◎ 例えば、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」についても、その中にある恋愛感情自体はそんなに価値あるものでもない。こうした感情を経験した人は世の中に無数にいる。

 

 しかし、これを文学作品として不死なるものへと昇華すれば、この感情は大きな価値の光を放つようになり、また、それは、人々への大いなる愛へと昇華されてゆくのである。

 

 これは本当に不思議な現象である。このゲーテの恋愛感情自体は本能的な愛であるし、それが執着の愛となって苦悩を生んでいるものでもあるから、決して天国的なものともいいがたい。

 

 しかし、これを哲学的洞察と美しい詩的表現力で芸術作品に昇華すれば、これを不死なるものへと昇華すれば、それは崇高なる愛へと転化してゆくのである。

 

 

 

◎ この働きは、どろ沼の中に蓮の華を咲かせるようなものかもしれない。どろ沼と見えし感情も、それを詩と哲学によって、文章によって、不死なる作品として昇華せしめれば、それは一変して、蓮の華のような、光明に輝く「美」なる価値の光を放つようになるのである。

 

 

 

 

 

 

 

   by 天川貴之

(JDR総合研究所・代表)