「怒ること、あるの?」

とか、

「怒ってる所、想像つかない」

とか、よく言われるのですが、

怒ることは、わりとよくあります。

 

こどもに対する犯罪であったり、動物への虐待であったり、

そういうニュースを読んだ時は、怒りで、それをしたかもしれない人に対して、ものすごく冷たくなってしまいます。

よく知りもしないのに、まだしたと決まったわけでもないのに、よくないことだな、と頭ではわかっているつもりなのですが、

怒りに振り回されて、冷静な判断ができなくなっているのだと思います。

 

日常で、ということになると、そこまでの怒りを感じることはまずありません。

正直、ほぼ怒ることはないと言っていいと思います。

ただ、唯一の例外が、夫です。

結婚して5年ほどは、「え?なにそれ?」と思うことが、時々ですが、あって、

でも、私は声を荒げたりはせず、むしろ黙ってしまい(考えているのです)、

その後、

「もう一回言ってみてくれる?」

だったり、(どういうことなのか正確に把握したいのです)

「それってこういうこと?」

だったり、(私の受け取り方が合っているのか確認したいのです)

話し合いを提案するので、

何というか、いわゆる「怒っている人」の感じではないのかもしれません。

 

5年ほどは何か言い返してきた夫も、

6年目くらいからは、私が何かに納得していないのだということに気づくようになって、

即座に、

「はい、すいません」

と謝るようになってしまいました。

「もういいってこと?」

と聞くと、

「大丈夫です」

と返ってきます。

最初は、「大丈夫じゃなくて、どういうことか聞いてるのだけど」と、話し合いを続けようと試みたのですが、

話し合いをするまでもなく、夫が譲歩しようと思ってくれたのなら、そこはありがたく譲ってもらおうと思うようになりました。

 

そしてこどもたちに、

「お前らはママの恐さを知らないんだ。

 パパはママに会うまで、じいじのことが世界で一番恐かったけど、今は世界で一番ママが恐いんだぞ。」

と言っては、ケタケタと笑われていました。

夫はいつも恐妻家気取りで、なんだか人聞きが悪いからやめてほしいんだけどなぁ、と思うのですが、

夫はそう言いながら私を尊重してくれるので、優しい人なんだと思います。

 

 

 

こどもはこどもですから、

こちらの期待通りに動くわけがないと思っています。

ですので、変な期待はしませんし、

とにかくかわいいので、基本的にはかわいいだけでもう十分です。

泣く所もかわいいので、泣く姿を「かわいい〜」と動画に収めていたら、

元々あまり泣かなかったこどもたちが、より泣かなくなってしまいました。

ファンサが足りません。

そうなのです、子育て、犬育ては、推し活みたいなものなのです。

推しがしあわせだとうれしい。

推しの笑顔のために、課金もいっぱいしたい。

夫と二人、どころか、一族総出で、日々推し活に励んでおります。

ですが、一般的な推しと違って、この推しには、教育、しつけをしなければなりません。

メッセージを強めに伝えなければいけない時もあります。

 

息子が初めて私に叱られたのは、私の母におもちゃを投げた時だったと思います。

硬くて、かなり重さのあるおもちゃで、母がケガをしなかったか、心配になるほどのものでした。

一度目は仕方ないけど、もうやめさせなければなりません。

ですが、幼い息子は悪気もなく、言ってもなかなか理解できません。

母は「痛いよぅ〜、やめてよ〜」とやさしく言うだけで、絶対に怒りません。

(母は、私のこどもたちが何をしても、「何か理由があるのよ」と、絶対にこどもたちを叱らない人でした)

コロコロと笑い転げるかわいらしい息子。

でも、いくらかわいくても、かわいいからこそ、私がしっかり伝えなければなりません。

「ダメ」

目を見て、強めに腕を掴み、わかったと思えるまで離しません。

子育てで大変だったことって・・・と思い返すと、

こどもたちが病気でつらそうだった時と、この「叱る」という行為が、私の「2大つらかったこと」だったと思います。

しんどくて、叱りながら、「どうして話すだけで伝わらないのか」と、叱るたびに泣きました。

 

 

 

 

人を育てるためには、何かを伝えたり、伝えなかったり。

何もかも見せればいいわけではなくて、与える情報を、こちらで選ばなくてはなりません。

 

こどもたちを安心させるために、嘘もたくさんつきました。

体調が悪くても。

夫と揉めていても。

母が亡くなっても。

息子が手術を受けた時も。

 

また、叱ることに疲れて、外注しようとしてついた変な嘘もあります。

「鬼さんから電話がかかってくるんだよ」

 

「あれは変だったよね(笑)」

と、大きくなった二人に笑われましたが、私はもう、自由すぎる息子をどうしたらいいかわからず、いろんな術を調べては息子に試していたのです。

その間も、何度もSAPIXをやめようと提案します。

SAPIXさえ行かなければ、宿題をやらないことも、授業を抜け出すことも、叱らなくて済むのに!

