私は幸福感に満ちていた。

 

今から主人と、ラブに会いに行く。

 

まだ、術後数時間。

ラブは伏せてグッたりしているだろう。

目が覚めたら狭いゲージに入れられて、さぞかし不安になっているだろう。

そもそも、ゲージ自体に慣れていないラブ。

怖がってはいないだろうか?

早く行って、安心させてあげたい!

入院予定、1週間分のフードを作り、

ラブと家族の匂いのついたタオルを持って、車に乗り込む。

 

病院に到着。

 

普通に診察を待つ他のワンコ達を見て

(なんて平和なんだろう。)

 

12時間前、この場所は薄暗く静まり返っていた。

居たのは息子と私だけ。

共に苦しい戦いをしていた。

(時は流れている。解決しないことはないんだな。)

私は思った。

 

主人と2階に上がり

その扉を開ければラブがいる。

私はワクワクして、主人の後に続いた。

 

ゲージのワンルームマンションが視界に広がる。

(みんな病気なんだ。家族と離れて、頑張っているんだなぁ。

 ・・・可愛そう)

こんなに沢山のワンコ達がいたなんて、昨夜は気がつかなかった。

この何処かにラブがいる。

「ラブ!ラブ!」・・・

 

信じられない〜^o^

ラブがすっわている。

しかも、スッキリとした顔でニコニコしながら。

私達を見て尻尾も振っている。

 

ゲージの前の椅子に座わり、主人が手をゲージの中に差し伸べ

ラブの頭を撫でると、ラブはどうして良いのかわからないとでも

言うように、狭いゲージの中をウロウロ。

まだ、術後7時間。

傷口が心配で、ラブを落ち着かせようにも

一向に落ち着く様子も無く

私達も嬉しいやら、困るやら・・・

と、思いきやラブは伏せた。

 

私は「ラブ、治ったらホームに帰るから良い子にしてるんだよ」

「ラブは良いこ良いこ」と何度も繰り返した。

 

そこへ、先生がいらして「出血は止まりましたよ」

「お腹の中の血はそのままです。が自然に体に吸収されていきます

退院は少し早まるかもしれません。4日くらいで退院できると思います」

と笑顔で話してくださった。

 

一番心配していた出血が止まった。

しかも、退院が早まるって事は、術後の経過も良いって事だろうし

思いもよらない喜びだった。

 

私達は、先生にお礼を言い、深々とお辞儀をした。

 

あまり長くいてもラブが落ち着かないので

早々に帰る事にした。

 

ラブに納得して欲しくて

「治ったらホームに帰るからね」

「ラブは良いこ良いこ」と何度も何度も言った。

主人も同じ想いのようで、同じような事を言っていた。

二人が個々に言っているので、逆にラブには理解しにくかった

かもしれない。でも、想いは伝わるだろうと、気にしなかった。

 

帰りの車中は軽かった。心が軽くウキウキしていた。

 

お腹も減って『いきなり!ステーキ』に寄った。

 

「ラブ、おめでとう!」とラブの分まで、モリモリ食べた╰(*´︶`*)╯♡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラブの心配はしないように。ラブを信頼しよう」と息子に言ったお陰げで

私もそうしなければと心が軽くなった。

 

午前3時。

帰宅してベッドに潜り込む。

(先生から電話がかかってくる。病院へも行くことになる。

今のうちに休んでおかないと)

 

午前4時50分

携帯がなる。

病院から。

ドキドキしながら「はい」

先生から「今から手術を始めます。」

私は今更の事だが気になっていた事を、とっさに聞いてしまった。

「昨日の日中、かかりつけの病院で、副腎皮質ホルモンと抗生物質を

注射してますが大丈夫ですよね」

「それはちょっと仕方ないですね」と先生。

確かに、今更仕方がない。

・・・ラブが可哀想になった。かかりつけの先生の誤診で余計な事をして

高齢に加えて、不必要な薬を注入されて。

副腎皮質ホルモンを投与すると喉が乾くのに、ラブは昨日の夕方から

一滴の水も飲んでいない。

 

心が刺されたように痛くなった。

 

ラブ、頑張れ。   

そう祈る・・・しかなかった。

 

それから1時間後。

携帯がなった。病院から。

(手術は確か2時間くらいかかるような話だったのに

まだ1時間ではないか。)

どうして?と思いながら慌てて携帯を掴む。

 

「手術は終わりました。開始直後に血圧が下がってしまったので

脾臓を摘出してすぐに閉じてしまいました。

ごめんなさい。肝臓や他の臓器は見ていません。」

 

(ラブの腹部はエコーでは脾臓の腫瘍しか見えなった為

開腹した際に肝臓や他の臓器を確認してもらう事になっていた。)

 

先生は若くて綺麗な女医さんだったので、正直、技術はどうなんだろう

っと気になった。でもラブのために先生を信じようと決めた。

 

・・・信じた通りだった。

 

「開腹したら血の海だったので、脾臓が見えなくて

手探りで取り出しました。」と先生から聞いた時には

ほんの一瞬でも疑いを持った事を申し訳なかったと思った。

そして、心から先生に感謝をした。

 

ラブは麻酔が覚めてはいるものの、まだ眠った状態で瞼をピクピクしている。

 

手術は無事に終わった!

