*こちらで書いているお話はフィクションです。
登場人物は実在の人物の名をお借りしていますが、
ストーリーは作者の創作によるものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

13.




そして、僕たちは…
たびたび行動を共にするようになった。
とはいっても、社内のカフェテリアでランチをするくらいだけれど。
あの時、ユノが助けてくれなければ…
僕はきっと、ミスを取り返すことは出来なかった。
上司にも海外の支社の担当者にも、大変な迷惑をかけることになっていたと思う。
ユノが現れた時、少し戸惑ったけれど…
でも、ユノの顔を見て不安な気持ちが薄らいだのは事実だ。
僕にない逞しさと行動力で、不可能を可能にできる男…
ユノにはそんなオーラとパワーがあるのだ。


「あれ、先輩。今日は一人でコンビニのおにぎりですか?」


昼休みになり、僕は自分のデスクでおにぎりを食べ始めた。


「うん。そうだよ。どうして?」


「だって…先輩、最近はよくチョンさんと一緒にランチしてるから」


今日、ユノは外回りだ。
そういう時、僕は一人でコンビニおにぎりのランチを済ませる。
僕たちは特に何かルールを決めているわけではなく…
タイミングが合えば一緒に食べるし、
それぞれが別々の時だってある。
僕はユノの個人的な連絡先を知らない。
ユノも同じように、僕の連絡先を知らない。
知っているのは、互いに住んでいるマンションだけ。
それもおかしな話だけれど…
いま、僕はユノとのこの距離感を心地好く感じている。


「ふぅん…なんだかつまらないです」


「どうして?」


「うーん、なんていうか…私、チョンさんと一緒にいるシム先輩って…
ちょっといいな~って、思うから。
チョンさんの横に並んでるシム先輩、なんかちょっとカッコいいっていうか」


「はあ?どういう意味?
まあ、ミンさんが言いたいことは何となくわかるけど…
こんな僕でも、カッコいいユノと並んでいたら、
それなりに見えるってことでしょ?〇〇マジックっていうのかな?」


レイはため息を吐いて肩を竦めた。


「はぁ…先輩、全然わかってないんですね。
どうしてそんなに自分を低く見るんですかぁ?
先輩、よく見たら…ハンサムですし。
メガネの奥の瞳がすごくきれいだって…思いますよ。
私が言いたいのは…
チョンさんと一緒にいる先輩は、なんだかキラキラしてるってことです!」


「え…」


レイはぷりぷりしてオフィスを出て行った。
僕はレイの言葉の意味を考えながら、首を捻った。
なぜ、彼女が怒っているのかわからないけれど…


「もしかして…褒められてる?」


僕はなんだか胸の奥がくすぐったくなった…
そして、遠い記憶が蘇り、胸がきゅんと痛くなった。


「あ、この匂い…ユノだ…」


コーヒーのいい香りが近づいてくる。
ユノがコーヒーを淹れてきてくれたのだ。


「ユノ」


「あっ、気づいてた?サプライズだったのに。
cafe-Yunhoがシムさんに食後のコーヒーをお届けに来ました!」


「廊下に居ても分かるよ。とってもいい匂いだもの。
今日はずっと外じゃなかったの?」


僕にコーヒーを渡し、
ユノは隣のミンさんの席に座った。


「うん、そう。でも、今日は俺一人で回るから。
昼飯の後で、ちょっと戻ってきたんだ。
コーヒー飲みたくなったんだけど、一人じゃ侘しくてさ。
どうせ飲むなら、誰かと…ってね」


「わざわざ?ユノってわりと寂しがりなんだね」


ユノは少し眉を下げて、意味ありげに微笑んだ。


「でも、僕は有難いよ。
コンビニおにぎりの後に、こんな美味しいコーヒーが飲めるなんて」


「有難い?うれしい…じゃなくて?」


「え、あ…うん。うれしい…よ」


ユノの視線に照れ臭くなって…
僕は不意に目を逸らした。


「そうだ…はい、これ」


「えっ、なに?」


僕はおにぎりと一緒に買った、
コンビニのバームクーヘンを渡した。


「わあ、俺…実は甘いもの、大好きなんだ。
いいの?もらっても…」


「うん、どうぞ。いつもコーヒー淹れてもらってるから。
ユノは甘党じゃないかと思って。
お酒が苦手だって言ってたしね」


「よくわかってくれててうれしいね。
じゃあ、遠慮なく…いただきます!」


うれしそうにバームクーヘンを頬張るユノ。
僕は、会社は生活の糧を得に来る場所だと思っていた。
飲み会の雰囲気は嫌いだし、人と関わるのは最小限でいいと思っている。
でも、そんな僕が…
オフィスにいて、こんなにも穏やかな気持ちになるなんて。
ユノが転勤してくるまでは思いもよらなかった…


「あ、社内メールが来てる…」


ヨヌからだ。
僕はヨヌにも個人的な連絡先を教えていなかった。
こうして社内のメールを利用すれば、事足りるから。
僕に個人的な用事のある人間なんて、
この会社にはヨヌくらいしかいないのだけれど…


「じゃ、もう行くわ。
シム、バームクーヘンごちそうさま」


「こちらこそ…コーヒーありがと…
ユノ、ちょっと待って。ヨヌからメールが来てるんだ」


「ヨヌ?ああ…いつかカフェテリアで会った…
営業部の同期か。それが俺に関係あるの?」


ユノは訝しげな顔をしてじっとりと僕を見た。
この前もそうだったけれど…
僕は、なぜユノが不機嫌になるのかわからない。
気を取り直し、


「ヨヌが…同期会の日時が決まったって。
来週の金曜日。ユノの歓迎会も兼ねてるからって…
参加してくれるか、聞いといてって言ってる」


「ふーん。行かない」


「えっ、即答?!そんなぁ…ユノのための同期会だよ!」


「俺はシムの真似をしたの。
シムだって、飲み会は行かないんだろ?
じゃあ、俺だって行かない」


「そんなぁ…せっかくヨヌが計画してくれたのに…」


ユノは上着と鞄を持ち、立ちあがった。


「もう行かなくちゃ。
俺、シムが行くなら…行ってもいいよ。
だけど…シムが行かないなら…俺も行かない。じゃ!」


後ろ手に手を振って、ユノはまた外へ出てしまった。
困った…僕が同期会に行く?!そんなの…
いったい、どうすればいいんだろう…

 

 

 

 

 

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