前回のような経緯 で実現にいたった初のクリスマスデートは、これまた初めて、デートらしいデートだったように思う。

3年付き合って、まともなデート1つしてなかったのも恥ずかしい話だけど、付き合い初めからプチ遠恋&休みが合わないという状態だったアタシたちにとって、普通のデートをすることほど、物理的に難しいことはなかったのだ。




待ち合わせは、朝の10時、京都駅の隣の山科駅。
この駅の近くに彼の友達が1人暮らしをしているので、乗ってきた車を置かせてもらうのだという。

いつもは別の待ち合わせの駅からその彼の愛車で移動するのだけど、その日は大阪に行くということで、友人宅で留守番をしてもらうことにしたのだ。



先に着いたアタシは、駅前のコンビニで雑誌を読みながら待つ。
そんなふうに待ち合わせをするのも初めてで、ものすごく新鮮だった。


5分ぐらい待っただろうか……

「おはよ」

ふと、耳のそばで声がして、アタシは慌てて振り返った。
彼だった。

何かを読み始めると、すぐそれだけに没頭してしまうのはアタシの悪い癖。
この日の目的はデートだというのに、彼がコンビニに入ってきたことさえ気がつかないでいた(^^;


「あ、おはよ♪」
「待たせてごめんな」
「ううん、全然!」

アタシは読んでいた雑誌を元のラックにしまい、彼についてコンビニを出る。

「これ、早速してみたけど、どう?」

彼は、自分の巻いているマフラーに軽く触れた。
それは、1ヶ月ほど前にアタシがプレゼントしたものだった。

「あ、いいやん!!」
「似合ってる?」
「うん、バッチリ☆」
「ふふ、良かった」


彼は少し照れたような笑いを見せた。
こういう顔、ベッドの上じゃ見られないよな、なんてふと思う。

「アタシもちゃんとしてるよ♪」

今度はアタシが、自分の首元を見せる。
同じ日に、彼からもらったネックレスだった。

「おぉ、馴染んできたね!」
「うん、馴染んできたw ちゃんと毎日つけてるしね!!」


クリスマスの1ヶ月ほど前、お互いの誕生日でもない日に、アタシたちはプレゼントを交換し合った。
まさに、KinKi Kidsの「Anniversary」に出てくる歌詞そのもの、「何気ない今日という日」を、二人だけの「記念日」にしたのだ。





KinKi Kids, Satomi, 家原正樹, 安部潤
Anniversary (通常盤)


これについてのいきさつは、長くなるのでまた改めてお話ししようと思うけれど、とにかくクリスマスが嫌いな彼だから、こうやってプレゼントの交換をしたことも初めてで、ものすごく感動したのだ。

アタシがもらったのはネックレスだったため、毎日会社につけて行き、もちろんデートにも必ずつけて行っていたのだけど、彼の場合、いつも車に乗っているため、マフラーなんて必要がない。
だから、ちゃんとしてくれているのを見るのはその日が初めてだった。



電車に乗ると、さすがはクリスマスの朝、結構混んでいる。
でも、京都駅で半分ぐらいの人が降りたため、そこからは二人掛けの席に並んで座ることができた。

正直、すごくドキドキした。
普段、車の中で隣に座っているはずなんだけど、やっぱり閉ざされた空間と開かれた空間は違うらしい。
周りに人がいて、アタシたちをカップルだって認めてくれていること、それが何とも言えないくらい、快感だった。


実は彼と電車に乗ることは、以前からのアタシのささやかな夢だった。

いつも通勤で電車を利用していると、ふと思うのだ。
「ここに彼がいたらどんなにいいだろう……」と。

アタシは身体が小さいので、やけに押してくる人がいるし(こういうとこ、関西は非常に怖いです……) 、満員電車に乗ると、下のほうは空気が薄くて息ができなくなる。
実際それで過呼吸になり、気を失って倒れてしまったこともあるほど……。

また、目の前でこれ見よがしにイチャイチャするカップルが、ときどき、憐れむような眼でこちらを見てくると、なんだかとても切なくやりきれない気持ちになるのだ。
もちろん、アタシは人前でイチャイチャできる柄じゃないけれど、たくさんの人たちの中において、自分たちだけに聞こえるような小さな声でコソコソと会話をする、それだけでいいからしてみたいなって思ったりしていた。

(彼以外の人となら、そういう機会に割と恵まれたりするんやけどねぇ……)


でも、お互い車を持っているし、プチ遠恋ゆえ、車を使わないような遠出をすることもまずない。
だからきっとあり得ないだろうと諦めていた。

それだけに今回の出来事は、アタシにとって降って湧いたような幸運だったのだ。



京都から大阪まで、新快速だと約30分。

最初の15分ほどは、彼といろいろな話をコソコソっと(笑)した。
だけどその後、やはり彼は寝てしまった。

まぁ、彼が朝10時に山科駅に着くためには、おそらく8時前に家を出ているはず。
休みの日なのに早起きをさせてしまっているのだから、眠くもなるのも無理はない。
そう考えると、一層愛しく思えた。



