*こちらで書いているお話はフィクションです。
登場人物は実在の人物の名をお借りしていますが、
ストーリーは作者の創作によるものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

22.





躊躇いながらも、チャンミンは道慶の後に続いた。
父、ソンミンの位牌を作り、
供養してくれるという道慶の申し出を、
チャンミンは素直に有難いと思った。
いずれ、自分がもっと大人になったら、
丁重に両親を弔いと思っていた…


「あの…本堂では?」


本堂の前を素通りする道慶の背中に、
チャンミンは声をかけた。
道慶は背中越しにちらりと振り向き、


「ああ、本堂ではない。私の居室にあるのだよ」


そう言って、どんどん奥へと進んでいく…


「お、お待ちください!」


寺の奉仕のため何年も通ってはいるが、
こんなに奥深くまで足を踏み入れたのは初めてだった。
いわば、ここは道慶の私的な居住領域で…


「どうした?」


そこから先は禁区である気がして、
チャンミンは怖気づいて足を止めた。


「あの…こちらは道慶様の私的なお住まいなのでは?
僕は幼い頃より、本堂から奥へ入ってはいけないと教わっています」


「ちっ」


道慶の小さな舌打ちを聞いた気がした。
チャンミンの中で、得体のしれない恐怖が膨らんでいく…


「チャンミン。この私が…
特別におまえの父の位牌を作り、経をあげたのだぞ?
それを…無下にするつもりかい?
さあ、こっちへおいで!」


「あっ…!!」


思いもよらない強い力で、道慶がチャンミンの腕を引いた。


「ちょっ、道慶様!お待ちください!」


「待たぬ!私は十分…待った。もう一寸も待てぬ!!」


「ああっ!!」


暗い廊下の一番奥まで引きずられ、
チャンミンは薄暗い部屋の中に投げ出された。


「道慶様!何をされるのですか!?」


そこは窓のない狭い部屋だった。
重厚な木の扉を閉め、道慶は閂をかけた。
くるりと振り向いたその顔は…
いつもの物静かで知的な道慶ではなかった。
冷たく、欲望に滾るその顔を見たチャンミンは…
自分の身に降りかかろうとしている災いを予見し、
全身が総毛立ち、鳥肌が立つのが止まらない。
燭台に火を灯すと、道慶はゆっくりとチャンミンに近づいた。


「可笑しなこと…
チャンミン、おまえは叔父夫婦に何も聞かされていないのかい?」


「なっ、なにを…ですか!?」


チャンミンは床を這いながら、じりじりと後ずさった。
道慶に迫られ、狭い部屋の壁際に追い詰められた。
道慶は膝を折り、チャンミンの顔を覗き込んだ。


「おまえは…私の稚児になるのだ」


「ち、稚児?!まさか…僕が?」


「何をそんなに驚くことがある?
仏門に身を置く僧侶が、稚児を抱えるのは珍しいことではない。
私はおまえのような美しい子を探していたのだよ。
チャンミンが15歳になったら…
稚児として私に差し出すと、叔父夫婦には話をつけてあったのだ。
もうすでに一年待っている…」


「そんなの…聞いていません!
僕は、稚児になんかなりません!!」


稚児とは…
女人禁制の寺において、
男色の相手をする少年のことだ。
道慶は幼い頃よりチャンミンに目を付け、
いずれは稚児にと目論んでいたのだった。


「い、嫌です!!」


「嫌もなにも…おまえの体は、とっくに私のものなのだぞ。
おまえの叔父たち…いや、おばが強欲でな。
都の白拍子が買えるほどの銀を差し出せと言うてきた。
たしかに…チャンミンほどの美貌ならば高くはないと…
叔父夫婦に大金を渡し、おまえを買ったのだよ」


「稚児…買う…」


チャンミンは恐ろしい事実に身震いした。
自分の知らぬところで…
道慶と叔父夫婦が繋がっていた。
道慶は幼いチャンミンを可愛がり、
親切に振る舞って手懐けた。
そして、年頃になった時期を見計らい、
叔父夫婦に稚児になる話を持ち掛けたのだ。


「もっと早くに稚児にしてもよかった。
だが…それだと村人に反感を買ってしまうからね。
おまえは村人たちに好かれている。
農民とは思えない優美な容姿、誰にでもやさしく親切な心根。
素直でよく気が付く働き者だ。
そんなチャンミンを年端もいかぬうちに稚児などにしたら…
せっかく築いた村人たちとの信頼感、
私を敬い慕う心…寺への寄進も失ってしまう。
だから、待ったのだよ。
おまえが…誰かと睦み合うことが当然の年頃になるまで」


「嫌だっ!」


立ち上がろうとするが、眩暈がして体に力が入らない。


「あっ…どうして…」


「ふっ…この部屋に焚きしめた香には…催淫の作用がある。
どうだ、チャンミン…体が熱いだろう?
腰が疼いているのではないか?私に…抱いてほしいと思わないか?」


「はあ、はあ、はあ…どうして…そんなっ」


催淫作用があるとは知らず、
吸い込んでいた香がチャンミンの気力を奪う。
体に力が入らず、チャンミンは床に転がった。


「道慶様、なぜこのような…惨い仕打ちをされるのですか?
僕は…稚児になど…なりません…
幼い頃より…親切にして下さった貴方様を…
師と慕い、信じておりました…それなのに…なぜ?!」


「チャンミン…それは…すまなかったね。
だが…とても残念だ。チャンミンは…
純粋に私を恋い慕ってはくれていなかったのだからね。
私は、ずっと…おまえが欲しいと思ってきたのだよ?
初めてこの寺に入った時から、ずっとね…
私の稚児になることは、おまえにとって悪いことではない。
徳の高い私と交われば…おまえの徳も上がるのだから」


そう言うと、道慶は体の自由が利かないチャンミンを押し倒した。

 

 

 

 

 

 

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