*こちらで書いているお話はフィクションです。
登場人物は実在の人物の名をお借りしていますが、
ストーリーは作者の創作によるものです。

 

 

 

 

 

 

21.




こうして…
僕はまたいつもの日常に戻った。
あの夜、過ごしたリゾートホテル…
当然、部屋は別々でディナーのあと、
僕とユノは隣同士の部屋で過ごした。
ユノの事はカッコいいと思うよ。
頭は良いし、立ち振る舞いもスマート。
どうやら父親に反発して、
自分で会社を立ち上げたようだ。
ユノは小さな工場だって言うけど、
そこそこ儲かってるようだし。
若き実業家って感じかな?
帰りの車の中では取り留めのない話をした。
クールな青いジープは自分で稼いで買ったそうだ。
都内で一人暮らし。
いまは寝ても覚めても仕事のことばかり考えてるって…
僕の話はほとんどしなかった。
話すようなエピソードもないしね。
楽しくない話ばっかりだから。


「あ…」


スマホにメッセージが入っていた。
「光の家サナトリウム」からだ。
連絡するの忘れてた…


『来月、こちらにいらっしゃいますか?』


ああ、そうだった…
来月こそは行かなくちゃ…


「ユノからは…さすがに来ないよね」


メッセージアプリを開く。
ユノとは拾ってくれた駅で別れた。
実に淡々と…
そりゃあそうだ。仕事なんだから。
僕としては珍しく情が入ったけど、
それはユノが…ちょっと好みだったから。
名残り惜しさがなかったと言えば、嘘になる。
別れ際、一応連絡先は教えたけど…
ユノから連絡が来ることはないだろう。
報酬の1200万Wは早々に振り込まれていた。


「さあ、仕事!」


今日の仕事はコスプレモデル。
コスプレした僕の写真を何に使うのか…
まあ、そんなことはどうでもいい。
ベッドから起き上がり、テレビをつけた。
ネットだけの情報じゃ偏るから、
必ずテレビのニュースもチェックする。
これも擬態が必要な仕事のため。
世の中のことを知っていないとね。
ニュースでは夏のレジャーを楽しむ人々が映し出されている。


「そっか…もうすぐ夏休みなんだ…」


その時だった。
僕のスマホが震えた。
何となく予感がして…


「ユノ?!」


僕はすぐに出た。


「はい…」


「チャンミン?!俺、ユノ…」


「ああ、うん。どうしたの?」


平静を装ったけど…
興奮して声が上ずりそうだった。


「大変なことになった。
いますぐ家に来てくれないか?!
いや、すぐに来てほしい!!」


スマホの向こうでユノの悲愴な声がした。
僕の心臓がドクンと大きな音を立てた。


「ちょっ、ちょっと待って…
いますぐって…何があったの?」


声が震えているのが自分でもわかった。
こんなドラマみたいなこと…ある?!


「こっちに来てから話すよ。
俺のマンションは…」


ユノは自宅マンションの住所を告げた。
僕は頭の中でマップを検索する。
なんだ…そんなに遠くないじゃないか!
「KH企画」のあるビルからなら車で5分…


「わかった、すぐに行くよ!」


「どれくらいかかる?」


「えっと…自転車で15分くらいかな。
タクシー待ってるより早いと思う」


「待ってる!」


「待ってる」とか「いますぐ来てほしい」なんて…
初めて言われたよ。
僕は舞い上がり、急いで着替えた。
自転車の鍵を持って、スニーカーを履いて…


「あっ、そうだ」


僕は迷わず社長に電話を掛けた。


「はい。チャンミン?」


「社長!僕、今日の仕事行けなくなった!
キャンセルか…社長、代わりにお願い!!」


「はあ?!ちょ、チャンミン!!おま…」


「ごめん!!よろしくね!」


僕は自転車に飛び乗り、颯爽と街を走り抜けた。