【前回までのあらすじ】

主人公、柏木優奈は大学に合格して上京し、ヒマワリ荘にやってきた。押し入れの天井にある不思議な扉を開けると、なんとそこには住人達の秘密の仮想空間が・・。そこはヒマワリ荘の住人達の憩いの場でもあり、自分の理想を叶えられる魔法の空間でもあった。ニックネームで呼び合う住人たちは、優奈のニックネームを「サラ」と名付けた。憧れの林田先輩に認めてもらいたくて、テニスの猛練習をしていた。そんな時、住人の一人であるお嬢が、恋人とデートだというのに、浮かない顔をしている。嫌われ者のヤン坊に言われたキツイ発言に何も言い返さない様子からして、なにか事情をかかえてるようだ・・。


→登場人物を見る♪



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


優奈はさきほどの出来事を思い浮かべながら

帰路を歩いていた。


昨日のお嬢やボインとの練習の成果もあり、

優奈はすっかりボールを打ち返すことができるようになっていた。



「よく頑張ったね。」

そんな優奈に林田先輩は、

優しい言葉をかけてくれた。


その一言で、

優奈の気持ちは天まで昇るくらい高ぶっていた。


優奈はテニスラケットを振り回しながら、

ヒマワリ荘への最後の曲がり角をまがった。


すると、ヒマワリ荘の入口の門の横のあたりに、

見覚えのない白の高級セダンが停まっているのが見えた。


その手前で、六がギターを背負って、

ブロック塀の影から何かを見ている。



「六っ!!」

「しーっ!!!!!」

優奈は六に声をかけると、

なにかマズイことでもあるのか、

六は振り返り、優奈を黙らせた。


六の視線がラケットにいき、

六の顔が少し歪んだ。


「どうしたの?」

優奈は小声で聞くと、

六は黙って門のムコウの敷地を指差した。


会話が聞こえる。


「もうここへは来ないでほしいの。」

揺れるお嬢の声。


「なぜだい?

もっと金が必要か?

それとも他に男でもできたのか?」

見知らぬ男の声だ。

太く渋い声。


お嬢の恋人だろうか?


「どちらでもないわ。」


「それなら・・。」

六と優奈が門の陰からそっと覗くと、

ちょうど男がお嬢の肩を抱き寄せ、

キスしようとするところだった。

男は50歳前後だろうか。

深いシワのせいで、お嬢に比べるとだいぶ年上に見えたが、

年を感じさせない素敵な雰囲気をだしていた。


お嬢はキスを拒み、

肩に乗せた手を振り払った。


その時、男の指にキラリと光るものが見えた。

「私ね、私・・」


優奈は男の指に光るものをよく見ようと

身をのりだした。

男の薬指にはしっかりと

結婚指輪がはめられていたのだ。


「ちょっ、押すなっ。」

六の声で、優奈はハッと我にかえった。

「うわっ。」

気づくと二人は倒れて、

優奈は六に抱きついていた。



「・・ごめん!!!!!」

優奈は驚いて、六から離れた。


なにやら視線を感じ、

ハッとして二人はお嬢を見た。


お嬢と男は、驚いた表情でこちらを見ていたが、

二人と目が合うと視線をそらした。



「また連絡する。」

男がお嬢にそっと言った。

「・・えぇ。」

お嬢は複雑な表情で答えた。


男は優奈と六に優しく微笑み、

軽く会釈をすると、車に乗り込み、

その場から去っていった。


お嬢の深刻そうな表情が、

いつのまにか呆れた優しい表情に戻っていた。


「あんた達、いつそんな関係になったの?」

「ち、違う違うっ!!」

優奈は必死に否定した。


「盗み聞きなんて、いい趣味してるわね。」

「悪りぃっ!!

