昨日の彼の様子が心配だったけれど、
朝の様子を見る限り大丈夫そうね。
少しだったけれど、顔も見れた事に安心していたわ。
「おはよ〜七海〜。」
声の主が分かったので歩みを止めて振り向くと
そこに居たのは、
七海 「おはよう、聖。」
当直明けの彼女だった。
柊 「今日は出勤?」
七海 「必要な書類があって
取りに来たのよ。
直ぐ出るわ。」
柊 「そか。」
七海 「気をつけて帰るのよ。」
柊 「アイアイサー。」
七海 「それから、サトの事なのだけれど。」
柊 「聡君がどうかした?
あれ?昨日って確か練習ラストで食事会だったよね?
何かあった?」
七海 「食事会から帰った後にちょっと・・。
オーバーヒートを起こしてしまったわ。」
柊 「そう・・。」
七海 「朝、顔を見てきたけれど
落ち着いているようだった。
念の為、仕事は休ませているから家に居るのよ。」
柊 「分かった。
私はもう帰るし。ちゃんと目を配って置くから。」
七海 「ありがとう、聖。」
柊 「七海は安心して仕事に向かって。」
七海 「えぇ。」
こう言う時、彼女が居てくれて助かるわ。
彼にはエージェントが居るから大丈夫とは思っていても
彼女の存在は本当に救いになる。
七海 「朝食は食べていないわ。
何か食べれそうならお願いね。」
柊 「オッケー。」
七海 「必要な物があったら連絡を入れて貰えたら対処するから。」
柊 「分かった。」
七海 「お願いね、聖。」
柊 「うん。」
七海 「それじゃ、私は行くわ。」
柊 「はいよ。」
彼女と別れた私は私室へと向かう。
七海 「本当に、いよいよなのね。」
歩きながら私は思う。
その舞台を終えた時、一体どうなるのかしら?
その先の事を考えると色々不安になって来るのだけれど
今は無事に成功する事を願うのみよ。
当直を終えた私は院内で七海会った。
彼の事を聞かされて心配しない訳ないじゃん。
とにかく家路に急ぐ。
真っ先に部屋へと向かうと彼は眠っているようだったの。
柊 「顔色も良さそうだし、、
安心したよ・・・。」
ゆっくりとしたペースを心がけて
その言いつけをしっかり守って
彼なりに乗り切ってきた。
ここに来てその努力が水の泡になっても困るなって思っちゃうんだよね。
柊 「聡君、、おはよう・・。」
反応があったので声をかけてみると彼は目を覚ました。
聡 「あれ、、聖さん・・・?
仕事は終わったの・・・?」
柊 「終わったよ。」
聡 「もう、、そんな時間なんだね・・・。
じゃぁ母さんは仕事に行ったんだ・・・。」
柊 「院内で七海に会うことがあって
それで聡君のことを聞かされて。
驚いた。」
聡 「ごめんなさい、、、みんなに心配かけてしまって。」
柊 「うぅん、大丈夫。気にしないで。
それで?体調は平気?」
聡 「うん、、」
ゆっくりと起き上がる彼。
柊 「お水?」
聡 「うん、、、」
サイドテーブルにあったお水をグラスに注ぎ彼に渡す。
それを受け取り一口含んだ彼。
柊 「顔色も良いし熱も・・・」
彼の額に手を当てる。
体温計で測らないとしっかりとした数字は分からないけれど
何となく大丈夫そうな感じがした。
柊 「後でちゃんと測ってみるけれど、
この感じからして大丈夫そうだね。
寒気はまだある?」
聡 「大丈夫。」
柊 「そっか。
じゃぁ、、何か食べたい物とかは?」
聡 「今は・・いらない・・。」
柊 「分かった。
聡 「・・・・・。」
あれっ、、、急に黙っちゃったんだけれど・・・
柊 「ん?どうかした?」
聡 「・・・・・。」
何も言わない彼・・・。
潤んだ瞳だけが私を見つめている。
柊 「・・・・・。」
気づかない訳ない・・・
こう言う時の彼ってきっと甘えたいんだろうなって思う。
私だって彼の雰囲気や仕草で気づけるようになってきた。
最初は戸惑った事もあったけれど、
でもこれは彼なりの精一杯のシグナルだって事を。
柊 「ってことは・・・。」
きっとこう言う事だよね。
私は彼のシグナルを受け取る事にしたの。
彼をそっと抱きしめる。
柊 「私は隣にいるから安心して。」
聡 「ありがとう、、、聖さん・・・・。」
柊 「もうちょっとだね。」
聡 「・・・うん。」
柊 「私はずっと聡君の事見てるから。
辛かったら寄り添ってもらっていいし
肩の荷を下ろしてもらっていいから。」
聡 「・・・ありがとう、、、」
柊 「それから・・・」
聡 「うん、、、」
目と目が合う。
思っている事は二人とも同じだってなんと無く感じる。
ただそれを言葉に出すと言う事が恥ずかしいんだけれど。
柊 「甘えてもらっていいんだからね。」
ここは私が先に言うべきかな。
そうすると事で彼自身もちょっと気を許すでしょ。
聡 「聖さん・・・・。」
彼は私をギュッと抱きしめる。
ほらね、、思った通り。
本当に甘え下手で不器用なんだから・・。
って人の事は言えないんだけれどさ。
私はちょっとだけ大人だから(笑)
こう言う事に対処出来たりもする(笑)
柊 「疲れて居る時はいいんだよ、甘えて。
聡君が私にそう思ってくれるのは本当に嬉しいから。」
聡 「・・・・うん。」
色んな思いが一瞬で途切れたのか、
完全に私に身を委ねてしまう彼。
感じる体温はそれ程高くも思えないから
熱は下がったって思って良いんだよね。
柊 「聡君はさ、本当に頑張ったよ。」
聡 「・・・・・。」
柊 「いつもは絶対に言うこと聞かないで暴走するのに
今回ばかりはしっかりと言いつけを守って
ここまで来たんだから。」
聡 「・・・・・。」
柊 「ここまで来たからには必ず成功させて欲しいと私は思う。」
私もまた彼をギュッと抱きしめる。
鼓動が早くなるのが分かった。
このまま突き進みたいと言う気持ちが心の奥で疼き始める。
柊 「だから今は甘えて。
私に甘えて良いから。」
ちょっとだけオブラートに包んで話を振ってみる。
これに対して彼はどう思うか分からないけれど、
私はちゃんと彼の思いを受け取ったよって言う意味も込めた。
すると
聡 「うん、、、、ありがとう。」
彼はそう答えてそっと呟く。
聡 「じゃぁ、、、、甘えて・・良い?」
と。
私はコクンと頷き
柊 「良いよ。」
と彼の肩に顔を埋める。
聡 「聖さん、顔あげて。」
柊 「聡君・・・。」
目と目が合ってそのままキスをする。
聡 「好きだよ、聖さん・・。」
柊 「私も大好き。」
再び目が合うと互いに笑う。
そんな時もほんの一瞬で。
聡 「・・・・触れる、、、ね。」
と彼の言葉。
柊 「うん・・・。」
愛しさを抱きながら
互いの鼓動が速くなるのを感じつつ時は過ぎて行ったの。