~矢野道場の高弟5人~


矢野家では、銀次郎さんとの戦いで肋骨2本にヒビの入った

藤蔵さんが、床の上に起き上がっております。

そこに向かい合って座っているのは、

藤蔵さんのお父さんのお弟子さん5人。

 ・内藤半左衛門さん

   58歳。普請組にお勤め。日焼けして骨格たくましく、

   かくしゃくとした感じのご老人です。


 ・沖山茂兵衛さん

   50代。大納戸を束ねております。

   色白で太った物静かな方。


 ・北爪半九郎さん

   30代半ば。御番頭という重職。名家・北爪家の当主。

   秀麗な男っぷりと鋭い眼光を持っています。


 ・長坂権平さん

   兵具方にお勤め。青ざめたような顔色で痩せ型。


 ・飯塚孫之丞さん

   28歳。近習組にお勤め。


5人はお父さんの弟子ですが、後を継いだ藤蔵さんにも、

当然のように礼をつくしております。

藤蔵さんは、銀次郎さんとの立ち合いに至るまでの経緯を、

5人に話します。そして、多分それぞれのところに、

立ち合いを申し込むだろうといい、

「そこで、そこもとたちに頼みごとがござる。

それがしは秘太刀を継がなかった。

だが、ここにいる5人の中には、父から『馬の骨』の

秘太刀を譲られた者がいるはずである。

それが誰かはわからぬゆえ申すわけだが・・・

もし石橋が参って試合を挑んでも、他流試合の禁を申し立てて、

柳に風と受け流してもらいたい。

それでも、よんどころなく立ち合わざるを得ないという仕儀に

立ち至った場合にも、秘太刀を遣っては相成らぬ。」

と静かな中にも厳然としたひびきのある声でそう言います。

「絶体絶命の場合にも、ですかな」という北爪さんの質問にも

「絶体絶命の場合にも・・・遣っては相成らぬ。

遣えばあの男は秘太刀を盗み取るとみた。

かれはそれだけの力量をそなえておる男だ。」

この藤蔵さんの言葉に、5人は深く頭を下げ、

どんな場合でも秘太刀は遣わないと誓ったのです。


5人はそろって矢野さん家を出ます。

と、10人くらいが稽古をしている様子が見えます。

どうやら不伝流もなんとか繁盛している様子。

藤蔵さんはお父さんに劣るといわれてはおりますが、

それはお父さんがかなりの腕前だったからのことで、

藤蔵さんもかなりの遣い手です。

また藤蔵さんのご長男・光之助さんも

稽古をつけた飯塚さんによると、筋がいいとのこと。

この飯塚さんが免許をとったのは18歳の時。

道場始まって以来の天才と聞いて、

北爪さんが手合わせに行ったところ結果は1勝2敗ダウン

そんな腕前の飯塚さんが保証するのだから、

矢野道場の跡継ぎも安泰ですねニコニコ


さて、話題は自然と秘太刀の話になりました。

長老の内藤さんが、

「藤蔵はんが心配している秘太刀を受けたのは、

この中のどなただな?」

と言うと、一同は足を止め顔を見合わせ、

すぐにそれぞれ顔をそむけて歩き出しました。

天才と言われた飯塚さん、

辛らつで奥の深い剣を遣う沖山さん、

道場の正統を伝える剣を遣う北爪さん、

それぞれに問いかけますが、皆、自分ではないと言い張ります。

みんなに問いただすのは、自分の受けたことを隠す方便では?

と言われた内藤さんも、自分ではないと言います。

と、籠手打ち名人と言われた長坂さん、

さっきからおもしろくない顔でだんまり。

さてはお前だなといわれた長坂さん。

実はだんまりの理由は奥さんが実家に帰ってしまったから・・・ダウン

長坂さんちの夫婦仲の悪いのはみんな知っていて、

その原因がどこにあるかも知れ渡っております。

そのため長坂さんに同情する人はひとりもおりません。

なんかだ・・・かわいそうな気もしますね・・・

白けてしまった皆さん、通りに向かいさっさと歩き出しました。


次回へ続く右矢印