エピソード26[さぁ、行こう!] (8) | 約束のクローバー 3rd

約束のクローバー 3rd

あれから一年・・・
物語はまだまだ続く。

 

 

ついに迎えた当日。

緊張がないと言うと嘘になるけれど

思っているより落ち着いている自分がいる。

他のメンバーは到着してからずっとそわそわしていて

緊張感と高揚感が入り混じっている雰囲気を感じていた。

リハーサルのアナウンスが流れてバックヤードに集まってもなお

その感じが続いていたけれど、それぞれに応援が駆けつけてきた事もあり

少しだけ場の空気が落ち着き始めている。

 

 

  「瑞希。」

 

と呼ぶのは夕妃さん。

 

 

 瑞希 「はい?」

 逸峰 「もう直ぐステージでの最後の打ち合わせが始まるから。」

 瑞希 「分かりました。」

 逸峰 「割と冷静な姿があるから驚いている。」

 瑞希 「え?」

 逸峰 「本番なのに瑞希だけはいたって冷静に見える。

     もちろん、他の子達だって場数は踏んでいるから

     それなりになのでしょうけれど。

     浮足立っているようにも見える。」

 瑞希 「そうですか。」

 逸峰 「ここに来て少し落ち着いたようだけれど。」

 瑞希 「みんな色んな思いがあってここに来ました。

     不安だって相当大きいはずでした。

     でも、ここに来て応援してくれる人の言葉が

     少しずつ緊張を解してくれているのは事実です。」

 逸峰 「そんな光景を離れて見ている瑞希はどうなの?

     本番を迎えての緊張は?

     ない訳ではないでしょう? 

     だってこれから”真の姿”を見せる事になるじゃない。」

 瑞希 「そうですけど・・・。」

 逸峰 「私から見たら、全くそんな素振りは感じられない。

     余裕すら感じるのはどうして?」

 

 

夕妃さんにはそんな風に見えているんだな・・・。

 

 

 瑞希 「私は思っているよりも”業界人”何ですよ、きっと。」

 

 

その言葉に驚く夕妃さん。

 

 

 瑞希 「緊張もしています。

     不安だってあります。

     でも、そう言うの慣れているので・・・」

 逸峰 「・・・・、。」

 瑞希 「メンバーの一人に、私は”業界人”だねって言われたんです。」

 逸峰 「そう・・。」

 瑞希 「その時は何とも感じてはいなかったんですが

     ここに来てその意味を痛感しています。 

     こう言う緊張が当たり前の世界に居て

     それがずっとだったので・・・

     みんなより少しだけ免疫があるって事なんでしょうね、多分。」

 逸峰 「幾多の困難も乗り越えて来たものね。」

 瑞希 「そうですね。

     逃げ出したい事も、悔しい事も。

     泣きたい事も・・・たくさんありましたね。」

 逸峰 「時には手に負えないくらいにへこんだ時もあったわ。」

 瑞希 「ありましたね、、そんな時も。」

 逸峰 「でも、瑞希はちゃんと立ち上がって前に進んだ。

     自分で答えをだして、今まで歩いてきた。」

 瑞希 「その答えが合っていたかは分かりませんけど。」

 逸峰 「合っていたのよ、きっと。」

 瑞希 「夕妃さん・・・。」

 逸峰 「決して間違ってはいないと私は思う。

     瑞希の傍で支えてこれた私はそう断言できるから。」

 

 

その言葉は本当に嬉しかった。

 

 

 逸峰 「そして導いた答えの最後がここに繋がる。

     途切れてしまった絆を紡いで。

     ここで”野田瑞希”は最高に輝くのだから。」

 瑞希 「夕妃さん・・・。」

 逸峰 「自信を持ちなさい。

     きっと大丈夫。

     成功するから。」

 

 

ポン、と肩を叩く。

夕妃さんの言葉が私の緊張を解してくれた。

勇気と自信を注入してくれた。

いつもそうだった。

私の事をちゃんと見てくれているから

その時々で欲しい言葉をしっかりとかけてくれる。

その言葉が私の背中を押してくれる。

 

 

  「まもなくステージリハです。

   WINTER HOPEさんステージへお願いします。」

 

 

スタッフの声で場の空気はグッとしまる。

 

 

 逸峰 「行ってらっしゃい、瑞希。」

 瑞希 「行ってきます、夕妃さん。」

 

 

目を目を合わせて互いに微笑む。

 

 

 月村 「瑞希ー!行くよー!」

 瑞希 「分かった。」

 

 

そして私はステージへの一歩を踏み出す。