昨日、国立西洋美術館に行って来た。

収蔵されている数々の素晴らしい作品の中で、一際、目を奪われたのがカルロ・ドルチの「悲しみの聖母」だ(下右の画像、左は東京国立博物館所蔵「親指のマリア」)。

 

 

カルロ・ドルチは、主に宗教画を描いた1600年代のフィレンツェ出身の画家。

 

伏し目の悲しみに満ちた表情の中に「慎み深さ」を感じることができるこの作品の前に立った時、思わず涙が出た。

 

初めて見た感動と幸福に感謝しつつ、この作品に興味を覚え少し調べることにした。

 

この聖母の青衣には、天然のウルトラマリンブルーが使用されていることが、国立西洋美術館、東京電機大学と筑波大学の共同研究により確認されたとのこと。

 

ウルトラマリンブルーとはラピスラズリから作られる顔料であり、ピスラズリはアフガニスタンなどほんの一部でしか産出されない非常に貴重な鉱石。

 

ヨーロッパで13世紀ころから絵の具として使われ始め、その鮮やかかつ濃く深みのある青色ゆえに多くの画家が虜になったと。

 

アフガニスタンで産出したラピスラズリは、陸路を経て地中海を船でイタリアまで運ばれたので、海を越えてという意味のウルトラマリンが付けられている。

かつてヨーロッパでは、純度が高いウルトラマリンブルーは金と同等の値段で売られていたらしい。

 

そのため、多くの画家は、経済的な理由から、下層(下塗り)にはアズライト(群青)やインディゴ(藍)といったより安価な青色で塗り、表層だけにウルトラマリンブルーを重ねる手法が一般的だったとのこと。

 

ところが、この絵画の青衣には、下塗りがなくウルトラマリンブルーだけが使用されており、この作品の素晴らしい出来栄えに大きく影響していると思う。

 

「フェルメール・ブルー」で有名な画家フェルメールは、ウルトラマリンブルーを使い過ぎたため借金と生活困窮に陥り、フェルメールの死後の妻は自己破産を申請したといわれている。

 

そんな貴重で高価なウルトラマリンブルーをふんだんに使ったこの「贅沢な」絵画についてまだまだ調べていくつもりだ。