李子君(ジジュン・リー)のコーチであり、中国女子シングルの代表コーチでもある

李明珠女史へのインタビュー記事。

かつてキャロライン・ジャンも師事した李明珠コーチは、インタビューの中で

日本選手や外国選手にも言及しており、なかなか興味深い内容になっています。




~李明珠コーチの李子君への評価~


2012-2013シーズン、国際競争のプレッシャーが高まる中、

中国女子シングル期待の星である16歳の李子君(ジジュン・リー)は

国際大会でシニアデビューを果たした。

グランプリシリーズ2戦はいずれも好演技で、5位、4位と結果を残し、表彰台にあと一歩と迫った。

そんな愛弟子の演技に対し、中国フィギュア女子シングルの代表コーチである

李明珠コーチは、「とても満足している」とコメントしている。

また彼女は、李子君の将来に対しても綿密な計画を立てている。



(記者) 君君(=ジジュン)はシニア一年目のために、どのような準備をしましたか?


(李コーチ)


「私達が当初かかげた計画と目標は、まず難易度の高いジャンプを安定させること。

その次に、プログラムにおける表現力を磨くことです。

今シーズンは、君君のシニアデビューとなる年なので、彼女の表現スタイルを保ちながら

更にアップグレードしていく必要がありました。

選曲はかなり難しかったです。最終的に、「ダーク・アイズ(黒い瞳)」と決めた時も

彼女がこの音楽を十分表現できるかどうか、少し不安でした。

普通に考えると、君君の年齢はこの曲にふさわしいと言えますが、彼女の特徴は「Sweet」。

逆に言えば、動きにメリハリがなく、見栄が足りないです。

そのため、彼女にとって、この音楽は少々難しいと感じました。


実際始めてみると、それほど悪くはなかったですが

それでもまだ音楽を完璧に表現できているとは言えません。

彼女は、試合のリンクでまだ少しシャイですね。

例えば、中間のダンスの部分。彼女の指先や目には、まだパワーが足りません。

テクニカルの面は、私達で何とかする事も出来ますが、表現力は自分で磨くしかありません。

そして君君は爆発力を持つタイプではないため、私はこの一年、

メインのトレーニング内容に「スピード」を課しました。

曲の解釈が乏しいのに、スピードまでなかったら、とてもつまらないです。

姿勢や動きがまだ十分良いとは言えない彼女にとって、スピードは重要です。」



(記者) 李子君の試合での好パフォーマンスは、皆さんに嬉しい驚きを与えましたね。


(李コーチ)


「練習の効果からみると、君君は私の要求を満たしたと言えますが、

更にワンランクレベルアップするには、かなり大きなプレーシャーがあります。

競争相手の選手が強すぎます。韓国のキム・ヨナも戻ってきたし、

浅田、タクタミシュワ、コルピなど、表現力が非常に高い選手もいます。

彼女達は、たとえ技術要素を3つ以上失敗しても、試合に勝てる選手です。

また、クリスティーナ・ガオやロシアの若い選手のように、テクニカル面で強い選手もいます。


しかし君君は、少なくとも難易度と安定性の面では、相手に負けていないと思います。

日本と中国のそれぞれのGPSで、君君は技術点ではSPとFS共に3位となりました。

ライバルと比較すると、現在の君君の弱点は、演技構成点と技術加点です。

特にジャンプの質に差があります。

フィギュアスケートの一つの特性として、トップレベルの選手、例えばキム・ヨナ選手などは

技術要素が成功したら大きな加点がもらえます。


君君がNHK杯でのフリップジャンプに、1.2の加点をもらったことは、大変嬉しいですが

これからは、よりジャンプやランディングの安定性と質を向上させる必要があります。

君君は腰周りが弱いので、特にランディングに注意しなければなりません。

今までの彼女の演技構成点は5点台多かったですが、去年はほとんど6点台となり、

7点弱の時もありました。今後は常に7点台が出る自信を持っています。」



(記者) あなたと中国スケ連が女子シングルに力を入れてきた努力とその成果が

李子君の好成績に出現れていますね。これからも李子君のレベルアップは順調に行くと思いますか?


(李コーチ)


「李子君にはまだまだレベルアップの余地があると思います。ただし、プレッシャーも大きいです。

様々な困難があり、オリンピックまで気が抜けません。

私がここに(中国)に招聘され、コーチとして働きだした当初は、このまま引退するだろう

と思っていた選手、例えばキム・ヨナ選手などが、また戻ってきました。

これは私にとっても大きなプレッシャーです。」



(記者) 陳露(ルー・チェン)以降、中国女子シングルには世界に通用するトップレベルの選手が

いなかったですね。コーチのあなたにとって、李子君は優秀な新人選手でしょうか?


