約束のクローバー 3rd -3ページ目

約束のクローバー 3rd

あれから一年・・・
物語はまだまだ続く。

 

 

ステージの袖でその姿を見ている私。

各々が最高のパフォーマンスをしようと必死なのが伝わってくる。

そして、ここの関わっている人全てがそれを成功に導こうしている。

その交わっている空気は誰もが入る事が出来ない程に張りつめていたわ。

 

彼の様子を見る限り、今の所は大丈夫そうね。

状態的にはギリギリの所に居るのだけれど

彼自身の思いを優先させたいと私は思っている。

 

 

 七海 「・・・・。」

 

 

それから・・・もう一人。

中央に立つ人物を見た。

 

 

 七海 「大丈夫かしらね。」

 

 

確信は得られないけれど、少しだけ不安を感じていた。

 

 

    「主任。」

 

 

呼ばれてハッとした私は声の方を見る。

私の事をそう呼ぶのは一人しか居ない。

 

 

 七海 「逸峰。」

 

 

随分と久しぶりに会うその人の姿は

何にも変わってはいない。

 

 

 逸峰 「ご無沙汰しています。

     お元気ですか。」

 七海 「えぇ。」

 

 

何処かぎこちない雰囲気もあるけれど

そのうち解消するでしょう。

 

 

 

 七海 「久しぶりね、逸峰。

     あなたも変わりは無いようね。

     何よりだわ。」

 逸峰 「ありがとうございます。

     お陰様で何とかやっています。」

 七海 「そう。」

 逸峰 「主任もお変わりない様で安心しました。

     噂では色々聞いていまして・・

     お忙しい身なので少し。」

 七海 「心配してくれているのね。」

 逸峰 「はい、、もうあの時と同じ事は・・・。」

 七海 「ありがとう、逸峰。

     仕事もセーブしているし

     今の院長は私の事を理解してくれているわ。」

 逸峰 「そうですか、、それなら安心です。

     そう言えば・・・・。」

 七海 「?」

 逸峰 「”親子”になられたそうですね・・・

     主任と”あの彼”。」

 七海 「えぇ。」

 逸峰 「聞いた時は驚きました。

     でもそれはとても素敵な事だと私は思っています。」

 七海 「そうね・・・私自身も驚いている。

     彼とこんな関係になるとは・・・

     思ってもいなかったから。」

 逸峰 「主任・・・。」

 七海 「色々あったけれど、

     お互いにプラスになったと思ってるわ。

     まだ戸惑う事も多いけれど

     上手くやっていける筈よ。」

 逸峰 「優しい眼差しでしたよ。」

 七海 「ん?」

 逸峰 「さっきの光景。  

     主任が彼を見る眼差しがとても優しかったです。」

 七海 「・・・。」

 逸峰 「あの光景を見た時に、

     やっと過去を払拭したんだなって・・・

     勝手ながらに思ってしまいました。」

 七海 「逸峰・・。」

 逸峰 「良かったです、本当に。」

 

 

そう言う逸峰の目は少し潤んでいるかしら。

彼女なりに私の事を本気で心配してくれているのよね。

 

 

 七海 「ありがとう、逸峰。

     あなたには本当に感謝してるわ。」

 逸峰 「いえ、そんな・・勿体ない言葉です。

     私はただ・・・”あの時”の自分が許せなくて・・・

     もっと行動に移していたらとか、色々考えてしまって。」

 七海 「お互いに、色々あったものね・・・。」

 逸峰 「そうですね・・・。」

 七海 「私はもう大丈夫よ。

     だから、逸峰。」

 逸峰 「はい?」

 七海 「これからは、あなた自身の幸せを考えなさいね。

     あなたには幸せになって貰いたいから。

     いい?約束よ。」

 逸峰 「はい。」

 

 

そんな昔ばなしもしつつ、逸峰が

 

 

 逸峰 「そう言えば・・・瑞希・・・

     どうかしましたか?」

 

 

と聞いてきたわ。

 

 

 逸峰 「ずっと気にかけているようでしたので・・」

 七海 「緊張とかないのかしら?あの子は。」

 逸峰 「本人に言わせたら、慣れ・・だそうです。」

 

 

クスッと笑いながら逸峰は言ったわ。

 

 

 七海 「そう、慣れなのね。」

 逸峰 「私も冷静過ぎて不安に思ったので聞いてみたら

     そんな風に言っていました。」

 七海 「そう・・・・。」

 

 

とは言っても何となく気になるのよね・・・

 

 

 逸峰 「主任?」

 七海 「ごめんなさい、私の気のせいかもしれないわ」

 

 

私が気にしすぎだけなのかもしれない。

それならそれで良いのよ。

隣に居る逸峰は私が言った言葉が気になるようで考え込んでいる。

少しだけ悪い事をしたわね・・・。言わなかった方が良かったと思う。

 

 

 七海 「逸峰、そんなに考え込まないで頂戴。

     そんなつもりで――。」

 

 

と言いかけた所に

 

 

     「七海、夕妃!。」

 

 

加わる声。

声の主は

 

 

 七海 「聖。」

 逸峰 「先輩。」

 

 

だった。

私的にはこのタイミングで合流してくれて助かったと思っていた。

 

 

 柊   「お久しぶりじゃん、夕妃。

     元気だった?」

 逸峰 「はい。先輩は?

 柊   「見ての通りだよ、元気元気!」

 逸峰 「そうですか。」

 柊   「リハーサルだって聞いて

     ちょっとでも見れたらなって思ってきたんだよ。

     まだこれからっぽい?」

 七海 「えぇ。」

 柊   「ほえ~。

     みんな凄いね!本気モードだね。

     ちょっと前までは、海堂麻里奈だーとか

     八神早矢だーとか騒いでいたのにね(笑)

     みんなプロじゃん、プロ。」

 逸峰 「本当に凄いと思います。

     アマチュアバンドであの空気感を出すのは。

     そのバンドを見つけた”銀河彗”も流石だと思います。」

 七海 「・・・・。」

 逸峰 「何をどうしたらこのバンドに辿り着くのか・・・

     私には、正直分かりませんが・・・。」

 

 

スッと視線を送るのは、あの子。

 

 

 逸峰 「これが良い方向に向かってくれたら、、と。

     そう思っています。」

 

 

それはつまり、あの子と彼の事情を言っているのよね。

 

 

 逸峰 「今の所・・近づこうとはしないですからね。

     この企画で会うと言う事自体、、奇跡なので・・。

     ”銀河彗”の思いは分かっていても、

     あの彼と会うとなるとどうしても進めない様子だったので。」

 

 

心から話せる時は来るのかしらね・・・。

 

 

 柊   「きっと大丈夫だよ。

     音楽は絆をも紡ぐんだから。 

     聡君も瑞希ちゃんも。

     私達が信じてあげなきゃ!」

 

 

こう言う時の彼女の言葉は誰にも負けないのよね。

それは私も逸峰も知っている。