~飯塚孫之丞との戦い②~
仕事を終えた半十郎さんが帰ろうとすると、
向こうから杉江さんの兄・谷村さんがやってきました。
どうやら話がある様子で、2人は一緒に帰る事にします。
去年の暮れに谷村さんの家にある藩士が訪ねてきました。
苗字は聞いたことがあるものの、面識はありません。
その人物は小出家老の派閥に入らないかと誘いに来たのです。
谷村さんはどちらにも入らないと丁重に断わりました。
その次の日、今度は敵対する杉原派の人物がやってきました。
用件は同じこと、こちらも断わって帰ってもらいましたが、
この人物は来たときにいきなり入り口近くに立っており、
帰るときも見送りを断わりました。
谷村さんが戸の隙間から様子を見ていると、長いこと門の内側で
あたりの様子を窺い、やがて姿を消しました。
この様子をみた谷村さんは、軽い恐怖心を覚えたそうです。
この頃、対立する巾派閥の者が斬りあいをしたという噂があり、
谷村さんもそれに怯えているようなのです。
半十郎さんは、そんなことは若い者達のことで、
派閥に入ったからといって、いきなり斬られるということはない、
逆に派閥に入ればいざというときに守ってもらえるから、
そちらかに組した方がいいのでは?というと、
「しかし杉原派に与しては、貴公と敵対してしまうな。」
と半十郎さんに言います。といってもあまり気がすすまないようで
しいていえば・・・ということらしいのですが・・・![]()
「じゃ、杉原派にはいったらよい。
案外敵対することにはならんかも知れぬぞ。」
と半十郎さんは谷村さんに向かって声をひそめて言います。
そして、それについてはくわしい話があるので、
自分は明日休みだから帰りに寄ってくれと誘います。
杉江さんの手料理を食べるつもりで・・・と誘ったのに、
この日、小出家老からの急な呼び出しで、
急いで屋敷に向かわなければ成らなくなったのです。
このことを告げると、杉江さんの目が吊上がります![]()
日暮れまでには戻る・・・と付け加えましたが、
確信があるわけではなく、とりあえず急ぎ出かけることにしました。
座敷に通されると、小出家老は誰かと話をしておりました。![]()
ご用は・・・と半十郎さんが聞くと、話をやめ、
銀次郎さんが勝手に試合を企んだと怒鳴ります。
どうやら銀次郎さんは井森さんをそそのかして、
飯塚さんと試合をさせようとしているというのです。
場所を聞いた半十郎さんはすぐにそこへ向かいます![]()
半十郎さんが着くと、試合の真っ最中でした。
2人とも血だらけ・・・しかし井森さんはうす笑うような目を
飯塚さんにむけて隙を窺っています。
立会いをしている銀次郎さんにとめるつもりはないようです。
それならば・・・と半十郎さんがとめに入ろうとしたとき、
井森さんの体がはじかれたように飛ばされて倒れ、
飯塚さんは竹刀を振り上げたまま前に走りました。
「よし、それまで。」と銀次郎さんが言うと、
飯塚さんは振り返って、半十郎さんは見ずに、
ひたと銀次郎さんを見据えます。その目には殺気が・・・![]()
「ほかには洩らさぬ約束でござった。約束を破られましたな。
察するにこの間の試合にご不満があったらしい。
ならばこの場でもう一度立ち合いましょうか。」
「やめぬか孫之丞。」と半次郎さんが叱るのと、
銀次郎さんが手を振って拒むのが、一緒になりました。
「おてまえのわざは十分に拝見した。いや、見事な技でござった。
どうかこのままお引きとり願いたい。」
これをきいた飯塚さんは半十郎さんに一礼し、
勝手に試合をしたことを詫びた後、井森さんのもとへ向かいます。
井森さんは、飯塚さんがさしのべた手をはらいのけ、
おぼつかない足取りで姿を消します。
そしてそれを見送った飯塚さんもゆっくりと歩き出します。
次回へ続く![]()