僕は彼女を抱いているのに、彼女の心は幽体離脱している

かなたに見える元彼らしい男性の元にゆっくりと流れて近づいてゆく

やっぱり行ってしまうんだね

悲しい悲しい夢を見て、寝汗をかいたまま、僕は目を覚ました


体だけじゃ、仕方ないんだな

人間って、心を愛することしか出来ないんだな

彼女の中は暖かくて、僕は心まで溶けてしまいそうになる

一昨日は、他の男のものを受け入れたその部分は、今も同じように痙攣しているのだが

その脳裏に広がる「幸せな感情」は、一体どちらが大きいのだろうか、元彼と僕と

 「今日は中に出して・・・・・・」

 「安全日はいつから?」

 「……3日前から……」

 「じゃぁ……」

元彼との情事でも、きっとすべてを受け入れたに違いない

彼女の中にしみこんでいる元彼の体液と僕のそれが、その中で混じり合うのだ

 「ああっ・・・・・・」

僕が体を離そうとすると、抱きついて離れてくれない

 「このままじっとしていて」

 「どうして?」

 「あなたには、こうしていてほしいと思ったから」

きっと元彼は、直後にタバコをふかし始めたのだろう

僕はそのとき、彼女の中にずっと居たいと思った 


 彼女から電話がかかってきた

彼女は少し緊張した声で「行ってきました」というと、黙ってしまった

「どんなだったの?」

「言えない」

沈黙が僕たちを包み、電話の向こうでは彼女の息遣いが少し荒いのがわかる

前彼と彼女のデートを想像して、僕も少し興奮してしまっていた

「感じてる?」

「……うん……」

「僕もだ」

「……うん、貴方としたい……」

彼とどんな事をしたのか、彼にどんな事をされたのかはわからないけれど

彼女は今、僕を欲しているし、僕も彼女を欲しがって熱くなっている

「何も言わなくていいよ」

「うん、ありがとう」

前彼がどんな事をしようとも、彼女の中には誰にも変えられない部分が

すでに構築されているのを実感したし、それが僕との付き合いの中で

いつの間にか出来上がっていたことに僕は安堵したのだ

「気持ちは、良かったの?」

「……うん、感じたよ……でもね、蕩けてしまうようじゃなかったの」

「そうか、お疲れ様」

「うん、早く貴方に癒されたい」

開発が進んだ女体であるから、感じないということは有り得ないが

心の中に拘りがあっては、なかかな<身も心も>にはならないのだろう

僕はちょっとだけ優越感に浸りながら、でも、前彼が施した性的技術に

少なからず興味を覚えていた

「聞きたい?」

「うん、少し聞きたいな」

「……やだ、今度逢ったときに、ね?」

手の届くところに彼女が居ればこそ、その話を聞きながら興奮も出来るが

電話の向こうとこちらに別れていては、抱きしめてあげることも出来ない

「じゃぁ、今度逢ったときにどんなだったか聞きながら、してあげようか」

「あん、いじわるぅ……」

僕はいつもより早めに電話を切って、なかなか静まらない下半身を

妄想の渦の中に埋め込んでいった

それぞれに恋人がいる僕たちの恋にも、ときたま波風が立つことがある

二日前に、彼女との電話の最中にかかってきたキャッチホン

「・・・ご、ごめん。 きらなきゃならないみたい」

「なんだぁ、彼からの電話かぁ」

翌日、僕はもう一度驚かされてしまうことになる

「昨日の電話ね、前の彼氏だったの……」

彼女には「前の彼氏」と呼べる男が3人いるのだが、一人だけ切れていない奴がいたらしく

たまに電話をかけてきて他愛もない話をしているのだそうだ

暇をもてあましているときには、それぞれの恋の話とか、昔、愛し合った頃の話をして

懐かしんでいるらしいのだけれど……それだけなのかな?

「その人、来月が誕生日で、前に私があげたプレゼントをまだ持っていてくれていて……」

やけに饒舌である  そしてソワソワしている

「いつ合うことにしたんだ?」

「……あした……」

「するのか?」

「……わからない、けど……」

けどってどういうこと?

「したいのか?」

「私は別にしたくはないけど……」

けど、どうだって言うのか?

「彼がしたいって言ったら、そうなっちゃうかも……」

「判っていて、逢う事にしたんだろう?」

「だってぇ……」

どんなことをどんな風にするのだろう、その男は

彼女のどこをどうすればどうなってしまうか、知り尽くしているのだろうか

それとも昔のままの感度だと思っているのだろうか?

だとしたら甘いかもしれない

「彼ね、今独身なの」

僕たちだってそうじゃないか?

「前には結婚していて、でも別れちゃったんだって……」

「寂しがっているなら私が慰めてあげようか? って言ったんだろう?」

「そんなこと言わなかったけどね、でもね、逢いたいよぉって言うんだもん」

「僕のことも知っているの?」

「うん、言ったけど……」

「君の人生は君のものだから彼には関係ない時間があって良いんだ、とか言ったんだろう?」

「えっ、どうして判るの?」

「君は映画とか見ないのかい? 臭い口説きの台詞によくあるフレーズだってばさぁ」

「で、したいの?」

「わかんないよぉ……」

「じゃぁ、ちゃんと報告してね、どんなことされてどんな風に燃えたのかまで、ちゃんとね?」

「……はい……」

仕方のない女だけれど、これも彼女の個性なのかな

今彼とのデートの話はたくさん聞いたけれど、前の彼氏のことははじめて聞くことになるので

まるで新しいピンク映画の封切を待つエロ爺になった気分ではある

明後日は僕とのデートなのだが、それまで僕は我慢し続けるんだな、辛いな

いつだってそうなんだけど、僕の夢は自分でもびっくりするくらいナマナマしくて

昨夜は自分でも興奮してしまうほどエッチだったみたい。


彼女からの電話の最中に寝オチをしてしまったらしく、僕は彼女の声を聞きながら

暖かな彼女に包まれている夢を見た。


「何度でも、していいからね」


そんなに何度もできるわけがないのに、僕はそのたびに元気になって彼女に挑む

最中のことはすっぽり抜けるのに、最後の瞬間の気持ち良さだけがいやにリアルで。


「もしもし、もしもし」


電話の向こうで彼女の声がイラついている。


「私の声を聞きながら、夢でも見ちゃったんでしょう?」


ズバリ当たっているし。


「眠いなら寝ちゃいなさい」


「いや、まぁ、うん、また明日ね」


僕は下半身の熱さを抱えて、それから暫く眠れなかった。なんてこと。