最高評価は⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️です。

 

 

大川小学校の悲劇をめぐるルポルタージュ。東日本大震災後に多く語られた心霊現象にも、深く切り込んでいる。綿密な取材と緻密な論考を重ねた大変な労作。

にもかかわらず、どうして295P~298Pのような紋切り型の主張を、スルリともぐり込ませてしまうのか。著者がどのような思想信条の持主であろうと、別段構わないが、この部分は本当に本著に必要なものなのか。

この4ページの結論を得るためには、少なくとも本著と同程度の密度と分量を持った取材と論考が必要なのではないか。それを抜きにして、いきなり著者の思想信条を開陳されても、お仲間はいいとして、それ以外の者達は引いてしまうだけだ。その他、どこで聞きかじったのか、「東北」についての記述にも、首をかしげざるを得ないところがまま見受けられる。   

                    
本著本体の論考が実に精緻で見事なだけに、また、決して後戻りの許されない凄絶な現実に激しく心をゆさぶられただけに、それだけに、それだからこそ、一体なぜなんだ、と唐突に飛び出す安易で雑駁な決めつけに唖然とし、著者の頭の中のバランスは、どうなっているのか、と訝る。この点、訳者あとがきで、やんわりとエクスキューズめいたことが述べられているだけで、出版までに誰か指摘する人間はいなかったのか。
              
編集者の責任は極めて重い。優れた著作であるだけに実に残念なことだ。