戦場のアリア編集する 全体に公開
2010年05月20日20:50
お父さんへ
こんな事態なのに何にも力になれない愚かな娘をお許しください。


~第1章 いざ戦場へ。~
18日 農林水産省副大臣が対策本部へ入る。
ようやくマスコミが動き出し、
もうすぐ ビルコンも入る。
同日 東国原知事が 非常事態宣言を発令。
それを受け 宮崎市も口蹄疫対策室を設置。
畜産に詳しい精鋭を揃え 宮崎市に口蹄疫を入れるな!!
という 強い意志の元 各々配置につく…

ようやく戦える。
もうすぐ最強武器(ビルコン)が届く。
私たちは 援軍が来るのを喜び
勝利を確信し、数少ない武器 食酢や石灰を手に
戦場の最前線で防御線を張る。

早く 援護射撃を!!

私たちは 必ず この目に見えない敵に打ち勝ってやる!!

皆 必死だった。

愛する者を守るため 必死に戦っていた。

ようやく援軍が到着。

そして 指揮官が 放ったのは

「ちまちましてられない!!」

と 散弾銃を戦場に向け 私達ごと撃ち貫いたのだ。

不意を突かれた私たちは やっと届いた最強の武器を使うことなく、
天を仰ぐことも無く 前のめりに倒れた。

目の前の敵に打ち勝つことも無く、抵抗することもできず、
国に殺されたのだ。



~第2章 錯綜する感情~

爆心地 川南 

滞る作業

いまだ 6万頭が殺処分されず、
ただ 生かされている。

処分された家畜は ビニールシートにくるまれ
土の中へ埋却される
消毒作業も終わり、ようやく防疫終了となる。



数日後 地面からジワリと血液が滲み出し、
川南は 異様なにおいが立ち込める。

ただでさえ 処分した家畜を埋めるところが無く
探している状態なのに

その事実を知った近隣住民は 近くの土地に埋却することを拒絶し
なお 土地が無くなる。


それなのに 国は 追加で20万頭の家畜を殺処分とすることを決定。

これで 宮崎県の半分の地域で 偶蹄類の家畜がいなくなる。

国は 牛1頭に対し 60万円の推奨金と経営再開のための資金交付をするとのことだが、

経営再建しようにも 牛がいなくなった後では 60万円で牛が飼えるかどうか 定かではない。



私達は 悲しみ 不安 絶望に駆られ、その後の職さえ危ぶまれている




~第3章 再起への決意~

娘:もしもし おはよう。どう?
父:おう!おはよう。
  元気ど~ウッシッシ うちの牛は元気そのもの指でOK
  な~んも 異常なしexclamation ×2

娘:ワクチンのことやけど、まだ検討の余地があるやろうし…
  もし そうなったら、反対運動がおこるやろうから。
  もう少しがんばって。
父:おう。心配するな。
  俺の牛 殺されんければそれのほうがいいっちゃけんが、
  口蹄疫を抑えないかんから、
  俺は 口蹄疫には負けん!!
  こんくらいじゃ負けんからよ。
  もう 次始める計算をしよるとよ。
  近所の人は 負けたけんが、もう辞めるけんが、
  俺は やめん。もう一回 ゼロからのスタートやけんが、
  頑張るから。
  心配すんなウッシッシ

娘:うん。頑張って。

父:もう一回 リセットして、
  明日晴れたらよ、俺の牛 ぜ~んぶ外に出してやって
  1頭1頭 写真撮るつもりやとよ。
  はつこを先頭に、認定牛の3頭並べてよ、
  今まで 俺と頑張ってきた 32頭を全部うちに飾ろうと思っちょっとよ。

娘:うん涙うん。泣き顔 わかった
  泣き顔 ごめんね。 なんも力になれんくて、泣き顔
  ごめんね。 和美も頑張るから。また がんばるから・・・

父:おう、がんばるど じゃあな。







泣かないと決めてたのに、励ますつもりだったのに、
逆に励まされ、
偉大なる父の強さを実感し、

強い父 優しい母の間で
私は未だに守られている。

情けない、悔しい、やり場のない思いがこみ上げて、
涙が止まらなかった…




~第4章 再びあの興奮を~

父の牛がセリ場に立つ。

凛とした姿。

決して大きな牛じゃない。

血統だって ちょっと マニアック。

日齢に対してかなり小さい体。

セリが始まる。
40万50万・・・
それから ジワリジワリと 数字が上がる。

父は本人ボタンから手を離す。

まだ ジワリジワリと上がり続ける。

会場からどよめきが起こる。

まだ 上がる

そのうち 購買者から
「誰が押しよっとか~!!」
と 罵声が飛ぶ

「すいません。俺に下さい。頼みます。俺に下さい。」
ボタンを握ったままの手を 会場中に見えるように挙げる。

どよめきの中 落札される。

あの興奮は 今でも忘れられない。


そんな セリが 幾度となくあった。
私は その光景に魅了され、

牛づくりの魅力にどっぷりとはまってしまった。



もう一度 近い将来、あの興奮を 絶対味わう!!
次は 私の牛で!!





~最終章 そして伝えたいこと。~

感染拡大に兆しが見え隠れするころ、
一人の豚の獣医師が 国に対して 発生場所1キロ圏内のワクチン接種の許可の要望書を提出する。

国はそれを無視する。

感染が拡大し、いよいよ太刀打ちできなくなる
知事は 国に対して 支援を、そして500m内の全頭処分を許可してほしいと 要望する。

国はそれを 法律が…と言って 拒否する。

マスコミが騒ぎだす。

自分の非を隠そうと、国は対策本部に入る。

ワクチン接種を検討したのはわずか半日。

イギリスでの口蹄疫終息は 半径3キロ圏内のワクチン接種後殺処分だった…

そして 国が出したのは、

ちまちましてられない。
ぼろが出る前にさっさと終わらせたいと言う思いが見え見えの

10K圏内ワクチン接種後殺処分と
20K圏内の偶蹄類を0にすること。

最初の1キロや 500メートルを 無視しておきながら、
自分の立場が危うくなる前に

10キロという めちゃくちゃな距離を出してきた。

半径20キロという数字は 宮崎県の半分を占めた。

宮崎牛ブランドは 壊滅された。

私達が 選んだ 政府は 私達をいとも簡単に見捨てる政府だった。