ルビーと海へドライブ
7月の週末、すっかり梅雨も明けて太陽も高く昇ってジリジリと焦げ付くような日差しになっていました。
私はキャミソールワンピとヒールのないサンダルとカゴバックと言うすっかり夏の格好になりました。
今日は浜辺をワシワシ歩くつもりなのでヒールはダメです。
そこは自分で決めたルールです。
そして待ち合わせに駅の北口にいます。
この駅で待ち合わせすることが多くなりました。
JRと地下鉄、ローカル線の総合駅なので人が溢れかえっています。
待ち合わせの時間は10時半ですが、少し早く来すぎてしまったみたいです。
じっとしていると汗がじんわり出てきてしまうのでハンカチで拭き取ったりしています。
5分ほど前にお婆さんに道を尋ねられました。
よくあることです。
どうも私は老人に大人気のようです…。
私は彼が迷ってしまわないように、北極星みたいにこの場所にじっと佇んでいます。
待っている時間はドキドキします。
約束の時間ぴったりに彼の青いminiが現れました。可愛くてお洒落で素敵な車です。
私はいつものように駆け寄って「早く会いたかった」と言いながら助手席に乗り込みます。
すると彼は少し照れながら「僕も」と言ってくれます。
そうすると私の胸はなんだか一杯になってくるのです。
今日は海までドライブする事になっているのです。
海って大好きです。
波の音がよく聞こえる波打ち際をギリギリに歩くのが大好きです。
そんな事をぽーっとしながら考えていると「また何か想像してるの?」といたずらっぽく言われてしまいます。
そして私が赤面してしまうのを見るのが彼は好きなようです。
ちょっと意地悪ですが、そのくらいの事なら私は構いません。大丈夫です。
今日はお昼頃までに海まで行って、美味しいと評判の海鮮丼を食べる計画です。
以前から行ってみたかったけれど、今日まで行けなかったお店です。
彼から「今度ここに行ってみない?美味しいらしいよ?」と言われた時は目を輝かせて「行く!」と言っていたようです。
私はよく覚えてないのですが、彼はそう言っていました。
実を言うと、以前同じように海までドライブデートをした方に海辺のイタリアンレストランと、この海鮮丼のお店とどっちに行きたいかと尋ねられたので私は迷わず「海鮮丼で!」と正直に言ったのですが、その方はイタリアンレストランに行きたかったようでなんだかムッとされたことがありました。
結局、その方の行きたかったイタリアンレストランに行ったのですが、満席でその上待っている人の列もあって、お店の人に聞くと待ち時間は2時間ほど、とか言われ、もうお腹が限界だったのでその辺のお店に入りました。
親しみやすい和食のお店で私は気に入っていたのですが、その方はなんだかバツが悪くなってしまったようで、その後はあまり喋らなくなってしまいました。
全く楽しくないデートでした。
そんな事なら最初からイタリアンレストランに行けばいいじゃないですか。
わざわざ私の意見を聞いて試すような事されて…私だって気分悪かったです。
よって、二度目のデートはなかったです。
隣で運転している今度の彼は、そんなことはありません。
お互いのいいところで決着をつけてくれます。
変な駆け引きもしません。できないんでしょうね。
とっても分かりやすくて安心できます。
私には、それくらい分かりやすい人の方がいいみたいです。
それに、食の好みは似ているので、あまり意見が違うこともないんですね。
とても、優しくて、誠実で、笑顔がキュートな彼です。
「前から思ってたんだけど、いつも同じ指輪してるよね」
今日も私の右薬指にはフリマで買ったルビーの指輪がちょこんといます。
この指輪に出会ってから、なんだかいい事が起こるんですもの。
出かける時はいつも着けてしまいます。
でも、そんなことは彼には内緒にしています。
だって、教えてしまったらこの魔法が解けてしまいそうだからです。
「自分で買いました。可愛かったから」
それだけしか言いません。
彼は「ふーん」とどこか何か言いたげな感じの返事をいつもします。
他の男に買ってもらったとか思っているんでしょうか。
そんな事するわけ無いじゃないですか。
そんな事を言ったら私だって、どうしてあの日ダイアモンドのルースを落としてしまったのか謎のままです。
今日は聞いてみようと思います。
「そう言えば、私達が初めて会った日、どうしてダイヤモンドを落としちゃったんです?」
私の不意打ち的な質問に彼は少しむせてしまった様です。
「いや、あれはね。母の指輪をリフォームに出して、そう、母の指輪をね。デザインが古かったから、えっと…」
私の彼は嘘がとても下手です。
「嘘ですよね?それ」
人生は直球勝負がいいですよね!
「う…じ、実はね。僕、婚約してたんだよ」
「えええ?!そうだったんですか?」
「そう。正直に言うけど、何もなかったら今頃結婚してたんだよ」
なんだか雲行の怪しい話になってきましたよ?
