*こちらで書いているお話はフィクションです。
登場人物は実在の人物の名をお借りしていますが、
ストーリーは作者の創作によるものです。
22.
「たしか…この辺のはずなんだけど…」
自転車を止め、僕はマップを見た。
「アーバンコート…1001」
周囲にはタワマンや瀟洒な高級アパートメントが立ち並ぶ。
この中の一角に、ユノの住むマンションがあるはず…
「もう少し先かな」
ペダルを踏み、数メートル進んだ僕は再び自転車を止めた。
「んっ?!」
古い赤茶げたレンガ造りのマンション。
外壁にはツタが這い、どう見ても築数十年で…
取り囲む高層マンション群があまりにも煌びやかで、
なんというか…逆に目立つ。
マンションのネームプレートには…
「アーバン…コート…えっ?ここ?!」
僕が想像していたピカピカのタワマンとは遥かにかけ離れていた。
だって、仮にもユノは社長でしょ?
こんな古いマンション…駐車場もないじゃない?!
青いジープはどこにあるんだよ?
「とりあえず…」
悠長なことはしていられない。
早く来てほしいって言われているんだ。
僕は自転車を停め、1001号のインターホンを押した。
何も言わず自動ドアが開いた。
エレベーターに乗り、ユノの部屋を目指す…
「あっ」
エレベーターホールでユノが待っていた。
僕の顔を見て、少しホッとしているユノが可愛い。
「よかった。間に合った」
「どうしたの?急で驚いた…」
「すまない。いいから。とにかく部屋にきて」
押し込まれるようにユノの部屋に上がり込む。
想像してたより、ずっと…生活感のある部屋だった。
一般的な家庭のリビング…そんな感じだ。
僕は、ドラマで観るような財閥の御曹司の部屋を想像していたんだけど…
「雑然としてるだろ?
まあ、独身の男の部屋なんてこんなもんさ」
「うん…でも、ユノは会社の社長さんでしょ?
もっとすごいマンションに住んでるのかと思ってた。
となりのタワマンみたいな」
「ふん。それは俺が東星グループのぼんぼんだと思ってるからだろ?
言っただろ?俺は親父の力はイチミリも借りたくないんだって。
大学を卒業してからずっと…自分の力で生きてきた。
工場の経営だって、ようやく軌道に乗ってきたんだ。
ここは俺の身の丈にあった、俺の城なんだよ」
わりと広めのリビングダイニングにキッチン。
3LDKってとこかな?
ファミリータイプのマンションだ。
「で、どうして僕を呼んだの?」
「ああ、そうだ!それだよ!
実は…今から弟がここへ来る。
弟がチャンミンに会いたいって言うんだ。
どうやら親父は俺とチャンミンを疑ってる。
俺が同性愛者で、本当にチャンミンと暮らしているかどうか…
確かめるために弟を差し向けた」
一時間ほど前、弟から連絡があったらしい。
この前のパーティーで会えなかったから、会いたい…
とか、なんとか。
ユノのお父さんは、自分の息子がゲイだなんて信じていない。
嘘だって疑われてる。
だから…弟に様子を見に来させたというのはあり得ると思った。
「でも…『チャンミンは留守だ』って言えばいいじゃない?
旅行に行ってるとかなんとか、いくらでも嘘は言えると思うよ」
「それも考えた。
でも、チャンミンは知らないだろうが…
弟はものすごく勘が鋭い。
そして…ブラコンだ」
「ブラコン?!ブラザーコンプレックス?!」
「俺と弟はひと回りも離れてる。
こう言っちゃなんだけど…俺のことを溺愛してる」
「プッ…」
ユノから「溺愛」だなんて言葉が出るなんて。
僕は思わず吹き出した。
「笑うなよ!」
「だ、だって…溺愛とか言うんだもの。くっくっく…
でも、異母兄弟なんでしょ?
弟さんの母親はソミさんで…ユノはソミさんを嫌ってる」
「弟は別だ!生まれた時から…弟のことは可愛がってきた。
俺には他にきょうだいはいないし。
あいつも俺のあとをいつもついてきて…」
なるほど…弟は兄であるユノを溺愛しているから…
仮にも恋人の立ち位置にいる僕を品定めに来るんだな。
はあ…また、ひと芝居するか…
ユノの顔も見れてなんとなくうれしかったし。
ピンポーン♪
インターホンが鳴った。
ユノがドアを開ける。
僕とユノ…作戦開始だ!