それから二日後、彼の結婚祝いという名目で飲み会が開かれた。
もちろん私も誘われた。
あまり気は進まなかったが、彼と一番仕事をしている私が不参加というのもおかしな話だろう。
なにより彼のことを吹っ切ることができるかもしれない。
そう思って、参加することに決めた。


「結婚おめでとうございまーす!!」

和やかな雰囲気で始まった飲み会。
集まったのはいつものメンバーで、若手が中心だ。
終始話題は彼の結婚話で、私はただ聞いていればよかったので楽だった。
明日も仕事だというのに、盛り上がったみんなはそのまま二次会へ行くという。私は、もうみんなほど若くないの!と冗談を言って、その場を立ち去った。
正直、二次会に行く元気はなかった。


少しだけ遠回りをして、駅へと歩く。
吹っ切ろうと思って参加したはずが、胸に残るしこりは重く存在したままだった。
(もっと飲んで盛り上がればよかったかなぁ)


赤信号で立ち止まる。この横断歩道を渡ったところが駅だ。
何気なく駅のほうを見たとき、私の目が見知った影を捉えた。

あれは、向井くんだ。

向井くんは私より五年後に入社した後輩。
私が初めてトレーナーをつとめた後輩でもある。

(みんなと一緒に二次会に行ったと思ってたのに。どうしたんだろう)

信号が変わったと同時に駅に向かって歩き出す。
すると、向井くんも私に気づいたのか、私のほうに向かって歩いてきた。
必然的に横断歩道の真ん中で対面することになり、私はちょっと信号を気にしながら、どうしたの?と尋ねた。
向井くんの頭越しに信号が点滅するのが見えた。


「行きましょう」


向井くんは突然私の手を取り、私が元来た方向、つまり駅とは逆方向へ歩き出した。


「え、ちょっと…」


「危ないから、早く」


信号は再び赤に変わり、横断歩道上をたちまち車が行き交う。


「すみません、急に。でも、少しだけ俺に付き合ってもらえませんか?」


彼の目は真剣で、だから何か深刻な悩みでもあるのかと思い、私は思わず頷いていた。

----------


すみません、またまた続く。