だってちょうど帰ってきたらいたからよっ。

なんか邪魔しちゃ悪りぃっつーかさっ。」

六が慌てて弁解した。


「冗談よ。

別に見られても困るもんじゃないし。

気にしなくていいよ。

・・でも、ちょっとかっこ悪いとこ見せちゃったかな?」


お嬢はそういうと、

また少し悲しげな表情を見せた。

優奈は黙って首を横に振った。


「私ちょっと寝るね。

今日も夜から仕事だし、

寝てないのよっ。」


「おやすみなさい。」

先程のあの男とのやりとり、薬指の指輪を見て、

優奈はお嬢のことを心配に思ったが、

引き止める理由もなく、そう答えた。


優奈のその返事を聞くと、

お嬢は優しく微笑んで部屋に戻った。


取り残された優奈と六は、

自分達の部屋に向かって、2階への階段を上がった。


「ねぇ・・。」

部屋の前まで来ると優奈は六に話しかけた。


「あっ!?」

六はなにか考え込んでいたみたいだった。


「さっきのことはさ、みんなには秘密にしておこうね。」

「さっきのこと!?」

少し焦ったような六の反応を見て、優奈は少し声を落として言った。


「お嬢のことっ。」

「あぁ、お嬢のことか。うん、わかったよ。」

六はやっと理解したのか、気の抜けた返事をした。


「あのさっ・・。」

「ん?」

部屋の鍵を開けていた優奈に

六が何か言いかけた。


「いや、やっぱいいや・・。
俺もちょっと寝るかな。」

「うん、わかった。」


六が何を言いかけたのか少し気になったが、

優奈の頭はお嬢のことでいっぱいだった。


何か引っかかるところがあったからだ。


「じゃぁな。」


「うん。あ、ねぇちょっと待って、六。」

優奈は部屋に戻ろうとした六を引き止めた。


「ん?」

「あいつ、ヤン坊はお嬢が不倫してるってこと、知ってたってことだよね?」

優奈は昨日のヤン坊とお嬢のやりとりを思い出していた。


「ん~、どうだろうな。

あいつの場合は、ただの嫌がらせだろ?」

202号室のドアを開けたまま、六はこちらを向いた。


「ねぇ、ヤン坊はお嬢がこれ以上傷つく前に、

もう別れたほうがいいって、

本当はそう言いたかったんじゃないかなぁ?」


昨日、ヤン坊は

お嬢に話があって来た

と言っていたのを思い出したのだ。


「サラはあいつのこと、まだあまり知らないからそう思うんだよ。」


六はヤン坊については

何を言っても否定的な態度を示した。


「そうかなぁ?」

「そうだよ。」

カターン


カターン


階段を誰かが昇ってくる音がして、

二人は話をやめた。


ボインが顔をだした。


「じゃぁな。」

六はそのまま部屋に入り

ドアを閉めた。



「おかえりっ!!」

ボインはあきらかに落ち込んだ表情をしていたので、

優奈はわざと明るく振る舞った。


「何かあったの?

さっき少し話し声が聞こえたけど。

ヤン坊がどうとか・・。」


優奈はボインに打ちあけようかと思ったが、

お嬢とあの男の光景が脳裏に浮かぶと、

今は話す気にはならなかった。


「んーん、何かあった訳じゃないの。

さっき六と下であったから。

昨日ね、ヤン坊と初めて会ったけど、嫌なやつなんだねーっとか話してただけっ。」


「ふぅーん。」

優奈は必死に嘘をついたが、

ボインはあまり聞いていないのか、

ボーッとしているように見えた。

「何かあったの?」


明らかに浮かない顔のボインを見て、

優奈は聞いた。


「んーん。ちょっとバイトで失敗して怒られちゃってっ。

落ち込んでただけっ。」

ボインは無理に元気をだそうとして微笑んだ。


「私、今日は一人になりたいから、

ムコウの世界には行かないねっ。」


「うん、わかった。」

優奈の返事を聞くと、

ボインはかわいらしく小さく手を振り、

201号室へ入っていった。


○●第13話へ続く●○


星ランキング参加中星
→ ねこへび人気ブログランキングへ ねこへび  ←
→ ぶーぶー にほんブログ村 小説ブログ ぶーぶー ←

アップ応援click!! お願いしますアップ