*こちらで書いているお話はフィクションです。
登場人物は実在の人物の名をお借りしていますが、
ストーリーは作者の創作によるものです。

 

 

 

 

 

 

 

15.



タキシードを渡され、
僕は広々としたウォークインクローゼットの中で着替えた。


「男同士なんだし。着替えぐらい隠れてしなくても」


「ぼ、僕は…誰かに裸を見られるのがイヤなんだ!」


「ふふ。変な奴だなぁ」


ユノは笑ったけど…
僕にとって、「男」は異性でもないけど同性でもない。
僕は女じゃないけど…恋愛対象は男で、
仮にもハンサムなユノの前で肌を晒すなんてできない。
ユノのお古だというタキシードは、
驚いたことに僕にぴったりだった。
手の長さ、足の長さ…
僕たちの体形が奇跡的に似ていた。


「へえ、思った通りだ。
チャンミンを初めて見た時、
このタキシードが思い浮かんだ。
俺より似合ってる」


「……」


僕はなんとも言えなかった。
たしかに…自分で言うのも可笑しいけど…
「馬子にも衣裳」ってことわざもあるけど、
本当によく似合っていた。
まるでオーダーメイドみたいに。


「クリーニングしてあるから、綺麗だろ?
俺が大学の卒業パーティーに着たっきりだけど」


ユノはスーツケースの中から自分のタキシードを取り出し、
着替え始めた。
着ていたシャツを脱ぐと、
ユノの白い素肌が露わになった。
なんて綺麗な…顔だけじゃなくて体も陶製の人形のように白くて…
僕の心臓が騒ぎ始め、胸がぎゅっと苦しくなる。


「ちょ、ちょっと…外に…」


「え?外って…」


「ト、トイレ!」


「おい、チャンミン!」


僕はタキシードを着たまま、
慌てて部屋の外に出た。
あのままユノの着替えを見ていたら、
僕のカラダが…大変なことになってしまうと思った。
バタンと乱暴にドアを閉め、僕は廊下の壁によろよろと凭れた。


「はあ…簡単な仕事じゃなかったな…」


今頃、後悔しても遅いけど…
僕はユノに振り回されてる。
ああいうタイプの男って、そういう人種だ。
育ちが良くて、生まれつきすべてを持っている男。
なんだよ!この別荘は!
ここが別荘なら、自宅は城か?!
きっと、小さい頃から手に入らないものはなくて…
望みのままに生きてきたんだろうな。
気が付けば、僕は心の中でユノに毒づいていた。


「誰ですか?」


不意に誰かに声をかけられた。


「わあっ、びっくりした!」


「パーティーのお客様?
ここはファミリーのプライベートスペースですよ」


立っていた少年は怪訝な顔をして、僕に訊ねた。
色白で、くるくると見つめる瞳は愛らしい。
黒服ではなくて、まだ学生みたいなんだけど…


「あ、あの…招待されて…たぶん。
トイレ…探してて…」


「トイレ?ああ、そうでしたか。
では、案内します」


服の上からでもわかる筋肉質。そして細腰。
笑うとまるでポメラニアンのように可愛い。


「迷われたんですね?広いですから…」


「ええ、まあ…あの…学生さん?」


「え?あ…はい。高校三年生です」


「そうなの?!大人っぽいね?」


大げさな僕の声に驚いて、少年は目を丸くした。
ヤバい…何者だなんて聞かれたら…どうしよう。
政財界のお偉方が来るパーティーなのに、
僕みたいなのが招待されてるなんて不審だよね。


「ははっ。そんなこと、初めて言われました。
うれしいです。いつも子供っぽいって言われますし、
子供扱いされるのがちょっと癪だなって思ってるので」


「はは…そうなんだ?ははははは…」


笑って誤魔化すしかない。


「トイレはここです」


「あ、ありがと…」


そう言うと、少年は礼儀正しく一礼して…
背筋をまっすぐ伸ばして引き返していった。
彼はパーティーを手伝うアルバイトなのかな?


「いけない!時間!!」


焦った僕はユノの部屋へと急いだ。