その夜、加世さんは新之丞さんにすべてを話します。

加世さんは若い頃、何度か島田さんと面識があり、

そのことを先日の親戚会議で話したら、

ぜひともそのつてをたどって、新之丞さんの今後のことを

相談してきたほうがいいと言われ、

島田さんを訪ねたのです。

新之丞さんに話せばそんなことはやめなさい・・・

といわれると思ったので内緒で出かけたのです。

島田さんは、佳代さんを奥の部屋に上げとても親切な様子で、

「そなたの夫の三村の処遇については、

ご家老に直々に申し上げてそなたの願いが達せられるように

尽力してみるからの。」

そう言ってくれました。

しかし・・・ただというわけにはいかない・・・

そう言われ無理矢理関係を持たされてしまったのです。

加世さんは、ただ恐ろしくて抵抗できませんでした。

一度だけ・・・と思っていると、島田さんから使いが来て、

承諾しなければ、新之丞さんに話すと脅され、

3度まで関係を持ったのです。

「お手打ちにされても仕方がありません、

どうぞご存分に・・・」

加世さんは新之丞さんに頭を下げます。

「妻を盗み取った男の口ぞえでたかだか30石救われて

喜んでいた俺は犬畜生にも劣る男だな。」

そういって見えない目で加世さんを見つめるのです。

ひとおもいに殺してくさだいという加世さんに

「俺の知っている加世は死んだ。お前はもう加世じゃない。」

新之丞さんはそういって徳平さんを呼びます。

「加世をたった今離縁した。荷物まとめて即刻この家から

追い出せ。今すぐだ。」

なんとかとりなす徳平さんをさえぎり、

加世さんは荷物をまとめて家を出て行くのでした。

後を追う徳平さんと加世さんのやりとりを聞きながら、

新之丞さんは涙を流すのでした。


しばらくして、新之丞さんは剣の稽古を始めます。

そして以前通っていた道場で師匠の木部孫八郎さんと

稽古をするまでになりました。

しかし、木部さんは新之丞さんの様子がおかしいことに

気が付きます。

「どうしたんだお前、なにがあったのだ、誰かを斬りたいのか?

相手は侍か?」

うなずく新之丞さんに、木部さんは目が見えないお前が

試合をするなどとても無理だから辞めておけと言います。

目が見えなくても気配でわかるという新之丞さんに、

木部さんは目の見えない状態での立ち合いの難しさを、

身をもって教えるのです。

そして場合によっては加勢してもよいとまで言ってくれました。

そして、立ち合いの相手と理由を聞く木部さんに、

「勘弁してください、武士の一分としかもうしあげられません。」

と言って黙り込むのです。木部さんはその様子をみて、

新之丞さんに稽古をつけ始めるのです。


ある日、元同僚の山崎さんが訪ねてきました。

新之丞さんは山崎さんにある頼み事をしていたのです。

その内容というのは、どうして新之丞さんは今までどおりの

待遇を受けることができたのか調べて欲しいというものでした。

普通このようなことになったら、勤めはもう出来ないので、

お給料は減らされことが多く、実際、重役方の間でも、

藩の財政も厳しいから、新之丞さんのお給料を大幅に

減らそうということになり、お殿様に報告したのです。

ところがお殿様は、新之丞さんの毒見がなければ

自分は命を落としていたかもしれないと言い、

その場でお給料はそのまま、これから養生に専念するように

そういって重役方の決定を覆したのです。

これは、誰のアドバイスを受けたわけではなく、

もちろん島田さんの口ぞえがあったわけでもなく、

お殿様一人の考えだったのです。


山崎さん達が帰った後、新之丞さんは徳平さんに

島田さんの屋敷へ使いに行けと命じます。

「明日午の刻(お昼頃)馬場跡の河原にてお待ちいたす。」

屋敷のものに聞かれないように、直に島田さんへ言うように、

そうきつく命じるのでした。


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