(ちなみに、息子は叱っても無駄だということに気づくまで、10年以上かかりました。

 叱っても、本当に、何も変わりません。

 怒られることを全く気にしていないので、「怒られるのが嫌だから」という動機づけは、彼にはあり得ません。

 一時的に、おそらくは私への優しさで、多少変わってみせてはみますが、その程度のことです。

 私の怒り方が足りないのかとすごく悩みましたが、SAPIXでも、「6年生でも泣くくらい叱りましたが、顔色一つ変えませんね」と言われた通り、どんなに叱っても、一切響きません。

 やっている私の方が、傷ついてボロボロになってしまいます。

 夫にもやってみてもらいましたが、夫だとほぼ何の影響力もありませんでした。

 夫でもダメなのだから、いわんやサピの先生をや。

 「先生って、そういうお仕事なんだもんね」

と言われた時には、

「違うよ!先生のお仕事は、お勉強を教えてくれることであって、

 怒ったりするのは、あなたがちゃんとしてれば、しなくていいことだからね!!!

 だから、叱ってもらえなくなって見捨てられても仕方ないんだからね!!!」

と言いましたが、息子は、

「ふうん。じゃあなんであんなことしてるんだろう?」

と不思議そうな顔をしていました。

もういやや…悲しい

 

 

 

 

気を取り直して、子育て中の嘘と言えば、特大の嘘がありますね。

クリスマスが近くなると、多くのご家庭で、パパやママは本気の芝居人です。

あれはわが家ではわりと早々にバレ、

(私が、クリスマスもうちにいられなかった夫へのサンタ業務報告連絡を削除し忘れたためです)

娘が本音を言いかけましたが、

息子が制止して、娘を私から離れた所に連れて行き、

「それ言っちゃうと、サンタさんの枠がなくなって、プレゼント減っちゃうから(ヒソヒソ)」

「うん、わかった!(ヒソヒソ)」

と打ち合わせをしてから、私の前に出てきて、

「サンタさんが来てくれるのたのしみだね〜ドキドキ

「ね〜ドキドキ

と白々しく声を揃えていたのが、かわいくて忘れられません。

クリスマスは、こどもたちもお芝居が大変です。

 

 





(サンタさんのために淹れていたミルクティーは、私がおいしくいただきました)





(「この写真……ママ、サンタさんに会ったの!!?」滝汗「マズい!消し忘れた…!!」)

 





 

小さい嘘、大きい嘘、楽しい嘘、本当はつきたくなかった嘘。

こどもが小さい時、その子の周りは、たくさんのあたたかい嘘で溢れています。

そして、まだ知らなくていい現実から守られ、やさしい夢を見られます。

 

息子が中退することになった、最後の運命の歯車も、そんなやさしい嘘でした。

 

 

 

 

息子が「課題が出せないなら、進級時にコースが下がることになります」と言われてしまった、

その年度の最後の面談の前に、

先生からお電話を頂戴しました。

通常は、先生と保護者の二者で行う面談なのですが、息子も同席させて、色々と一緒にお話がしたい、とのご提案でした。

そして、

「あの、もう一つご提案なのですが、もしよろしければ、そこで、

 『課題を出せなければ、コース落ちする』と伝えてみるというのはどうでしょう・・・」

とおっしゃったのです。

本来、コースはテストの点数で決まるものなので、おそらくはこのまま一番進度の早いコースで進級できるだろうけれども、

(というか、課題を提出しないがテストの点は取る、という生徒さんが、今まではいなかったのだそうです。

 課題は出して当たり前です。)

コースの判定基準は生徒には伝えられていないので、そう言われれば、信じて課題をやるのではないか、という目論見です。

 

先生にそんなことをしていただくのは本当に申し訳なかったのですが、

息子に課題をやらせるためには、もうそのくらいしか、本当に策がなかったので、

最後の望みにかける気持ちで、お願いすることにしました。

 

 

 