「あの…結婚していた訳ではないんですよね?え?まさか今もしてるとかですか?え?え?まさか、これって…ふ…ふり…」
頭の中ガクガクブルブルになって、「そうだよ」とか言われたら、ドアから飛び降りてしまいそうです。え…。
「ち、違うわっ!」
そうですよね。そんな器用な人に見えませんでしたもの。
「何かあった訳ですね?」
「…そう。彼女が昔の彼が忘れられなかったみたいで式の1か月前に振られたんだよ。ははは…それで婚約指輪と結婚指輪がいらなくなっちゃったから、あの商店街の質屋に売りに行ったんだよ。そしたら、お店の人にまだ新品だから、ダイヤだけ残しておいたらどうかって言われてね。あの日リフォームって言うのか、受け取り日だったわけなんだよ」
「え、でも、それで、なんで落としちゃったんです?」
「ちょっと見てみたくなって…」
「ば、馬鹿ですね!」
私の頭の中では何十枚の福沢様が風に吹かれて空高く舞い上がって、半べそをかいて空に向かって両手を伸ばしているおっちょこちょいな彼の姿が浮かんできました。
運転しながら一瞬だけ私の方を向いた顔は、情けない顔していました。
「う…あんなところで開けなくてもねぇ」
「でも、何だかすごい…ショック!」
「え…それは、どういう意味のショック…なのかな?今すごいほじくり返されて抉られてショックなのは僕の方なんだけど…」
そんな事さらっと言われたのも、ちょっとショック…。
ああ、だからダイヤモンドだったの?
え?婚約指輪を解体したってことなの?
暫く私の頭の中は婚約指輪が工事現場で解体される映像でいっぱいになり、軽くパニックになりました。
でも、私は思ったんです。
私は正直なので正直に思ったように彼に言いました。
そうですね、人生は直球勝負がいいです!
「その彼女が振ってくれて良かった!じゃなかったら、私、あの日きっと一人で街を歩いて、ダイヤも拾わずに、あなたにも会えずに、お礼のケーキセットも頂けずに、きっと今も部屋で一人でダラダラ過ごしてると思います!」
「僕もきっと、あの日君にダイヤを見つけてもらえなかったら、すごく凹んで、廃人になってかたも!そうだね、振られて良かった!あの日ダイヤを見つけた君は天使に見えたよ、本当に!」
「天使だなんて!恥ずかしいですよ」
「あはは。でも本当にそう思ったんだもんな」
そんな事を言いながら、少し赤面した私と彼はニコニコ顔で笑いながら、スーパーポジティブなんだと思いました。
彼を振ってくれた彼女に感謝です。
あれ?これでいいんですかね?
いいんですよね!
今がとても楽しいのですから!
今が一番大事です!
海までもうすぐの所でカーステレオから聞き覚えのある曲が流れてきました。
ワクワクして半分開けた窓から潮風とともに曲が流れていきます。
What's your name? Does it really matter?
Will your name make me love you more than I do?
They have found me in you. Who are you? Tell me...
「この曲、私大好きです。でも曲名とか分からなくて。なんて言う曲なんですか?」
I wanna know your name. What's your name?
Time is right. Please don't fight. You will get to know me.
Face the reason while we're here. So don't be afraid.
You know when and you know why. Love comes quickly.
「僕の名前は…」
「私は…」
あの日、自己紹介をしながら、話が弾んで行き先もなく1時間も歩いた事を思い出しました。
「リオン・ウェアの What's Your Nameって曲だよ。僕もこの曲大好きだよ。初めて会った時、オーディオ専門店からいい音で流れてたよね。なんだか、自己紹介していたあのタイミングに what's your name? ってさ、ぴったしな感じで、すごく覚えてるよ」
彼はこの曲を知っていて、好きだったんですね。
それに、私と同じように覚えてたんですね。
信号が赤になって車が止まりました。
「あの、ひとつ気になっているんだけれど」
「なんですか?」
「そろそろ敬語で話すのやめてくれないかな」
そう言うとほっぺにチュっとされました。
そんな事するような人には思ってなかったので、また胸がドキドキしてきました。
「はい…うん。なんて言えばいいんですか?」
困ったように私が言うと、彼は笑いながら
「無理しなくてもいいけどね。可愛いから」
と、言ってくれました。
信号が青になって車が走り出すと海が見えてきました。
太陽に照らされてキラキラ輝いて、まるで私たちみたいにニコニコ笑っているみたいです。
私は運転する彼と、その後ろに眩しく光る海を目を細めながら見つめて、きっと、この後も楽しいことがいっぱいあるような、そんな予感を胸の奥でこっそり感じていました。
おわり
こういう妄想嫌いじゃないですwwwwwww
むしろ好きwwwwwww