エピソード26[さぁ、行こう!] (5) | 約束のクローバー 3rd

約束のクローバー 3rd

あれから一年・・・
物語はまだまだ続く。

 

 

光のちょっとした・・いや結構なお節介のせいで

二人で帰ることに。

 

 

 瑞希 「少し歩く事になるけれど、

     大丈夫?疲れたよね、騒がしくて。」

 

 

食事会の後半、殆ど会話に加わる事はない様子だったから

ちょっと心配だった。

 

 

 聡   「大丈夫だよ、ありがとう。」

 瑞希 「いよいよなんだね。」

 聡   「そうだね・・・。」

 瑞希 「どんな展開になるのかな。

     私には想像もつかない。

     でも一つ言えるのは、

     その先には輝く素敵な光景が待っているって言う事。」

 

 

キラキラと光る素敵な光景。

きっと私達を迎え入れてくれる。

それだけはハッキリとわかる。

 

 

 聡   「そこにはきっと、、、」

 瑞希 「ん?」

 聡   「“あの時”の僕達が見たかった光景があると思う。」

 瑞希 「聡君・・・。」

 聡   「あの時の僕達がそこに繋がっていると信じてる。」

 瑞希 「・・・・。」

 聡   「僕が言うのも変だけれど・・

     そうであってくれたら・・・

     僕はちょっとだけ救われるかな・・・。」

 

 

大学の時・・。

私たちは音楽の世界に入る所まで来ていた。

けれどそれは叶わなくて。

バンドメンバー全員が心の何処かで悔やんでいるのは確か。

誰が悪いって訳では絶対にないけれど、

隣に居る人は誰よりも責任を感じている。

 

 

 聡   「やっと、、、心の整理が出来る。」

 瑞希 「聡君ばかりが責任を感じなくていいよ。」

 聡   「・・・瑞希。」

 瑞希 「皆んな子供だった。

     自分の思いばかり主張して

     人の心に寄り添う事が出来なかった。」

 聡   「・・・・。」

 瑞希 「過ごしてきた時間に託けて

     自信だけ振り翳して・・。

     一番大切な事を忘れちゃっていたんだよ・・・。」

 

 

音楽のプロという世界の切符を手にする事が出来るかも。

そんな出来事に酔いしれていた。

だからその思いだけが先に進んでしまっていて

一番辛かったであろう人の心には寄り添えていなかったんだよね。

 

 

 瑞希 「かく言う、私も同じ。」

 聡   「・・・・。」

 瑞希 「もっとしっかり聡君の心に寄り添っていたら

     ちょっとは違った未来があったかもしれない。」

 聡   「瑞希は、、ちゃんと救いの手をくれたでしょ。

     大学に通えなくなっても、家に来てくれて

     手紙置いていってくれた。

     それが本当に嬉しかったんだ・・・。」

 瑞希 「聡君・・・。」

 聡   「だから僕は瑞希に感謝している。

     恩返しもしたいと思っている。

     だから・・・

     今度のライブ、頑張ろうね。瑞希。」

 

 

その人は微笑んだ。

みんな同じ。

今度のライブで気持ちの整理をつける事。

その思いは一つだった。

 

 

 瑞希 「うん、一緒に素敵な音を奏ようね。」

 聡   「うん。」

 瑞希 「無理はダメだからね。」

 聡   「分かってる・・」

 

 

そんな会話をしながら歩く。

 

 

 瑞希 「・・・・・・。」

 

 

光には悪いけれど、

今は結婚の事は言えないよ。

この人の心の中を混乱させてしまうかもしれない。

そう思ったら話すに話せない。

 

 

 瑞希 「全部終わったら・・・」

 

 

話そう。

私の事を全部。

 

 

 聡   「何か言った?」

 瑞希 「ねぇ、聡君。」

 聡   「?」

 瑞希 「この企画が全部終わったら・・・

     私、聡君に話さなければいけない事があるの。」

 聡   「うん。」

 瑞希 「その時は、話を聞いて貰える・・かな。」

 聡   「もちろん。」

 瑞希 「ありがとう。」

 

