「いたか……?」
「いや、まだ……ああクソッ。なんだ此処は!」
ふと耳をすませば、今ボクが逃げてきた方から、声が聞こえてくる。ガサガサと草を掻き分けるような音と一緒に、怒ったような口振りで。
抜け出したことが、もう、見つかったんだ!音はまだ遠い感じだけど、此処にいたら、すぐに見つかって、捕まって……もしかしたら、一緒にいるからってお姉さんにもひどい事されるかも……っ。
「に、逃げなきゃっ。……掴まっちゃう……早くっ……」
思わずお姉さんにしがみついて口走ったけど。ちょっと驚愕しただけで、不思議そうにボクを見返してくるだけ。あぁもうっ、なんでこんな大事なときに言葉が通じないんだろうっ。
と、お姉さんが顔をあげ、その表情が動く。ボクが出て来た方を睨んで、ちょっと耳をすますみたいな仕草をしてからまたボクを見て。少し考えるみたいに首を傾げたあと、一つ頷くとボクの手を掴んで大股に歩きだす。
お姉さんにとってはちょっとした早歩きでも、ボクにとっては小走りみたいな早さで。転ばないように気をつけながら必死でついていく。
いくらも歩かないうちに立ち止まったのは、大きな石がいくつもつんである場所。一番大きい石には、なんだか模様みたいなものが彫ってある。
そして、お姉さんはそうするのが当たり前みたいにその石によじ登り始めて。石の上からボクの手をひっぱって引きずり上げる。
平たい場所に立たせてからまた先に登ってまた手をひっぱって。あっという間に地面が遠くなっていく。……今落ちたら絶対怪我しちゃう。もしかしたら死んじゃうかも……。
クラクラしちゃうくらいにうんと遠くなった地面をゆっくり見ているひまもなく、今度は後ろから腰のあたりを抱え上げられてすぐ横の木に押し上げられた。
腕を伸ばせば届くくらいの高さの位置に、幹が枝分かれしてちょうど立てるくらいのスペース。なんとか取りついてようやくそこまでよじ登ったボクのすぐ後を、あっさりとお姉さんも登ってくる。……それはもう、あっさりと。
ボクの立っている場所のすぐ横に出ている長い枝に取りつき、鉄棒を登るみたいに身体を引き上げて。片足をかけてひょいと立ち上がった。そのまま支えもなしにすたすたとボクの横に歩いてくる。……枝の上を。
ものすごく慣れた感じで、当たり前みたいにまっすぐ。
信じられない。
枝に脚をかけてよじ登るとき、チラッと下着が見えちゃったことなんかよりも、息も乱れてなくて普通な表情なままなことの方が、もっとずっと。