*こちらで書いているお話はフィクションです。
登場人物は実在の人物の名をお借りしていますが、
ストーリーは作者の創作によるものです。
47.
きっと、ユノはそんなつもりじゃなかったと思う。
僕のことを「好き」だとか「愛している」とか、
そんな甘い感情ではない…と。
友達として、同じような経験をしてきた者として…
いままで僕が越えてきた苦労や厳しい現実を、
慰めや労わりの気持ちで受け止めてくれた。
それが…このハグなんだと僕は解釈した。
「ユノ?どうしたんだよ。ヘンだよ?」
それでも…僕の胸は喜びで爆発寸前だった。
だったけど…平気なフリをした。
ときめいてなんかいない。
「うれしくて泣きそう」
なんて…そんな感情はこれっぽちも見せないように。
「ふふ…おかしいよ?ユノ…」
冗談にすることで、
僕はユノの逃げ道を作った。
でも…
「あ…ご、ごめん!
いきなり抱きついたりして…悪かった!」
ユノは動揺したりせず、
まるで自分が前のめりな行動をしたみたいに…
神妙な顔で僕に謝った。
そうじゃないよ!ユノ!
「あっはっは。そうだよな。
今日の俺、ヘンだよな?!はっはっは」
そう言って、笑い飛ばしてくれなくちゃ!
でないと、僕…
「そうだよ。ユノ、びっくりしたよ。
でも、わかってるよ。勘違いなんかしてないからね。
これは友情のハグでしょ?
いくら僕がゲイでも…それくらいは分別ついてるから」
僕はわざと大きな声で明るく言った。
素早くユノと離れ、僕は助手席のドア側に体を寄せた。
ユノと半袖の肌が触れた時…
僕の中に期待してはいけない衝動が走ったから。
「ああ、びっくりした!ははっ」
大げさに言って、
僕はペットボトルの水を飲んだ。
ちらりと隣のユノを盗み見た。
ユノは…僕と違ってまったく動じていないように見えた。
どうしてそんなに落ち着いていられるの?
僕は不思議だった。
「なあ、チャンミン。
お父さんが亡くなったのはわかったけど。
お母さんは?一緒に住んでるのか?」
僕はドキッとした。
もうこの話は終わりだと思っていたのに…
ユノは僕が思うよりも、
僕のことを気にしてくれている?
「母さんとは…一緒に暮らしてないよ。
入院してるんだ」
「入院?どこか悪いのか?」
言いたくなかった。
精神を病んでる母さんのことは。
恥ずかしいとかいう感情じゃなくて、
僕自身が母さんの「いま」を受け容れられていないんだ。
「ううん。そうじゃなくて…
大したことはないんだけど。
都会で暮らすより、空気のいい場所で療養したほうがいいって。
だから、大丈夫だよ」
「そう?なら…いいけど」
僕の笑顔につられて、ユノは薄く笑った。
それから僕らはまた他愛のない話をしながら…
夜の海岸線を都会へと走った。
抱きしめられた時のユノの温もりを忘れたくないから、
僕は静かに目を閉じて寝たふりをした。
そして、いつか本当に眠りの中へと落ちていった──
「ミン…チャンミン」
「ううん…えっ、僕ホントに寝ちゃってたの!?」
気が付くと、待ち合わせたコンビニに戻ってきていた。
「よく眠ってた。ふふ」
「起こしてくれればよかったのに!
ごめん、ユノに運転させて僕だけ眠っちゃって…」
「いいよ。運転するのは好きだから。
気持ちよく眠ってたってことは、
俺の運転が上手かったってことだろ?ふふ」
「うん。そうだね…」
車のデジタル時計は午前3時を過ぎていた。
「明日も仕事でしょ?あ、今日か…
少しでも眠らないと」
「大丈夫だよ。チャンミンこそ…
付き合ってくれたありがとうな。楽しかった」
別れがたくて…思わず僕はユノに…
「さっき…抱きしめてくれて…
なんか心が温かくなって、軽くなった気がしたんだ。
ヘンな意味じゃないけど…うれしかった」
ユノの反応が怖かったけど…言わずにはいられなかった。
我慢した分、反動が激しい性格の僕…
「俺も…あんな気持ちになったのは初めてだったかも。
同じ経験があるってだけじゃなくて、
無性にチャンミンが可哀想で…愛しかった」
そう言って、ユノは照れたように俯いた。