『舟を編む〜私、辞書つくります〜』

今年の2月から10回に渡ってNHK BSで放送されたドラマです。

出版社『玄武書房』が、
中型国語辞典『大渡海(だいとかい)』を刊行するまでのお話です。

主役はファッション誌の編集部から辞書編集部に異動させられた、岸部みどり(池田エライザ)

不本意な人事異動に落胆していたみどりが、
いつしか言葉の持つ意味の大切さを知り、

辞書編集部の馬締(まじめ)たちとともに辞書づくりに奮闘していきます。

馬締役はRADWIMPSのボーカル・野田洋次郎が務めています。


2013年には、松田龍平と宮﨑あおいの主演で映画化されました。


映画では松田龍平演じる馬締(まじめ)と、

宮﨑あおい演じる香具矢(馬締の のちの妻)の二人を中心に物語が進んでいきます。


2016年にはノイタミナ枠でアニメが放送されました。

オープニング曲に岡崎体育の「潮風」を持ってくるだけあって、注目度の高いアニメだったと記憶しています。


映画に対してアニメ版は馬締とその同僚 西岡が軸となっていました。

映画もアニメもとても良い作品でした。

そして今回のドラマは先に述べましたように、

辞書編集とは全く関わりのない仕事をしていた、岸部みどりにスポットを当てています。

映画では、当時はまだ影の薄かった黒木華が演じていました。

一冊の辞書をつくるまでには10年以上の年月を要します。

電車の中や通りすがりの人々の会話、移動中で見かけたお店の貼り紙。

生活のそこここから言葉を拾い集め、言葉の持つ可能性を調べ尽くします。

「ヤバい」「エモい」といった若者ことばに対しても、
受け流すことなく真剣に取り組みます。

辞書の重量、持ち運びのしやすさを考慮するため、
文字数やページ数、イラストのスペースを制限しつつ、
いかに十分な説明を表記できるかを検討します。

索引の言葉がひとつでも抜けていれば、たとえ印刷に回す段階であってもやり直しになるのです。

また、ページのめくりやすさを重視し、紙の質感にも試行錯誤を繰り返します。

言葉が人の心に、人生に、どのような影響を与えるのか、このドラマの登場人物は皆、あらゆる言葉の深さを熟知しています。

もうひとつ、ドラマと映画・アニメとの異なる所は時代背景です。

ドラマは2017年から現在まで、つまりコロナ禍を絡めています。

新しい言葉イコールすぐに消える言葉、という概念から

当初は辞書に掲載しないとしていた、「コロナウイルス」「パンデミック」「ロックダウン」などを、

事実の出来事として記録に残すため、掲載に踏み出しました。

少し前まで男女に限られていた「恋愛」の語釈からは、
「男女」の言葉は省かれました。

「死に至る」と表現していた「癌」も、医学が発達した現代に合わせて語釈内容を変更しました。

そういった作業を何年も積み重ねて、中型国語辞典『大渡海』が刊行され、やがて物語は幕を下ろします。


魅力的なキャストの面々。

映画で主役を務めた松田龍平もサプライズ出演しています。

登場人物のセリフの一語一語が琴線に触れ、全話を通して毎回泣かされました。

映画・アニメ・ドラマ、それぞれが違ったアングルから捉えた作品で、それぞれが素晴らしい出来ばえです。

BSでの放送は終了していますが、いずれ総合テレビでの放送もあるかも知れません。

よろしければ機会を見つけてご覧になってください。

言葉の海、それは果てしなく広い。
辞書とは、その大海に浮かぶ一艘の舟。
人は辞書という舟で海を渡り、自分の気持ちを的確に表す言葉を探します。
それは唯一の言葉を見つける奇跡。
誰かとつながりたくて、広大な海を渡ろうとする人たちに捧げる辞書。
それが大渡海です。