 

無事だった。それだけで十分に嬉しかった。

 

それから30分くらい後にラブは覚醒した。

 

家族全員、喜んだ。

親友犬のご家族も凄く喜んでくれた。

 

高齢犬で麻酔の心配から手術は怖かった。

でもやらなければ死んでしまう。

やるしかなかった。

 

ラブは今、生きている。

 

とにかく生きている。

 

神様、ありがとうございました。

 

ラブ、よく頑張ったね!

 

ラブは、良い子!良い子!!

 

 

 

 

先生が厳しい顔で、ラブのいる2階から降りて来られたと思ったら

手には注射器。「ちょっといいですか」と診察室へ呼ばれた。

「勝手に刺してすみません。これはお腹の中のものです。

 赤いですよね。出血してます。」

ラブのお腹の膨れは出血のためだった。

どこから?

エコーの結果、脾臓に握り拳大の塊。その塊が破裂したようだ。

何日も前lから少しずつ出血していたのか

破裂していきなり出血したのかは分からない

どちらにせよ、今、500mlくらい、もしくはそれ以上の血液がお腹に

溜まっている。

「緊急手術適用です。」

「手術をしなければ、余命1日。

 手術をしても、今までみたく歩けなくなって、寝たきりになるかもしれないし

 脾臓摘出して出血の原因を取り払っても、出血が止まるかどうかはこの子次第」

先生は丁寧に起こりうる可能性を説明してくれた。

 

高齢になってからは、手術はしないと決めていた。

でも、今はそんな事を言ってる場合ではないことは理解できる。

でも、手術をして延命できても、その後の生活がラブにとって不自由で

辛いものだったらラブは幸せではない。

逆に可哀想だ。

 

なんて辛い選択肢なんだろう。

私は夢をみているようだった。

先生の、今、想定できる全ての病状の説明を真剣に集中して聞いて

いても、脳が拒否でもしているのか?理解できない。

何がなんだか。よく聞く、頭の中が真っ白になる。って

こういう事なのか。・・・とか、わけがわからない状態に陥っていた。

 

横で、息子が先生に、確認をしながら質問をしている。

彼の脳は、今、覚醒している。凄いな。

 

待合室に戻り、息子と考え込んだ。

早く決断しないと・・・思いながらも決断できない。

 

息子の提案で、ラブの親友犬の医療に詳しいお母さんに電話をした。

深夜1時。こんな時は非常識でも平気になる。

親友犬のお母さんが先生と直接話してくれた。

真夜中だというのに、親身になってくれた。心強かった。有難い。

 

決断できないまま、息子が先生に、ラブに会わせて欲しいと頼む。

私達はラブの元に。

 

ラブは私達を見ると、のそっと起き上がりゆっくりと歩いてきた。

さっきまでのラブはなんだったのだろう。

大丈夫だ。

「ラブ、ワンツーに行こう」先生の許可を得て、外に連れて行った。

 

ラブはいつもと変わらず歩いている。

大丈夫だ。さっきまでの事はなんだったのだろう。

私はラブを連れて帰ろうと思った。

 

いつもと変わらずワンツーが済み、ホッとしたのも束の間

病院へ戻ろうとするラブの足がフニャフニャ〜と

力果てラブは倒れた。

 

手術をしよう。

 

私は先生から手術の説明を受け、書類にサインをした。

 

息子は、横たわり死にそうなラブに

「手術をして元気になったら、またグリーンハイツへ散歩に行こうな」

・・・虚ろだったラブの目が、一瞬、力強く息子を見た。

 

ラブはわかってる。

 

深夜2時半は過ぎていた。

会計を済ませ帰ろうと、ドアを開けた瞬間

2階の奥の部屋にいたラブが

『わん!!』

力を振り絞って吠えた。

 

静まりかえった院内に響きわたる。

 

後ろ髪を引かれながら

 

ラブ、頑張るんだよ。

神様、ラブを助けてください。

 

ラブを残し、頭も心も、無の状態で病院を出た。