初詣、バレンタイン、クリスマスなどの行事は、恋人たちにとって、いつも以上にデートが盛り上がるものなのかもしれない。

また、お互いの誕生日や記念日なんかもそうなのだろう。

年末年始、ゴールデンウィーク、お盆休みといった長期の休みになると、二人っきりで旅行へ行ったりするのが、普通のカップルのあり方なんだと思う。


周りの友達も、この夏は彼氏と一緒に温泉に行くだの、海外へ行くだのと、とっても楽しそうに話している。



だけどアタシの場合、恋人はサービス業。
決まった日に休むことも、2連休でさえあり得ない。

だからいつも、みんなの話をニコニコと聞いているだけなのだ。


ただ、こんなアタシたちも、昨年のクリスマスだけは、奇跡的にデートすることができた!
そう、前回話したとおり 、KinKi Kidsのコンサート当日。

3年半付き合って、後にも先にも唯一のイベントデートだった。





「俺、クリスマス嫌いやし」

付き合って1年目の頃から、クリスマスの季節になると、彼はいつもこう言った。

彼女のいない男性の負け惜しみならともかく、アタシという彼女がいるにもかかわらず、どうして嫌いなんだろう……と、最初は少し疑問だった。
もしかして、自分は恋人として見られていないんじゃないか? なんて不安も頭をよぎった。

だから余計に、その真意を確かめることができず、きっと仕事が忙しくて休めないから、クリスマスなんて意味がないんだろうと解釈することにしていた。

そんなわけで、クリスマスにデートをするなんてもってのほか、プレゼントの交換さえすることはなかった。


KinKi Kidsの冬のコンサート(ここ何年か、冬コンしかないけれど……)は、大晦日前日・大晦日・元旦を東京ドームで、クリスマス前後の土日(土日じゃない年もあったけど)を大阪ドーム(大阪ドームができる前は大阪城ホール)で行なっている。

昨年は、12月25日が土曜日、26日が日曜日で、一緒に行く友達が「クリスマスにKinKiに会いたい!!」と言うので、25日にチケットを申し込み、無事当選した。

「栞ちゃん、デートとかしなくていいの? あ、でもそういうのってだいたいイヴか」
「いえ、彼氏は仕事が忙しいですし、プチ遠恋なんですぐには会えないから、イヴもクリスマスも関係ないんです。みかさん(仮名)こそ大丈夫なんですか、旦那様と過ごさなくても?」

彼女は結婚10年目の30歳子なし、今さら夫婦二人っきりでクリスマスを過ごすなんてこともないのだそう。

そうしてアタシたちは、クリスマスにもかかわらず、コンサートに行くことにしたのだ。


コンサートの1ヶ月ほど前、彼とデートをした。
街では早々と、イルミネーションが輝いていた。

「もう来月はクリスマスかぁ」
「そやな。また俺の嫌いな時期が来るわ。ま、俺は仕事やし関係ないけどw」
「アタシは毎年、コンサート楽しむよ。今年はクリスマス当日にチケット取れたし!!」
「あぁそっか。あなたはいつもその楽しみがあるもんな。いいなぁ」
「うん♪」

このときアタシは、暗にクリスマスに予定が入っているということを伝えたつもりだった。
だけど、彼にとってはあんまり関心のないことだったらしく、聞き流されていたのだ。


コンサート10日前のデート。
(珍しくこのあたり、デートの頻度が高かった)

「……あのさ、実はクリスマスの日な、珍しく、というか初めてか、仕事が休みになってさぁ……」

言いにくそうに話す彼。
さんざん、クリスマスが嫌いだと言っていただけに、バツが悪いのだろう。

「……え、クリスマスって、イヴじゃなくて25日のほう?」
「そう。当日」

その日はコンサートだってば! と、心の中で焦る。
どうしてこう、タイミング悪いのだろう。

今年に限ってクリスマス当日にコンサート行くことにしたのに……。
だったら、26日にチケット取ったのに……。

「といっても、次の日が仕事やし、毎年叔母さんがケーキを作って持ってくるから、夕方ぐらいまでしか無理なんやけど……」

ホッとした。
それならなんとかなるかもしれない。

お祖父さんが創業した会社を親戚ぐるみで経営しているせいか、付き合いの濃い彼の親戚。
彼は本家の次男ということで、少し周りから大事にされすぎているような感じがして心配なんだけど(「うちの大事な息子を!!」なんて言われないかとか……^^;)、今回ばかりは叔母さんに感謝だった。