大阪に到着すると、オープンしたばかりのヒルトンプラザ(WEST)ハービスENT を巡り、食事をしてウィンドーショッピングをした。

これも実は、アタシの憧れだった。

普通のカップルならきっと当たり前のことなんだろうけど、“昼間にゆっくりと会えること”がめったにないアタシたちにとっては、ウィンドーショッピングでさえあり得なかったのだ。
「これ可愛いね~!」なんて言いながら、ぐるぐるといろんな店を回る、それだけでめちゃくちゃ幸せだった。


「あそこ入ってみよ!」

彼が悪戯っぽい眼でアタシを誘う。「入るだけならタダやしな」

そう言って、高級ブランドの店に入っていく彼。
そんな子供みたいな彼を見ていると、心が穏やかになるのがわかる。

アタシも一緒になって、「これ安いねぇ~(言うだけなら許されるから)!!」なんて言いながら、何店も巡り歩いた。


すべての階を回り終えると、アタシたちは外に出た。

「次どこ行く? どっか行きたいとこある?」
「え~、アタシあんまりわからへんよぉ。どこがある?」
「いや、いろいろありすぎるからなぁ。どこか行きたいところがあったら行くけど」
「う~ん……」

アタシが何より苦手な瞬間。
それは、こんなふうに選択を委ねられるときだ。

5分ぐらい、ずっと二人して「どうしよ」「どうしよっか」なんて言い合っていた。

「友達との待ち合わせって梅田やんな。じゃあ、あんまりここから離れないほうがいいやろうから、商店街とか行ってみよっか。俺、あそこの雰囲気、結構好きやねん」

アタシに決断させるのを諦めた彼は、仕方なく提案をしてくれる。
もちろん、異論はない。
そこへ行くことにした。


迷路のような梅田周辺を歩き回り、商店街に辿り着くと、そこには“大阪”独特の雰囲気が漂っていた。
さっきまでいたヒルトンプラザやハービスENTなどのクールでお洒落なイメージとは打って変わって、“商人”の匂いがするのだ。
彼が好きだというのも、きっとこういう感じなのだろうな、と思った。

しばらくいろいろ話しながら、商店街の端まで歩き、折り返すと、彼が急に立ち止まった。

「ん?」

アタシは不思議に思い、振り返る。

「あのさ、休憩したいって言ったらダメ?」

なるほど、と思った。
彼が商店街に行こうと言ったのは、これが目的だったんだと。
雰囲気が好きっていうのは口実で、ホテルに近い場所へいざなったのだと。

このあたりにホテルがあるってことを知っているところがまた怪しい……(苦笑)

「……いいよ」

でも結局、許してしまうアタシ(^^;
ホント言うとアタシも、朝からずっと感じっぱなしの愛しい気持ちがもう溢れそうで、彼をギュッとしたかったのだ。


だけど、やっぱりさすがはクリスマス、どこのホテルも満室で、外で待っているカップルまでいる。
アタシたちは何軒も見て周り、奇跡的に1室だけ空いているホテルを見つけた。
どうやら、少し前にお客が出て、清掃が終わったばかりの、絶妙のタイミングだったようだ。


部屋に入ると、いつも行くホテルに比べるとかなりランクは落ちるものの、思ったより綺麗だった。

ただ、ベッドルームと浴室が隣り合わせで、天井が鏡の状態でつながっていた。
つまり、角度を気をつけないと、ベッドに寝転ぶと浴室が見えてしまうのだ。

アタシたちはシャワーを浴びた後、ひとしきり、その構造をネタにして笑い合った。

そして、いつも以上に強く愛し合った……。





「ゴメン、また寝てしまった……」
「ふふ、いいよ。今日は朝も早かったしね」

「俺、いつもやなぁ、ホンマゴメン。……あなたといるとさ、なんか安心してしまうねんな」

彼のセリフにいちいちドキドキしてしまうアタシ。

「……あなた今、いくつやっけ? 24?」
「うん」
「まだ若いな」
「でもいつも歳より上に見られるけどね」
「まぁ、落ち着いてるからな。だけど、肌とかやっぱり、若いで。女の人は、肌に年齢が出るって言うからな」


そう言って彼は、アタシの胸を撫でた。「うん、やっぱり若いわ。俺も結構、肌若いねんで。触ってみ」

彼は自分の胸を指し示した。
アタシはどうしようもなくドキドキしながら、彼の胸を撫でる。

「ホンマや。若いね」
「そやろ!」

彼は嬉しそうな顔をした。
アタシ1人、こんなにドキドキしちゃってるんだろうなと思うと、少し悔しかった。



「ゴメンな、これからコンサート行くのに……。髪型とか化粧とか、せっかく整えてきたのにな」

タイムリミットが迫り、アタシが洗面所で着替えていると、ベッドルームのほうから彼の声が飛んできた。

「ううん、大丈夫。……愉しかったしw」
「うん、俺も」

良かった、と思った。
少なくとも、彼のトラウマに拍車をかけるようなことはなかったはずだ。
「いい思い出がない」と言っていたクリスマスにも、これで1つ、愉しい思い出ができたはずだ。

イベントにこだわらず、こんなふうに1つずつ、彼と思い出を作っていけたらいいな、と純粋に思った。



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