【前回までのあらすじ】

主人公、柏木優奈は大学に合格して上京し、ヒマワリ荘にやってきた。押し入れの天井にある不思議な扉を開けると、なんとそこには住人達の秘密の仮想空間が・・。そこはヒマワリ荘の住人達の憩いの場でもあり、自分の理想を叶えられる魔法の空間でもあった。ニックネームで呼び合う住人たちは、優奈のニックネームを「サラ」と名付けた。メインルームにある3つの扉を開けるのムコウには、自分の望む空間が用意される。

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優奈がこのヒマワリ荘にやってきてから、


1ヶ月がたとうとしていた。


大学生活では、


大きなキャンパスで迷子になったり、掲示を見落として遅刻をしたりと、


バタバタとした毎日だったが、仲の良い友達もできた。


同じ学科で、初日にたまたま近くに座っていた、

章子と幸恵だ。


章子は、まるでモデルのようなスタイルで、


ファッションもメイクも完璧だった。

その容姿から、同性からも異性からも憧れの眼差しで見られ、

章子と歩くと周りの視線を感じることが多々あった。


優奈はそのたび、透明人間になりたいような気分になったが、

誰にでも明るく気遣う章子の優しさが好きだったし、

章子も優奈や幸恵といる時は、落ち着けるようだった。


幸恵は赤ぶち眼鏡をかけた、


見た目も考え方も少し個性的な女の子だった。

インテリアの雑誌が好きで、


部屋に遊びに行った時には、


世界各国のインテリアに関する雑誌が飾られていた。


自分の好きなことに対しては、とことん知っていたいと、


楽しそうに語る幸恵を見ながら、

優奈は少し焦るような気持ちになることがあった。



上京して1ヶ月、


たくさんの人と出会い、お互いを知っていくうちに、

自分はなんて薄っぺらな人間なんだろう。

と考え込んでしまうことが多くなり、

優奈を時々悩ませた。



そんな日は、少しでも早く帰り、

ヒマワリ荘のもう一つの世界に顔を出すようにしていた。


本当は自分と向き合う時間を


つくりたくなかったのかもしれない。


もう一つの世界では、

優奈はサラとして、ありのままの自分でいられた。


「いったぁぁーっ。」

サラは地面に尻もちをついた。


「あはははっ。

あんたってホントにとろいのねぇっ!!」

お嬢がおもしろがって笑った。


優奈は、章子に誘われて


大学のテニスサークルに入った。



幸恵も初心者だったこともあり、

軽い気持ちで参加したが、

運動音痴な優奈は、

いまだまともに球を打ち返すこともできず、

落ち込むばかりだった。


「んもぉっ!!


お嬢が変なところに打ってくるのが悪いのっ!!」


この日は、お嬢とボインを誘って、

テニスの練習に付き合ってもらっていた。

3つの扉の一つを開ければ、


青空の下3人だけの貸し切りのテニスコートがあらわれる。


「わかったわかったー。


今度はちゃんと狙うからさっ。」


そう言うと、


お嬢は転がっていた球を、すいーっと引き寄せて、


もう一度ラケットを振りおろした。


「ぎゃーーーーっ!!!」

今度は調度いい位置に飛んで来た球を見て、


サラは打ち返さなきゃというプレッシャーから、

なぜか絶叫していた。


大きなパラソルの下、サングラスをして、

まるでリゾートにでも来ているようにくつろいでいたボインが、

サラの絶叫にビクッとした。

パコーーーン

球こそ見ていないものの、

見事に相手コートまで打ち返せた。


「やったぁ、サラさん。すごぉ~~ぃ。」


ボインが半分寝かかっていたような声で

サラを励ました。


「サラやったじゃなーい!!」

お嬢はラケットを振って叫んだ。


「お嬢、いま、何かしたー?」

自分が打ち返せたのが信じられず、

サラはお嬢に聞きかえした。


「もっかい、行くよーっ!!」


お嬢は答えず、もう一度球を打った。


「うわわっ。」


パコーーン


サラはビクビクしながら、

でも今度はちゃんと球を見て打てた。


「やっ・・たぁ。」

ちゃんと打ち返せた喜びと疲れが一気に吹き出し、


その場に寝転んだ。


すると、

なぜか同じサークルの先輩で、

章子の彼氏の友達でもある、林田先輩の笑顔がよぎった。


サラは少しキュンとした自分に気づき、


頭をブンブン振って、その笑顔を振りはらった。


「みんな、ありがとうねー。」


サラは、


お嬢とボインにお礼を言った。


「後で肩でも揉みなさいよぉ~。」


お嬢はそういうと、

ラケットと球を消して、

テニスのユニフォームからキャミワンピに着替えた。


「あっ、いっけない!! すぐ帰らなきゃっ。」


お嬢はふと

大事なことを思い出したように言った。


「今日はお仕事お休みじゃなかったの?」

サラが聞いた。


「私にだって、仕事以外の用事くらいあるのよ。」

「もしかしてっ!!彼氏とデート!?」

お嬢が答えると、ボインがすかさず聞いた。


お嬢はなぜか悲しい笑顔を見せたが、

否定はしなかった。


お嬢はみんなの集まるメインルームに戻ろうと扉を開けたが、

なぜかその場に凍り付いた。


サラとボインは不思議に思い扉に近づくと、

六と聞いたことのない声の人物が、

口喧嘩をしているのが聞こえた。


ボインが怪訝そうな顔で、小さく声を発した。


「げっ、ヤン坊。」




○●第11話へ続く●○





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