読後すがすがしい感情には至れないこの本を紹介します。

青い眼がほしい
トニ モリスン, Toni Morrison, 大社 淑子
青い眼がほしい

トニ=モリスンは日本ではあまり有名ではないかも知れません。

1993年にアメリカの黒人作家として初のノーベル文学賞を受賞した女性作家です。

略歴を掲載しますと、(文庫の作者紹介欄から抜粋)

1931年アメリカオハイオ州で生まれる。

コーネル大学で英文学の修士号を取得し、テキサス大学で教壇に立つ。

1970年発表の『青い眼がほしい』で文壇デビュー。

規制の社旗宛貴下置換を問いただす衝撃的な内容が絶賛された。

長編『スーラ』が1973年の全米図書賞候補策となり、1977年に『ソロモンの歌』が全米書評家協会賞、1987年に『ビラヴド』がピュリツァー賞を受賞。


輝かしい賞を獲得しているトニ=モリスンですが、この書は幾つかの箇所で物議を醸しました。

「露骨で生々しい性描写」「低俗で汚い言葉遣い」が問題となり、

アメリカの一部の高校で、カリキュラムでこの書を扱う事を取りやめました。

また別の州でもこの作品が槍玉に上がり、児童の親が抗議の声があがったようです。

この書の批判を受ける経緯は

ニコラス・J. キャロライズ, ドーン・B. ソーヴァ, マーガレット ボールド, ケン ワチェスバーガー, Nicholas J. Karolides, Dawn B. Sova, Margaret Bald, Ken Wachsberger, 藤井 留美, 野坂 史枝
百禁書―聖書からロリータ、ライ麦畑でつかまえてまで

で語られていますので、詳細は割愛します。


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荒んだ家庭環境、父母が暴力沙汰の喧嘩を繰り返す。

また若干反応が鈍い為学校でも嘲笑を受ける。

傷つき易い少女のピコーラは次第に

もし自分に白い肌やブロンドの髪の毛、誰よりも青い眼があれば、どんなに世界は素敵なものに変わるだろう」と考えにいたる。

純粋に無邪気に「誰よりも青い眼にしてください」と神様に祈り続ける。

そんな中或る日、父チョリーから強姦を受け、二度目でピコーラは妊娠をする。

徐々に現実から遠のき始めた日ピコーラは牧師崩れのソープヘッドの元へ訪れ、青い眼を懇願する。

ソープヘッドはピコーラに毒入りの肉を渡し犬にやる事を命ずる。

「お前の望みは犬次第だ」とピコーラに告げる。(彼女に毒入りであることは告げずに)

犬が死んだショックが加わり、ピコーラは完全に現実との接点を失う。

今、ピコーラは青い眼を持っていると信じている。

そして空想上の友人が常に傍にいて「あんたの目は空よりも青いのよ」と囁いている。

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ピコーラ自身の悲劇だけでなく、ピコーラを崩壊に貶めた人々それぞれが非人間的ではなく、

それぞれの経緯を辿って絶望に至り、それらが作用した、

という事実が非常に悲しい物語となっています。

(ピコーラの周囲の人々に物語を持たせ、非人間的にしたくない、という作者の意図が働いていたため)


ピコーラの母、ミセスブリードラヴや父チョリーもかつてはお互いを愛し合い、温かい感情に包まれていた事もあったのだ。

ソープヘッドにしろ、当初からピコーラを傷つける事を目的としていなかった。

ソープヘッドはピコーラの懇願を聞いて絶望し怒りに変わった。

ピコーラの願いが奇想天外でありながら、最も論理的なものであることに気づいたのだった。


私がこの作品が好きな所以です。

人々の感情の流れが丁寧に、優しい言葉で綴られています。

登場人物が使う「汚く乱暴な」言葉遣いと対照的で、とても印象付けられます。

タイトルでも用いた「二重の差別」黒人対白人という形式は分かり易いものの、

黒人同士で用いられる差別、「自己嫌悪」について浮き彫りにした作品がこの作品です。

黒人の男の子がピコーラを「黒んぼやーい 黒んぼやーい」と苛める場面。

夢のように素敵な、肌の色が薄い黒人の女の子でお金持ちである彼女を前にして、

白人の少女達は彼女が勉強相手に割り当てられても歯を吸いはしなかったし

、黒人の少女達は、女子用トイレで彼女が流しを使いたがる時には脇へ寄ってやり、へつらうように眼を伏せねばならないという描写。

「差別」が明るみに出て、活動が活発になった60年代の「現実」が浮き彫りになっています。

多分あんまり普通の書店には置いてないので、大きい書店に行くか、注文になってしまうかと思いますが、是非一読をオススメします。