*こちらで書いているお話はフィクションです。
登場人物は実在の人物の名をお借りしていますが、
ストーリーは作者の創作によるものです。

 

 

 

 

 

 

《強き者》



「ユンホさんは…
捕らえられている医官様に会いたい…と?」


「ああ。でも…手立てが見つからなくて。
どうか罪が軽くなるようにと、
トウヤ先生も掛け合って下さると言っていたけれど。
ハヤン先輩が同性しか愛せないということは、
ごく限られた人間しか知らないはず。
それを王警隊が知っていたことも不思議で…
この前、先輩に会った時も表情が暗かった。
いつも私のことを気遣って下さっているのに、
私は先輩を気遣って差し上げることができなかった。
とても、とても…悔やんでも悔やみきれなくて」


「そうでしたか…
ユンホさんにとって大切な方なのですね」


「今日、王女様との面会があって…
頼んでみたけれど、しくじってしまった。
逆に王女様を怒らせてしまったようで…
私は本当に…何をやっているんだ!」


ユンホをハヤンに会わせてやりたい──
会ったところで何かを変えられないとしても。
チャンミンは、ハヤンへの自分の思いもユンホに託したいと思った。


「ユンホさん。私にいい考えがあります。
必ずユンホさんを医官様に会わせてあげます」


「チャンミン?危ないことは…」


「ふふ。大丈夫です。危ないことはけっして…」


そういうと、チャンミンはユンホから離れた。


「チャンミン…」


「心配しないでください。
私にしかできないこともあります。
待っていてくださいね!」


天女のような微笑みを残し…
ふわりと衣を翻して、チャンミンはどこかへ消えてしまった。
いったい何をしようというのか?危ない真似は絶対にさせられない。


「こうしてはいられない。
私も…なにか策を考えないと!」


どうして、こうも不器用なのだろうと自分自身が厭になる。
感情的にシュリ王女に懇願した自分を恥じた。
誠実であれと、父に教えられて生きていた。
だが、それは…時として強みにも弱点にもなってしまう。
諸刃の剣なのだ。
ユンホは急いでトウヤを訪ねた。


「先生、ハヤン先輩のことはわかりましたか?」


「ユンホ。俺もいま此処へ戻って来たばかりだ。
ハヤンは北の地下牢に捕らえられているらしい。
お父上が面会を申し出ても許されないそうだ」


「やはり…」


「お父上は、どうか命だけは助けてもらえるようにと。
偕王様に助命嘆願されているそうだが…」


トウヤは椅子に座り、机に肘をついて頭を抱えた。


「ちくしょう!こんなことで…
優秀な若者の未来が散らされるなんて!
ハヤンは誰かを傷つけたりしていない。
ただ…同性しか愛せない質に生まれただけだ!」


「トウヤ先生…」


「ふっ…だが、こんな場所で吠えてみたところで…
何も変わりはしないのだがな。
俺は…弱い卑怯者だ。
面と向かって王様に言えたなら…
だが、それも出来ない。
弟子の一人を守る事も出来ない。
本当に弱い男だ」


トウヤもまた、ユンホと同じように自己嫌悪の渦にいる。
時だけが無情に過ぎて行った…



その夜のこと──
ユンホの部屋にチソンアが忍んできた。
昼間と同じように、ユンホをどこかへ導こうとしている。


「チソンア、チャンミンか?
チャンミンに頼まれて…来てくれたのか?」


チソンアのあとをついて行くと、
宮殿の北の端にある、人けのない炭小屋の前に出た。


「ユンホさん」


「チャンミン!」


「しっ!静かに。これ…」


チャンミンがユンホの掌に何かを握らせた。


「これは?!」


「北の地下牢の入り口の鍵です」


「どうして?どうして君がこれを?!」


チャンミンは、女官の仲間に頼んで牢番の食事を運ぶ仕事を変わってもらった。
その時…食事の中に眠り薬を入れたというのだ。


「そんな危ないことを?!」


「大丈夫です。私の知り合いの女官たちは、
やさしい医官様の味方です。
眠り薬はヤンさんが教えてくれた薬草を使いました。
効き目は強力なので、当分は起きないと思います。
だから…いまのうちに医官様に会ってきてください!さあ!」


チャンミンは自分に驚いていた。
人間に転生した自分は弱いのだと思い込んでいた。
だが、愛するユンホのためなら…
自分で考え、行動することができるということを。


「チャンミン、すまない!
ここは危ないから…早く宿舎に帰るんだよ」


チャンミンの頬に頬を寄せ…
ユンホは地下牢へと続く階段を下りて行った。