「うん、アタシも夜はコンサート行くから」
「コンサート?」
「そう、毎年恒例のKinKiの……」

「あぁ、そうなんや……。誰と?」
「え?」

何か疑ってる?
クリスマスだから?
自分がクリスマスなんて関係ないって言ってたくせに(笑)

「……って、友達かw」
「うん、今回は生で見たことないって人を連れてくねん」
「へぇ~。何時から?」
「えっと、開場が4時で開演が6時やったかな」
「2時間も前に開場なん?」

「うん、大阪ドームやから大きいしね。昔、城ホールでやってたときは、1時間前が開場やったよ」
「あぁそうか、大きいもんなぁ。友達とはどこで待ち合わせてるの?」

「まだ決めてないけど」
「時間は?」
「それもまだ……」

    ・
    ・
    ・


そんなふうにして珍しく質問攻めに遭いながら、アタシが友達と待ち合わせる時間まで、大阪でデートすることになったのだ。


「あのさ、プレゼントとかそういうの、用意せんとってな。たまたま休みになった日がクリスマスやってだけやから」
「うん、わかってる」

アタシは苦笑する。

「俺、ホンマ嫌いやねん。別に宗教とかちゃうけど、なんかこういう世間がザワザワしてる雰囲気が嫌い。あ、でも、正月は好きやけどな」
「正月は若干でも、休みがあたるからちゃう?」
「まぁそれもあるかな。……あと、クリスマスにはいい思い出がないねんな」
「そうなん? 小さいころとか、プレゼントもらったりせぇへんかった?」

彼の家なら、絶対に豪勢な料理とプレゼントが用意されてただろうに……と思うアタシ。

「いや、小さいころとか、正直どうでもいいねん」
「もっと大人になってから?」
「まぁな。いい思い出がないっていうか、嫌な思い出があるっていうか……」
「え、どんなことがあったの?」

わざわざ思い出させるのも酷かなとは思ったけど、ここまで聞いて引き下がれるわけがない(笑)
それに、彼の言いよどみ方はどうも恋愛絡みのように思えたので、それほど彼に嫌悪感を与えるものが何なのか、ぜひ聞いてみたかった。

「あなたと出会う前に付き合ってた彼女とな、クリスマスの日に喧嘩して別れたねん。しかも2年連続で」
「え?」

2年連続で“別れた”ってどういうこと? そう思っていると、彼が補足してくれた。

「つまり、一度別れて、すぐによりを戻したんやけど、また次の年のクリスマスに喧嘩して別れたねん」
「あぁ、そういうことね」
「俺さ、自分で言うのもなんやけど、穏やかなほうやからさ、喧嘩とかあんまりせぇへんのよ」
「うん、わかるよ」


アタシたち、まだ一度もしたことないんだから……と、心の中でつぶやく。

「ただ、なんかクリスマスの日はイライラしてて、これまでにない大喧嘩して別れてしまってん」
「なるほどね~」
「それが2年連続やろ。だから俺、クリスマスの日はアカンねん」
「要するに、トラウマ?」
「……そうかも」


この人でも、大喧嘩することがあるんだ、と思ってしまう。
前にも言ったけれど 、これまで付き合ってきた男性はもちろん、友達とでさえ喧嘩をしたことがないアタシにとって、それは未知の世界の出来事。


なぜだかわからないけれど、ドキドキしてしまった。
そして同時に、彼にトラウマを作ってしまうほど深く愛されていた女性を、少し羨ましくも思った。


「じゃあ今年のクリスマスはさ、そのトラウマを打ち破ろうよ。もちろん、たまたまクリスマスに会うだけやけどね(笑)」
「うん、ありがとう(笑)」

そんなふうにして、初のクリスマスデートが実現することになった。
長くなってしまったので、デートの詳細は次回!!



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