ロード化し迫るノワールと迎え撃つアテナ。
「せりゃああぁぁーーッ!」
「つぁあああーーッ!」
白き守護女神と黒の暗殺者の死闘。
赤い満月の下、神聖なる力と禁忌の力がぶつかり合い1時間と50分
だが、その闘いも終幕に近づく。
「はぁ・・・はぁ・・」
アテナも息が上がってきた。
苦しそうに肩を上下させ喘ぎながら酸素を求める。
対するノワールの表情からも余裕が消え、焦りを伺わせる。
何度目かの銃声が響き、それを弾く金属音。
右腕はへし折られ使い物にならないが、それでも左腕で銃を乱射しアテナの追撃を妨げる。
消耗しきった彼に狙いを定める余裕は無かった。
無数の弾道を回避し、白き守護女神は進む。
この時点でアテナの優勢に思えた。
「・・・いかない・・」
ノワールが何かを呟く。
再び彼の赤い目が彼女を捉えた。
アテナは、その殺気立った視線で、彼の全てを感じ取った。
両親も居ない戦争孤児だったノワール。
あのまま飢え死ねば幸福だったのだろうか?
天使の施しなのか、悪魔の悪戯なのか、彼は協会で保護され、そして戦闘教育の中で育てられた。
生きることの代償に、その小さな命の外界は閉ざされ、ただ協会の駒として・・・
使命だけが、彼の存在意義なのだろう。
だから、彼は強く思うのだ。
生きるために
「負けるわけにはいかないッ!!!」
「くッ!」
彼の放出された赤き翼の魔力に、アテナが押し返される。
彼女も太古の神、ゼウスが作り出した闘う為の存在。
トロイア戦争、ギガントマキアーと数多くの戦争で勝利を収めた闘いの女神。
そして、いつしか父ゼウスがロードとなり、皮肉にも今度は父を倒す使命に生きなければならなかった。
しかし、その目的は紅蓮の王によって果たされ、使命に生きた彼女は全てを失った。
その虚無感の中で出会ったノワールの気持ちを、彼女は誰よりも理解していただろう。
彼女も使命の中で生きてきた言わば、彼と同じ駒だったのだから。
「解るよ、君の気持ち。
闘いの女神、ゼウスの娘、上位神族と色々持ち上げられるが、私も所詮は駒だったからな。
使命を失うのがそんなに怖いかノワール。」
「俺は・・・消えたくない・・」
なるほど・・・
「死にたくない」んじゃなくて、「消えたくない」んだな。
私も使命の中で生きてきた時は、同じコトを想っていたのかもしれない。
自分の存在意義を示す為に必死だった。
与えられたことに喜びも達成感もなかったよ。
ただ、自分という存在を失うのが怖かったから、使命にすがっていたんだ。
お前との闘いで私はそれに気付いた。
「なぁ、ノワール、一つ聞いてもいいか?」
「・・・?!」
無言で血走る眼に彼女は続けた。
「お前も、私も・・・一からやり直すことは出来ないのだろうか?」
「ッ!?」
彼が小さく反応した。
公園で駆け回る子供、そして母に迎えられ、友達に「また明日も遊ぼう」と約束する日常。
外界に出る度、何故、自分には母も友も居ないのだろうと、考えることもあった。
誕生日なんて知らない・・・
クリスマスなんて要らない・・・
お祭りなんて行きたくない・・・
そんなの、無意味じゃないか?
何をそんなに楽しく笑えるんだ?
俺には、家族なんて・・・
・・・
要らないハズなのに・・・
「うるさい・・・」
彼の声は次第に大きくなり
「うるさい・・・うるさい・・
うるさい、うるさい、うるさい、うるさいッ!」
感情を高ぶらせる彼を見て、この状況では不謹慎と自覚はしていたがアテナは微笑を浮かべた。
正直、嬉しかったのだ。
例え相手が自分を殺しに来た殺し屋、協会のキラーマシーンだとしても。
今まで、これほどまでに自分と共感できる価値観の持ち主に会ったこともなかったのだから。
「私も負けるわけにはいかないな。
私にはもう使命はない。
だが、今度は自分の為に、この世界で生きてみたい!」
「なんだと!?」
「今まで、私も使命が全てだと思っていたよ。
でも、お前と闘うことで気付くことが出来た。
私も、お前も・・・もう一度やりなおせる!
使命の為じゃなく、組織や種族の為でもなく、自分の幸せの為、そして、いつしか出会うであろう大切な誰かの為に生きることだって、まだ出来る。」
「黙れ!」
「黙らない!
お前は閉ざしているだけだ!
私達に足りなかったものは、ただ一歩を踏み出すだけの勇気なんだよッ!
だから、私がお前を倒し道を示す!
来い、ノワール!」
二人の魔力が最大限に解放される。
これが恐らく最後の一騎打ち。
「アクティベート、コード、ウラヌス!」
最初にノワールが仕掛ける。
この呪文が恐らくノワールの切り札。
そして、アルカナウェポン「双銃タルタロス」の真の能力!
ガシャン! と音を立て空間がガラスの様に砕け散る。
そして、その割れた空間から姿を現したのは・・・
「まったく、容赦ないなキミは・・・ウラヌスか。」
アテナが大きく溜め息を吐いた。
それは、あらゆる神々の死骸の集合体。
宙を浮く巨大な骨盤。
その骨盤には刃の様に鋭い無数の突起と赤い目が二つあり、そして目のない頭が口を開けてぶら下がっている。
切り離された巨大な腕も宙に浮いているが、どうやら本体の意のままに動くらしい。
骨盤の上に鎮座する人の足が2本だけ生えた馬の様な6つ目の頭。
その馬頭の上に、不敵に笑う目のない顔がある。

それが、アテナの見たグロテスクな化物の感想だ。
「グォオオオオオーーーッ!」
ノワールの呼び出した化け物が雄たけびを上げると、地面を突き破り周囲に無数のクリスタルが出現する。
「うおおぉぉおおーーッ!」
アテナも負けずと叫び、ウラヌスを従えるノワールに迫る。
「殺せ、ウラヌス!」
ウラヌスが伸ばす巨大な手を掻い潜り、50m、30m、10mと距離を縮める。
自然とアテナには力がみなぎってきた。
消耗しきった身体を動かす活力は、ただ「この世界で生きたい、そして、同じ苦しみの中で生きてきたお前に道を示してやりたい」という想いだけだった。
「モノリス召還!」
ノワールが左腕を振り上げると、六角形の巨大な水晶の柱(モノリス)がアテナを阻む。
「くそッ、地形を操る能力かコイツ!」
「いいや、それだけじゃない。
そいつはタダの足止め、俺のタルタロスの本当の能力は・・・」
ノワールがアテナに銃口を向ける。
モノリスが障害物となり銃弾は届かない。
しかし、銃口の弾道が重なるとアテナを赤い光が包んだ。
「アルカナを開放したタルタロスに銃弾は要らない。
『弾道に存在する対象を、ウラヌスが感知し爆破させる』それが、この銃の能力だからな。」
「なッ!?」
ウラヌスが雄たけびを上げると同時に凄まじい爆発がアテナを包み込んだ。
