~最後の戦い①~


午後8時の鐘がなってからしばらくした頃、

銀次郎さんが尋ねてきたと、下僕が知らせてきます。

勝手な男だ・・・と半十郎さんが用件を聞くと、

「それが・・・申されません。

その上、あの方は血だらけでございます。」

慌てて表口に向かうと、

「よう。夜分に相済まん。」

と銀次郎さんが立ち上がりました。

旅仕度をしていて、全身血だらけです。

顔は青ざめていて、腕か肩を斬られているのか、

血が流れ落ちる方の袖をつかんでいます。

他にも衿や袴が切れており、

激しい斬り合いをしたのは明らかでした。

傷を洗う焼酎と、軟膏や晒を用意させ、部屋に上げます。

頭の傷はたいしたことはないようですが、

二の腕の傷はかなりの深手でした。

左の膝下の傷も長いようですが浅い傷でした。

とりあえずの処置が終わったら医者を呼んでくるという

半十郎さんの申し出を銀次郎さんは断わります。

今、半十郎さんが表に出れば、

銀次郎さんの居場所を知られてしまうというのです。

銀次郎さんと斬りあったのは「赤松織衛」さん。

小出家老の側に仕えている怪しげな剣客です。

「馬の骨」探しもとりあえず終り、江戸に帰ろうとした銀次郎さんは、

ついでに・・・と小出家老の寵愛を受けて子供を生んだ

「多喜」さんを連れ出そうとしたのです。

と言っても、無理矢理ではなく多喜さんから泣いて頼まれたというのです。

途中で追手に追いつかれ、怪我をさせてはかわいそうだと

多喜さんをおとなしく渡したところ、

その後で赤松さん達3人に斬りかかられたそうです。

実は小出家老が銀次郎さんを消そうとしたのには理由があるのです。

それを話すのを条件に、自分と江戸に居る自分の肉親の安全を

保証してくれと半十郎さんに言います。

半十郎さんは、いろいろと考えをめぐらします。

銀次郎さんを守るにはどこがよいか・・・

小出家老と敵対する杉原さんのところに行くか・・・

でも小出派を抜けたばかりで気が進みません。

きっと銀次郎さんも同じように考えるでしょう。

かといって大目付屋敷に行けば、事が一気に明るみに出て、

藩は大混乱になります。

ことは秘密裏に運ぶ必要があるのです。

そこで半十郎さんは北爪さんの屋敷に運ぶことにしました。

しかし、途中、どこに危険が潜んでいるかわかりません。

そこで、半十郎さんは飯塚さんを呼び護衛を頼むことにしました。

外出の仕度をしていると、杉江さんが顔を出します。

事情を説明する半十郎さんに答える杉江さんは、

顔色は青白いものの、言うことはしっかりしておりました。

「出かけたあとに人がきても、今夜は誰もこなかった、

主は寝たと申すのだ。もしそれでも無理に押し入るような

気配が見えたときは・・・刀にかけても阻め。」

「心得ました。ご心配あそばすな。」

と言った杉江さんの顔が一瞬心の高揚に朱に

染まったのが見えました。


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