乗りかかった船と申しますか

毒食わば皿までと申しますか

 

途中やめにするのもなんなんで

もう一度だけメルヘンして終了します

 

 

 

翌、1985年6月30日 日曜日、待ち合わせの場所から北へ車で二時間ほど走った田舎の町で、友人の結婚式がありました。私の役割は、私と同じ街に住む主賓夫妻の送迎です。披露宴が予定通りに終われば、約束の時刻には楽に間に合うはずでした。

ところが、田舎の披露宴、進行表は有って無いようなもの。次から次へと親戚縁者が繰り出す余興・芸が続きます。

これはもう間に合わないかも知れない。退席しようか、でも、主賓夫妻を送って行かないといけないし。愛か、友か、迷いに迷った末、愛を決断したそのとき、それまで延々と続いていた披露宴が終わました。


急いでいる私の様子に奥さんが気づき、昨日のことを話しました。すると奥さんは「まあ、ロマンチックなお話ねえ。このお花、持ってお行きなさい。きっと、喜んでよ」「前の車、遅いはねえ、抜いちゃいなさい」などと、さんざん煽ります。

ただでさえ昂っている気持ちを、さらに熱くさせます。途中、スピード違反で捕まったりもしましたが、その当時はそういうことも可能だったのでしょう、ご主人は県議会議員で、フリーパスでした。


急ぎに急いで、やっとの思いで近くまでたどり着きました。でも、約束の時刻はもうすでに過ぎています。

路上に車を乗り捨てて、花束を手に約束の場所まで走りました。

彼女は待っていてくれるだろうか、いやそれ以前に、そもそも来てくれただろうか。約束とは言っても、名前も連絡先も知らず、明日、この時刻に、この場所で、たったそれだけのものでした。その言葉に彼女が軽くうなずいてくれた、少なくとも私にはそう見えた、ただそれだけのことです。


100メートルばかりを走り、角を曲がり、時計台のその先にある昨日の店の入り口に立つ、彼女の姿を見つけたとき、私はそのときの歓びを、今でもはっきりと憶えています。




              Hello // Luther Vandross