倉ー美の日常は恥辱にまみれている。 -37ページ目



薄暗い店内。
お洒落っぽいBGM。
真っ青な飲み物を口にしながら彼女は言う。

なんか最近刺激ないよねー

うん。あたしもそう思ってた。
今日あなたと合流する前までは。

これまで29年間、それなりに生きてきて、それなりに揉まれてきて結構逞しくなったと思う。
ちょっとやそっとのことじゃ動じないし刺激とも思わない。

でもね、どんなに人生揉まれてきた人間でも富士山が急に消えたら驚くよね。

まさにそれ。

彼女との出会いは2年前。
初対面のあたしに

男という男を喰いつくして少し胃もたれした。

と言い放った彼女。
鮮烈な出会いだった。
峰不二子もビックリな豊満かつセクシーな肉体を武器に、次は女を喰おうとしてた。

いやいや。胃もたれした胃にはちょっとキツいんじゃない?さらに炎症とか起こしちゃうんじゃない?

切々と語り、何とか喰われまいと必死にあたしは逃げた。

意外と素直に聞き入れた彼女は、再び男を喰いに夜の街へと消えていった。

あの日から早2年。不定期ではあるが飲みに行って彼女の男話を聞いている。

そんな彼女が、だ。
…いや彼女の、か。

そんな彼女の富士山が消えた。

先月まではあった富士山(推定Gカップ)が、忽然と姿を消した。
跡形もなく消えて、富士山の跡地には、誰しもが幼い頃作ったであろう砂場の山(推定Aカップ)がある。例の棒崩しをした砂場の山だ。

なんで?なんで?
もう、我が目を疑うってこのこと。

前に飲んだ時に彼女は

重力って考えものだよね。
確かに重力のお陰で生活できてるんだろうけどさー
胸(富士山)を垂らすのは余計だよね。
さらに歩いたり、走ったりすると揺れるからね。尚更だよね。
なんとかならないかなー

と、巨乳ならではの観点で重力に文句言ってた。居酒屋の個室でほぼ胸を出した状態で言ってた。いや、あれは全部出てたな。


でね、つい先日、別の友人がお尻の骨を折ったわけ。
友人曰く、

いつの間にか折れてた

そんなもんなの?お尻ってそんな脆いの?
というか……

いろんな憶測が脳内をよぎったけど、それはまた別の話。

その尻折友人が痛みの走るお尻を庇いつつ、そーっと歩いてた。

能かな?能なのかな?っつーくらい上半身微動だにしない歩きっぷり。
どっからか尺八の音が聞こえてくんじゃねーかぐらいの能っぷり。
あたし吹こうか?
リコーダーくらいならなんとかいける。ピロロロ~くらいならいける。

そうやってピロロロしてる時に思った。彼女に教えてあげようと。
重力に抗う方法は能だった。日本芸能だった…と。


必要なくなってた。

ジャックスパロウもビックリなパイレーツになってた。
どっちかっつーと今の彼女の胸はジャックスパロウ好みで、以前の胸はウィル ターナー好みかな。

そんなことを考えてたせいでタイミングを失った。聞くタイミングを。

あれー?どっかいっちゃったー?どっかいっちゃうもんなのー?

と、会った直後に聞ければどんなによかったことか。
既に彼女と合流して1時間。

絶対に聞けない。今更聞けない。
でも言いたい。
あたしの目は彼女の胸に釘付け。

ジャックスパロウならどう斬り込んでいくかしら。
語尾に だっちゅーの を付ければ自然かしら。

そんなこんなしてる内に

ねぇ、聞いてる?

やっべー聞いてなかった。完全に聞いてなかった。

彼女の表情、超真剣。
将棋指してる時の羽生善治名人の表情よりも真剣。

どう思う?

やっベー、わかんない。切り返し方が全くわかんない。

そういえば、ちょっと前に

あたし、実は…

みたいなこと言ってたなー
あと、

…なんだ。

みたいなことも言ってたなー

これはもしかして、深刻な打ち明け話とかあったりした感じ?
それに対する感想求められた感じ?

ピンときた。
彼女の表情と彼女(胸)の状況とを合わせると、まさにあたしが1時間悩み続けたことの答えを彼女は言ったんじゃないの?そうなんじゃないの?

あたし何やってんだよーそこちゃんと聞いとけよー


とりあえず早急に感想を求められてる。崖っぷちまで追い詰める勢いで凝視されてる。片平なぎさか船越英一郎かっちゅうくらいの勢いで追い詰めてきてる。グイグイきてる。

うーん、どうなんだろうね。人それぞれだから…

絞り出した。当たり障りない返答。残り少ない歯磨き粉並みに絞り出した。

でも、目ってちょっとでもいじると印象変わるじゃん?やっぱいじらなきゃよかったかなー

あー
あー
あー
胸の話じゃなかった。
目の話だった。しかも1週間前にいじってた。いじりたてだった。鮮度がよかった。
そこ全く気付かなかったよー
というか、そこどーでもいいよー

胸だよ、胸。
胸の印象のほうが変わりまくりだからね。

はい。未だに聞けてません。
今はただ、彼女の胸がまた富士山に戻るタイミングを待つだけです。

人生揉まれる為には、揉む土台が必要です。
そこであたしはまた一つ成長するでしょう。