そして、面談。

コース落ちするという話は嘘なのに、それでも先生が泣いていらっしゃったのは、

こんな提案をしなければならないくらい、お優しい先生を追い詰めてしまったからなのだろうな、と、

私も本当に心苦しくて、

息子がわかってくれることを、文字通り祈りながら、息子の隣で泣いていました。

 

 

 

 

学校創立以来初めてです、と言われてしまった、問題児の息子。

結局私と先生の作戦は失敗に終わり、息子は課題を出さず、

テストの点数は、コースを維持する点数をクリアしてしまいました。

 

 

 

そうなると、考えられる選択肢は3つです。

 

1 嘘だったことをバラし、コースを維持したまま進級

2 嘘は隠したまま、「課題を出さないならうちに戻れ」といった約束を反故にして、コースを落とし、進級

3 嘘も隠したまま、約束通り退学

 

 

いっそのこと、テストの点で落ちてくれればよかったのに。

そんなことさえ思います。

ここで私が3の選択肢を選んだら、先生はどれだけ責任をお感じになられるでしょう。

でも、私は、筋を通すことを選びました。

例え始まりが嘘だったとしても、約束は約束です。

それに、課題を出さなくてもコースを維持したまま進級できることになっていたのは、

課題を出さなくてもいいというわけではなくて、

今までは課題を出さなかった子がいなかったために、そういう基準がなかっただけだと思いました。

また、コースを落として進級することが、息子にとって何らかの責任を取る意味になればまた違ったと思うのですが、息子はコースについて全く意に介しておらず、進級できるならどこでもいい、という感じだったので、これではコースを落としても、何も責任を取ったことにならない、という感じでした。

 

 


そして選んだ、退学という選択肢。

先生はやはり、「こんなことになってしまって・・・」とすごくご自分を責めていらっしゃいました。

できる限り、そうではないということ、

こんな嫌な役回りを買って出てくださって、息子のことを本気で考えてくださって、感謝しかないということをお伝えしましたが、

それでも、ずっと先生の記憶に残ってしまうのだろうな、とそれがとても心配でした。

 

 

 

 

ですので、息子が無事高校受験を終えた時、

「ねぇねぇ、先生にご連絡しようよ」

と言ってみました。

 

こういう息子ですから、高校受験、最後までギャンブルみたいな感じで、本当に大変だったのですが、

息子が上がるはずだった高等部の偏差値より、ほんの少し偏差値の高い学校に入学することができたので、

「きっとさ、心配して下さっていると思うからさ、ご報告したら、安心していただけると思うんだよ。

 大学受験、上手くいくかどうかわかんないんだからさ、今言っといた方がいいって」

というと、

「いや、今じゃない。大丈夫、大学受験の後、連絡するよ」

と言います。

 

えーーーーー、大学受験が上手くいくビジョンが全く見えないんですけど!

 

 


 

仕方なく、私は、ついに、私と先生の密約について、息子に打ち明けました。

 

「えっ、そうなの?ぼく、上がれたってこと??」

というので、

「うん、まぁ。。。でもさ、課題やらないって、ありえないから!!!

 

 でも・・・やっぱり上がりたかった・・・?」

 

 

 

私だって、あれでよかったのかという思いは、ずっと引きずっています。

 

中学受験、めずらしくがんばっていた息子、

合格発表で喜んでいた息子、

楽しそうに通っていた息子、

やめると伝えた時、「やめたくない」と泣いていた息子、

思い出すと、今でも選択を間違えたのではないかと、ものすごく不安になります。

 

でも、それでも、あそこで、約束をなあなあにしてしまうわけにはいかなかったのです。

 

 


 

すると、

 

「んーーーーーーー、まぁ、でも、こっちもこっちでよかったよ!

 こっちの中学もたのしかったしね!

 毎日犬たちと遊べるし、ママのごはん、おいしいし照れ

 

と返ってきました。

 

 

 

軽い……。

 

 

 

まぁ、そう思えたなら、よかったんだけどさ。

でも、軽すぎて、何も学習していない気がして、一抹の不安を覚えます。

あれだけ大騒ぎしたのに、

どこにいても、この子はこの子なんだよな。。。

 

 

 

「とりあえず、そういうわけだから、早く先生に連絡しようよ!」

と言うも、それでも、

「いや、まだだな」

と言います。頑固者め!

でも、まだ学校にいる(当たり前ですが、みんな学校に残っています)お友達と連絡を取っていました。

 

 

誰か、先生に、息子が無事に高校生になれたことを伝えておくれ・・・!

この通りです・・・!!!m(_ _)m