*こちらで書いているお話はフィクションです。
登場人物は実在の人物の名をお借りしていますが、
ストーリーは作者の創作によるものです。

 

 

 

 

 

 

27.



成り行きとはいえ…
どうして僕はここに居るんだ?
見慣れない天井をじっと見つめながら、
ため息を吐いた。
夕食は3人で宅配ピザを食べた。
食事が終わったら帰るつもりだったのに…


「チャンミン、ここに泊まったことないの?」


「え?」


「だって…洗面所には兄さんの歯ブラシしかなかったし、
チャンミンの私物らしきものはひとつもないんだね?」


僕とユノがコンビニで作戦会議を開いている間、
ジェノはこの部屋をまじまじと観察していたんだろう。
まあ、そんなことだろうとは思っていたけど。


「ああ、歯ブラシ…この前捨てたばかりだ。
チャンミン、新しいの買ってあるから。
洗面所の棚にあるよ」


「サンキュ」


僕とユノはうまく切り抜けた。
そうそう、ユノ!その調子!


「ユノったら片付けが苦手で…
僕が荷物を持ち込むと部屋がいっぱいになっちゃうから。
でも、二人で部屋の模様替えをしようって。
言ってたところなんだよね?」


「うん」


僕たちの仲良さげな様子を見て、
ジェノはつまらなさそうに唇を尖らせた。


「でもさ、今日は泊まっていきなよ!いいよね?兄さん!」


僕はちらっとユノに視線を送った。
しつこく食い下がるジェノに、
ユノは早くも食傷気味になっていた。


「僕は…かまわないけど…ユノは明日仕事だし…」


あとはユノの答え次第だ。
泊まることになったって、
同じベッドで寝ることになったって…
ユノなら、僕は全然OKなんだけど。


「僕、兄さんの会社に行ってみたい。
兄さんがどんな仕事をしてるのか、
見てみたいんだ。
チャンミンも一緒に行こうよ!
この街も案内してほしいし…
ね?お願い!」


そう言って、ジェノは両手を合わせてユノに懇願した。
ユノは大きなため息を吐きながら…


「…わかった」


「えっ?いいの?!」
「ええっ、いいの?!」


僕とジェノの声が重なった。
でも、まったくニュアンスの違うものだった。
ユノは渋々って表情だったけど…
そんなこんなで、僕はここに泊まることになった。


「風邪気味だから」


そんな理由をつけて、
僕は物置と化した部屋にマットを敷いて寝ることになった。
周りには通販で買ったであろう段ボールが転がっている。
万能調理器に健康器具、サーフボードまである。
独身男は真夜中の通販番組が大好きだ。
きっとユノも…御多分に漏れずって感じかな。
エアコンはついてるし、なんとか眠れそうだ。
狭苦しいけど、ユノと一緒の部屋で寝るなんて…
それはちょっと性急すぎるでしょ?


「あれ?僕…」


気が付いたら、ユノの事ばかり考えてる。
これもまた仕事だからって、そう思おうとするけど…
僕はいったい…ユノとどうなりたい?
たしかにユノは僕の好みだけど、
あわよくば恋人になりたいとか…
エッチしたいなんて思ってる?


「きゃー!僕ってば…ヤバいって!それはヤバいって!」


自分の思わぬ下心に気づいた僕は、
布団を被って叫んだ。
そうなのか?チャンミン?!
緊張から解き放たれた僕を、
ひとときの安らぎと甘いときめきが包む。
ひとを好きになるって…こんな感覚だったっけ?
経験不足な自分の記憶を振り返りながら…
僕はいつしか深い眠りについていた。


翌日、僕はジェノとユノの工場へ行くことになった。


「いいか、ジェノ。
俺が男のチャンミンと付き合っていることは、
会社の皆には内緒だ。
絶対に言うんじゃないぞ。
ジェノは俺の弟で、チャンミンはただの知り合い。
いいな?余計なことは言うなよ?」


ユノは鋭い目つきでジェノに言い聞かせ、
ひと足早く出勤していった。
僕は、ジェノの希望で街を案内することになった。
兄を溺愛する弟と二人きりなんて…
やりづらいったらないんだけど?


「チャンミン、この店に行ってみたい!」


ジェノはあらかじめブックマークしていた店を次々に見せてくる。
あどけない笑顔はまだ17歳の少年そのものだ。
母親のソミさん譲りの白い肌、
背も高くて筋肉もあるのにベビーフェイス。
そんなギャップと、漂う品が女の子を虜にするんだろうな。


「ここだよ、チャンミン!」


ジェノに手招きされた僕は、
ハイブランドコスメの店に入った。