(李コーチ)


「君君は良い選手ですが、まだいくつか問題点を抱えています。例えば、彼女の腰とフリーレッグは

かなりゆるいです。歳を取ると伴い、自らのモチベーションも重要になります。

自分がどうすれば勝てるか、自分の弱点がどこかなどを知らないとだめです。

その自覚を持った上で、コーチの指導を理解し、実行しなくてはいけません。

若い選手にとっては難しいことで、特に優秀な新人が少ないチームの場合、

困難は更に増します。


日本の場合、若くて優秀な選手がとても多いので、自分が努力をしないとすぐに順位が落ちます。

しかし演技が良くなければ、見る人もいなくなるので、そういった厳しい環境こそが

選手のモチベーションを高め、潜在能力を引き出すことができるのです。

中国の場合、全然違いますね。競争がそんなに激しくなく、李子君以外に優秀な選手が少ないです。

彼女は、海外の試合で受けた刺激を国に戻ったらなくしてしまいそうです。


普段の練習で、私が最も重視しているのは、スケートの質、そして細かい部分まで注意を払うことです。

選手たちも分かっているので、疲れてやる気がなくなっても、目標を達するまで

ちゃんと練習を続けます。


試合をするにあたり、練習量はかなり需要な部分だと思います。

また、練習とは、どんな部分も重要であり、おろそかにすることはできません。

君君はとても賢い子ですが、たまに不注意な時もあります。

しかし全体的に見れば、彼女は成長しました。以前よりもっと集中力がつきました。」



(記者) :2013年の李子君はどの試合に出る予定ですか?どのようなアレンジメントがありますか?


(李コーチ)


「ワールドスタンディングのポイントを獲得するために、1月10日からラトビアで行われる

国際B級大会(Volvo Open Cup )に参加する予定です。

この大会に、ヨロッパの選手がたくさん出ますが、私達は初参加です。

B級大会に参加する選手は、基本的にポイントとミニマムスコア獲得のため参加します。

その後は、四大陸と世界選手権に出る予定です。李子君にとっては、両大会とも

初めての参加となります。」


(記者) この3つの試合について、李子君にどのような結果を期待しますか?


(李コーチ)


「前回のNHK杯ではSP3位、FS4位、総合4位とう良い結果が出せました。3位とも僅かな差でした。

それもミスがあっての点なので、彼女にはまだまだ潜在能力があることを示しています。

もしクリーンに滑れれば、もっと良い結果が出るはずです。

普段の練習では、彼女のクリーン率はかなり高いです。

彼女が四大陸で両プロともノーミスで滑ることを期待しています。

NHK杯も、もしクリーンに滑っていれば、3位になった可能性もありますしね。」


(記者) GPSでは、君君は難しい技を成功させたのに、簡単なところに失敗しましたね。

やはりまだ若いので、経験不足なのでしょうか。


(李コーチ)


「そうですね。彼女は中国杯で3-3を成功させましたが、ほとんど失敗したことない

ルッツとフリップジャンプを転倒してしまいました。やはり試合の経験不足のせいだと思います。

3-3が成功するとすぐ興奮状態になり、その後失敗すると、また萎縮してしまいます。

それは、若い選手が必ず経験する道ですね。

また、彼女だけではなく、3-3が成功した瞬間は私も興奮状態に陥ってしまい

ルッツの転倒が全然予測できなかったです。それもコーチの私にとって良い勉強になりました。


試合前にもっと細かい準備をしなければなりません。

成功した場合、失敗した場合、それぞれに対する対策が必要です。

試合中はどんなことが起こってもおかしくないです。

一つ一つの試合で、成功しても、失敗しても、次の試合のために経験を積んで、

もっと細かい準備を整えなくてはいけません。


実はCOCの試合直前、彼女の3T-3Tの成功率が低くなっていたので、少し刺激を与えました。

私は「他の要素はどうでもいい、3T-3Tが成功すれば、賞金をあげるわよ!」と言いました。

しかしまさか3-3が成功して、他の簡単なジャンプが失敗するとは思いませんでした(苦笑)



(記者) それで結局賞金はあげたんです?良く考えると、次回からはもう

「クリーンに滑れば、賞金をあげる」作戦を使うしかありませんね(笑)


(李コーチ)

「そうですね(笑)そんなこと言って、次回また同じことをしたら、私はお金がなくなってしまいます。

まぁ、こういうご褒美作戦は、若い選手にとって、良い気分転換になりますので」



(記者) 君君は毎年身長が伸びていますが、このスポーツでは影響したりしませんか?


(李コーチ)

「君君の身長は、現在約161㎝となっています。女子シングル選手にとって

160~161㎝あたりはちょうといいと思います」



(記者) 李子君と一緒にいるうちに、あなたの練習方式も随分緩和されてきましたね。

      ( ※李コーチの指導はスパルタで有名)


(李コーチ)


「多少はね。たまには妥協したりしています。

やはり若い選手との関係がきつくなると、練習に影響してしまいますから。

多分それは、私が今までアメリカでコーチをしていた経験のおかげですね。

昔、まだ中国国内にいた頃の私は、非常に厳しかったです。言ったとおりのことをさせて

ゆとりを持たせないタイプでした。今でも、彼女達(選手達)から、厳しすぎるといわれます。


しかし、国家チーム(強化選手)に入ったからには、より高い目標を設立しなければなりません。

毎日楽しんで滑りたいだけなら、私の存在は必要ありません。

私は若い選手達にもっと自らスケートを好きになり、スケートの美しさとその意義を解ってほしいです。

ただ受動的に練習してほしくないです。

私が最初ここに来た時、選手達にいろんなビデオを見せました。

やっぱり彼女達には具体的な目標を持ってほしいです。

そして、その目標を実現するために、我々コーチと一緒に努力するわけです。



かなりしっかりしたビジョンと育成理論を持った李コーチとジジュンの二人三脚が

今後もうまくいくことを期待したいですね。



中国花样滑冰迷-0