『おとなの週末Web』では、グルメ情報をはじめ、旅や文化など週末や休日をより楽しんでいただけるようなコンテンツも発信しています。国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。第1回は、国民的バンドとなったサザンオールスターズの桑田佳祐です。


1978年デビューのサザンオールスターズ





左から『熱い胸さわぎ』(1978年)『タイニイ・バブルス』(1980年)『NUDE MAN』(1982年)『人気者で行こう』(1984年)『10ナンバーズ・からっと』(1979年)『Young Love』(1996年)『綺麗』(1983年)



歳月は、スネアドラムの音のよう。聴くきし音は、すぐに空気に溶け込んでゆく。



1978年のとある夕方、ぼくは原宿は表参道にあったビクター・レコードの地下の喫茶店にいる。後に大プロデューサーとなるTさんが、ひとりの男を伴ってやって来た。少年っぽさが消えて、大人になる寸前の青年。



彼がサザンオールスターズの桑田佳祐だった。デビュー・アルバム『熱い胸さわぎ』は、1978年8月25日に発売され、それに先立つ6月25日、「勝手にシンドバッド」がパイロット・シングルとして発売されていた。しかし、まだサザンオールスターズはブレイクしていなかった。J-POPという言葉はまだなく、ニュー・ミュージックが全盛の時代だった。



1978年の春、T氏に呼ばれたぼくは、ビクター・レコードに出向き、サザンオールスターズのデモテープを聴いた。1曲だけの視聴だったが、限りない可能性を感じた。グループ名は、ニール・ヤングの名曲「サザン・マン」とサルサのファニア・オールスターズを合体させて生まれた。桑田佳祐の住まいが、湘南は茅ヶ崎市南湖(なんご)にあったのも、イメージにプラスしている。



シングルは出た。売れなかった。アルバムが出る。業界関係者は注目したもののまだ売れていなかった。



そんな時代の桑田佳祐を知る者は少ないと思う。ぼくはブレイク直前の彼と逢えたのだ。


メンバー全員が公平に



桑田クンは、青山学院大学を出て就職しないでプロダクション、レコード会社と契約したわけだけど、契約の条件とか何かあったの?とぼくが尋ねる。



“メンバー全員が大学を出た人間の初任給をもらえるよう、プロダクションと交渉しました。音楽業界にメンバー全員が就職したという感じが欲しかった”



その答えを聞いた時、彼の地に足が着いたしたたかさを感じた。契約金何百万円という代わりに、メンバー全員がそこそこ生活できる金額は、音楽シーンで生き残るためのしたたかさに通じると思ったのだ。



そのころのサザンオールスターズは桑田佳祐がリーダーではなかった。彼はフロントマン的交渉役だったのだ。メンバー全員のことを考えたプロダクションへの提案だったのだ。



バンドが不仲になる原因として、金銭的トラブルがある。作詞、作曲をする者には売れれば多額の印税が入る。それができないメンバーは、少ない給料でやらねばならない。同じバンドで演奏しているのに貧富の格差ができ、それがトラブルの種となる。



会社に就職したのなら、ちゃんと働いていれば給料が上がってゆく。メンバー全員が公平に。それが桑田佳祐の先を見たしたたかさであり、優しさだったのだ。



収入に満足していた“毛ガニ”







サザンの名盤の数々



まだ売れる前から、この男は大物になると思えた。音楽面だけでなく、人間的に。


実際、1990年代、パーカッション担当の毛ガニこと野沢秀行と仕事をした時、給料について尋ねると、一メンバーとしては充分な金額だと彼は満足していた。大ブレイクしても、桑田佳祐だけが経済的に満足するだけでなく、メンバーも潤していたのだ。


会社に就職して、労働を積み上げてゆく。それに比例して、給料も上がってゆく、その労働に安住を覚える。今では考えにくいが、これは1970年代、昭和の時代のコモンセンス、庶民感情だった。


サザンオールスターズが国民的人気となれたのは、原初から時勢に根付いた庶民感情を持っていたから。今では、そう思える。


人は何気ない問いの答えの中に真実を埋め込んでいる時がある。“大学出の初任給”の中には、実は深い意味があったのだ。サザンオールスターズが後に多くのファンに寄り添い、人気となる萌芽がこの答えにある。

サザンが作る“オリンピック音頭”が聴きたかった


あれから43年。オリンピックの夏。今ひとつ世論は盛り上がらない。サザンオールスターズが、オリンピック音頭を作っていたなら、もう少し、違った今日があった気がする。桑田佳祐の仕切るオリンピック、観たかった




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そんな感じですグッド!