脚が震えてしゃがみ込んでるボクの横に立って、そっと下を窺ってる姿は、落ち着いた表情と態度のせいか、すごく頼もしい。
ただそばに居てくれる、それだけのことがすごく嬉しい。きもちが、あったかくなっていく。
そろそろと立ち上がり、背中にそっとしがみつく。くっついていると、なんだかホッとする感じ。安心、する。
ボクの方は見ないで、お姉さんは下を覗き込んだまま、しがみついたボクの背中を、後ろ手に軽くたたいた。心配ない、って言われたみたいで、ゆっくりドキドキがおさまっていく。
……だけど。
「ガキ一人見てられないなんて。誰が一人にしていいなんて言ったのよ」
木の下から聞こえてきた声に、今度は胸がチクチクと痛んだ。
「しょうがねぇだろうがよ。クルマで漏らされちゃ堪んねぇしよ」
「だったら一緒に入ればよかったじゃないの。……ったく、余計な手間掛けさせてさ。ホント信じられない」
言い合いをしている人たちは、みんなよく知っている人たちで。
とうさまの農園で働いていたひとたち。それに……タニヤ。
かあさまがいなくなって、独りきりにはできないからととうさまがつれてきたボクのお世話係。
いつも、身の回りのことをかたづけるのを手伝ってはくれてたけど。あんまり話したことはなかった。
なにも話さないし、笑わない。
ただ仕事で一緒に居てくれただけで、どんなひとなのかもよく知らなかったけど。
あのひとがこんなに話してるのを聞くのは、ほんとうにはじめてだったけど。
できることなら、知らないままでいたかったな。
傍にいてくれたのは、わずかな間で。とうさまが連れてきたひとだから、こんなことになるなんてちっともおもわなかった。
おかねのために、誘拐されるなんて。
郷里じゃ手が出なかったから、そう言って泊まってるホテルからボクを連れ出して。車でずいぶんたくさん移動したから、ここが一体どこなのかもさっぱりで。……もう、とうさまにもあえないのかな……。
心細くて、でも涙は出なくて。自分でもどうしたいのか、よく、わからない……。
ボクらが上からのぞいているのには気づかないまま、ちょっとの間言い合いをしてから、タニヤたちはあちこちバラバラに歩きだした。
何だかまだブツブツ言ってるひとも中にはいて、ケンカはボクが見つからないのが原因みたい。
木の下からタニヤたちがいなくなってしばらくしてから、お姉さんは木の幹によりかかって大きくため息をついた。それから頭を撫でてくれて。