 

今はまだその時じゃないのかもしれない。

 

 

 瑞希 「全部終わったら話そう。」

 

 

そんな事を思いながら二人並んで歩いていた。

 

 

 

 

話す・・・か。

帰り道、ひょんな事からあの人と二人で帰る事になった。

その別れ際に言われた事が僕の頭の中で渦巻いている。

 

 

 聡   「・・・・・。」

 

 

僕も話さなければいけない事、あるんだよね。

彼女の事や、、他の色んな事。

ずっと隠せる訳でないからきちんと伝えないと、って思うけれど

今はその時じゃないなってなんとなく感じる。

そうだとしたら全てが終わった時に僕も話そう。

 

 

 聡   「・・・・・はぁ、、」

 

 

疲れた・・・。

雪村の奴、あんなに酔って絡んで来るから

僕としてもどうしたら良いのかわかんなかった。

危うく彼女との事が明かされそうであせったけれど

大門や茜さんの登場で救われた気がする。

 

 

 聡   「・・・・。」

 

 

帰宅した僕はリビングのソファーに座っている。

彼女は当直だから家には母しかいない。

 

 

 七海 「もう直ぐ、ね。」

 聡   「・・・うん。」

 七海 「その日は、恭子と由舞も来るそうよ。

     今日、連絡が来たわ。」

 聡   「そっか・・。」

 七海 「由舞がどうしてもって煩かったらしいわ。」

 聡   「・・・・うん。」

 

 

あれっ、、、

母の声がちょっと遠くに聞こえる様な気がする。

 

 

 七海 「当日、母さんも会場に行くわね。

     BDSHに当日の救護担当の依頼が来たのよ。

     もしかすると聖もその関係で行く事になるかもしれないわ。」

 聡   「そっか・・・・それなら・・安心出来る。」

 七海 「そうね、私も安心だわ。」

 

 

中間決算も終わった・・。

バンドの練習も終わった・・。

残すは本番当日のみ。

そう思った時、僕の身体のリミッターが外れてしまったのかもしれない。

これ以上、オーバーヒートさせないために・・と。

 

 

 聡   「母さん・・・。」

 七海 「どうかして?」

 聡   「この部屋、寒くない・・・?」

 七海 「そうかしら?

     エアコンはそこまで低くしていないわよ。」

 聡   「そう・・。」

 

 

その割には物凄く寒く感じる。

僕との会話がおかしいと感じた母はダイニングテーブルでの仕事を止め

僕の隣にやって来て座る。

 

 

 七海 「サト。」

 

 

と優しく呼んで、僕の額に手を当てた。

 

 

 七海 「熱があるじゃない。」

 

 

母の手が冷たく感じる。

この寒さは熱のせいだったんだ・・・・。

 

 

 七海 「急に来たの?」

 聡   「帰って、、、から・・かな・・・。

     この部屋が異常に寒く感じたのは熱のせいだったんだね・・・。」

 七海 「他に辛い所は無い?」

 聡   「大丈夫、、多分・・いつものヤツだと思うから。

     寝て起きれば下がっているはずだよ。

     とりあえず、、、部屋に行く・・よ。」

 

 

ちょっとフラフラするけれどゆっくり立ち上がり部屋へと向かう。

母も心配なようでそっと支えて付き添ってくれた。

 

 

 聡   「ありがとう、母さん。

     向こうに・・・戻って平気だよ。

     仕事していたんでしょ・・・。」

 七海 「そう?」

 聡   「・・・大丈夫だから。

     心配かけて・・・ごめんなさい。」

 七海 「謝る事では無いわ。

     とりあえずゆっくり休みなさいね。

     何かあったら言うのよ。」

 聡   「うん、、ありがとう・・・・。」

 

 

瞼を閉じると、母は静かに部屋を出て行く。

本番まであと僅か。

最高の舞台を迎える日が迫ってきていた。