対し、
以登さんの家は組頭で、時に家老も勤めるものが出るお家柄![]()
しかし、孫四郎さんは以登さんの剣を女子のものと侮ることも無く、
家柄にも媚びへつらうことなく、
まっすぐに以登さんを好敵手と認めて話しかけてきました。
以登さんにはそれが嬉しかったのです![]()
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下女のおふささんに口止めし、
孫四郎さんと言葉を交わしたことは内緒にすることにしました。
しかし、以登さんはこの日より、
ぜひとも孫四郎さんと竹刀をまじえたいものと焦がれ思うようになり、
その思いは日に日に耐え難いほどになりました![]()
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そこで、せっかく内緒に…といった孫四郎さんとの出会いの一件を
お父さんの甚左衛門さんに話し、試合をさせて欲しいとお願いします。
甚左衛門さんは不思議なものでも眺めるように
無言で以登さんを見つめていましたが![]()
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やがて「よろしかろう」と言い、試合は以登さんの屋敷で行うと決めました。
後日、孫四郎さんは袋に包んだ竹刀を手に提げ、以登さんの屋敷を訪れます。
「上がってお茶でも召し上がりませんか?」
と以登さんは出迎えて言いますが、
「いや、先に試合を済ませましょう。」
と微笑を見せ首を振ります。
「おいそぎですか?」
以登さんは少しがっかり![]()
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本当は試合をすることなど望んではなく、
組頭の命令だから仕方なくやって来たのでは…と思います。
しかし、孫四郎さんは格別急ぐ用はないようで、
「こちら様のお屋敷の庭は見事なものだと、日ごろうわさに聞いており申す。
うかがったついでにぜひともご案内いただきたいものですが、
それよりはまず、以登どののお手並を拝見したい。」
と言います。
「わかりました。」と答えた以登さんは胸がおどります![]()
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自分を好敵手だと認めてくれていることを確信し、
いい試合をしなければと思う以登さん。
庭の一角に作られた稽古場で、甚左衛門さん見分のもと試合が始まります。
激しい打ち合いを続ける二人![]()
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以登さんは、孫四郎さんが剣を上段に移すその肱に、
わずかな隙を見つけ打ち込みます。
しかし、竹刀は空を衝き、逆に以登さんの右腕がぴしりと討たれます。
と同時に以登さんは眼くらみ襲われ倒れ掛かります![]()
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その体を孫四郎さんが支え、以登さんはそのまま崩れ、地面に右膝を突きます。
「それまで。」
とここで甚左衛門さんの声がしました。
次回へ続く![]()